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内村鑑三『代表的日本人』に思う

 先日、内村鑑三の名著、『代表的日本人』を読む機会がありました。出版されたのは1908年(元々は1894年だが、改訂版としては1908年)。日露戦争にも勝利し、日本が世界におけるプレゼンスを高めつつあったころ、海外に日本を紹介する本として英語で書かれた本です。新渡戸稲造の『武士道』、岡倉天心の『茶の本』と並び、日本人論の名著としても知られています。
 内容は、内村がリスペクトする偉人5人を取り上げ、その生涯や思想を追ったもの。その5人とは、西郷隆盛、上杉鷹山、二宮尊徳、中江藤樹、日蓮で、このラインナップから、内村の考え方も見て取れるという興味深い読書体験となりました。

自己犠牲の精神

 この本で取り上げられている人たちに通底するのは、自己を犠牲にし、他人のためにとことん尽くした人ということです(日蓮だけは特殊な気がするけど)。そこで挙げられているのが、親への孝行(中江藤樹)やリーダーとしての徳(上杉鷹山)など、儒教的な考え方を強く持っている人。その中でも、陽明学の「知行合一」(認識と実践は不可分であるという意味)を尊重しているように感じられます。(儒教について、朱子学もあるのですが、朱子学については、現代において、やや悪影響が残っているのではないかと私は感じています。そちらの記事がこちら)https://note.com/newchaosprince/n/nc4cf8815c81a

 また、同時に「利他」についてもこの本で意識されていて、西洋起源の近代経済学では、個人とは自身の効用を最大化する存在として描かれているが、自分が極貧生活を送ってまで他人に尽くそうとするような二宮尊徳のような人は想定しえないのではないかと感じます。
 現代において、「利他」に関する研究が進む中、こうした人たちが代表的日本人として紹介されているのは興味深く思いました。(ちなみに、「利他的な」を意味する英語は"altruistic"らしいけど、初めて聞いた…)

明治維新の英雄 西郷隆盛

 明治維新の立役者といえば、坂本龍馬、桂小五郎、高杉晋作、勝海舟…などなど、様々な名前が上がりますが、特に人気が高いのが西郷隆盛なのではないでしょうか。代表的日本人の中では西郷隆盛について、「最高に人道を重んじる人物」として、武士の仲間たちの思いを組み、その代表として立派にふるまったみたいなことが書かれています。おそらく、現代での人気もそれゆえなのでしょう。
 一方で、西郷の征韓論については、「朝鮮側が無礼を重ねたためであったとした上で、西郷の言動は天の法に則った行動である」と記述していて、正当化する要素もみられます。また、この本には江戸城の無血開城については書かれているのに、戊辰戦争については触れられていません。朝鮮や奥羽越列藩同盟のように、敵と見なす勢力には厳しい態度で臨んだのも西郷の特徴ではないかと感じました。

阿らない宗教者 日蓮へのまなざし

 この本のラインナップで異彩を放っていたのが日蓮です。儒教的な考え方というよりも、多宗派への排他性と自身への厳しさが内村鑑三のツボにはまったのではないかと感じました。
 鎌倉時代は浄土宗、浄土真宗、時宗、臨済宗、曹洞宗と「鎌倉新仏教」と呼ばれる各宗派が勃興した時代。その中でも日蓮は自身の教えこそが唯一の正しい教えだとして、排他性を強めます。仏教における宗派はそもそも神仏習合の風習からもわかるとおり、寛容さが一つの特徴だとも思っていたのですが、日蓮だけは別。自身の身を危険にさらしても他宗派を攻撃し、僧侶にも関わらす死罪を言い渡されるほどの強い自己をもっていたことが内村にヒットしたのでしょう(結局、刑は執行されず、佐渡に島流しになったけど)。つまり、ほかに流されず、自身を貫く日蓮の姿が内村のキリスト教への態度と重なったのではないかと想像できます。特に、著書の最終版で書かれる「゛闘争性を取り去った日蓮〟こそは、われらの理想の宗教家である。」という一文はまさに、自分に厳しく、自分の教えをとことん貫くという日蓮の姿に心打たれた内村の真意なのだろうと感じました。

今回は固い文章になってしまった…

 先日、仲間たちと「代表的日本人」について読書会をやったのだけど、そこで共有した感想とかそれを踏まえての自分の思いとかをどこかに置いておきたくて、一気に書いてしまいました。それゆえ、いつもよりもかなり固い文章となってしまったこと、お許しください。
 こうした読書体験はいつも自分に何かを与えてくれます。本を読むこと、意識しないとついつい後回しにしがちだけど、いろんな本を読むことで自分を磨き上げていきたいと感じています。

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