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ベンチャーキャピタリストのキャリアパスと報酬制度

今回は、ベンチャーキャピタリストのキャリアパスについて、お話しします。

キャピタリストの大半が中途採用。以前のキャリアは?

現在のところ、新卒採用を行っているベンチャーキャピタルは大手など数社に留まります。業界自体がこの10年で拡大したこともあり、まだまだ多くのベンチャーキャピタルが少数精鋭でファンドの運営を行っているため、新人を採用して育成するよりも即戦力の採用が主体になっています。

このように、キャピタリストの大半が中途採用を通じてベンチャーキャピタルに入社しているわけですが、バイオ領域のキャピタリストの場合、入社前のキャリアは概ね以下の通りに分類されます。

  • 製薬会社出身者

  • コンサル・投資銀行出身者

  • 親会社からの出向者(金融系ベンチャーキャピタルやコーポレートベンチャーキャピタルの場合)

製薬会社出身者の場合には、研究開発部門出身が大半を占め、サイエンスの目利きに優れるとともに創薬の経験と知識を持ち合わせています。

また、研究開発部門を経た後に経営企画や事業開発、コーポレートベンチャーキャピタル部門を経験し、経営や財務に関するスキルセットを学んだ方が多いのも特徴です。

逆に、コンサル・投資銀行出身者の場合には業務上、一通りの経営や財務関連の知識、スライド作成やエクセルのスキルを持っていることに加え、クライアントとして製薬業界を担当していたり、大学時代にサイエンスを専攻していた方が大半です。

そして、ここ十年ベンチャーキャピタルの数が大きく増える以前から業界をけん引してきたのは、銀行や証券会社などによる金融系のベンチャーキャピタルです。これらのベンチャーキャピタルでは今でも銀行や証券会社出身の方が大部分を占めています。

加えて、近年新しく設立されたベンチャーキャピタルにおいても、金融系ベンチャーキャピタルで経験を積んだ方が独立をし、マネジメントを務めるようなケースがほとんどです。このようなこともあり、ベンチャーキャピタル業界全体としては、金融系のカルチャーであると言っても良いでしょう。

なお、学生が新卒でキャピタリストを目指す場合には、直接の門戸としてはジャフコやSBIホールディングスなどの大手ベンチャーキャピタルが新卒採用を行っているようです。そのほか、一部のベンチャーキャピタルでは学生向けのインターンも行っています。

ちなみに、SNSを通じて私のところに直接採用をしているかの伺いを下さる学生の方も毎年数名いらっしゃいます。

キャピタリストには階層がある

キャピタリストのタイトルは、おおまかにジュニアと呼ばれるアナリスト、アソシエイトと、シニアにあたるプリンシパル、パートナーに分かれています。パートナーにはさらにいくつかの階層があります。ベンチャーキャピタル業界が成熟している米国を中心に、以下の通りタイトルごとに明確な役割が決められてます。 

アナリスト
新卒もしくは他の職でも2~3年未満の経験であり、最もジュニアな立場であり、トレーニングの位置づけです。アソシエイトの指示のもと、市場調査や財務分析など多くの作業を行いますが、ディール(案件ストラクチャーや契約書交渉など投資実行に関わる業務)における役割は限定的です。
 
アソシエイト
コンサルや投資銀行、製薬会社などの経営企画、事業開発などでジュニアとして経験を積んでいる必要があります。アナリストに指示を出し市場調査や財務分析などを取りまとめる立場であり、プリンシパルやパートナーの指示のもとで、ディールについても関与します。また、投資後の経営支援においても実務を担います。
 
プリンシパル(ディレクターと呼ばれる場合もある)
ジュニア(アナリスト・アソシエイト)の役割を一通り経験し、一握りの優秀な人材が昇進するポジションであり、パートナーを目指す位置づけです。ディールについて主体的な役割を果たすとともに投資案件を管理し、投資先の社外取締役にも就きます。
 
パートナー
ファンド組成に関わり、組成後にはファンドを管理する立場です。投資判断を行い、プリンシパル同様にディールに関わるとともに投資先の社外取締役に就きます。
 
ジェネラル・パートナー/マネージング・パートナー
ファンドに自己資金を拠出するとともに、パートナーの中でも実務上・管理上より重責を担う立場です。ファンド組成、最終的な投資決定、人事、投資先企業の取締役会などに時間を割きます。

一方、日本の場合には人数的な制約もあり、ここまで体系的に役割分担をしているベンチャーキャピタルはほとんどありません。ベンチャーキャピタル内での経験や前職での経歴を鑑みて、主体的にディールソーシング、デューデリジェンス、投資実行、経営支援を行える能力がある場合にはプリンシパル以上(プリンシパルかパートナーかについては、これまでの投資案件の実績や前職での役職を考慮して決まります)、そうでない場合にはアソシエイトとすることが多いように感じます。

通常は一つの投資先につき、ジュニアとシニアが1人ずつバディを組んで役割分担をしていることが多いですが、階層化するほど人数が多くないベンチャーキャピタルでは、シニアポジションであってもジュニアの役割までこなすのが通常です。一方、ジェネラル・パートナーやマネージング・パートナーは、そのベンチャーキャピタルの社長や代表取締役などの立場にある方が就きます。
 
少し派生した業務形態では、ベンチャー・パートナーとEIR(アントレプレナー・イン・レジデンス)があります。ベンチャー・パートナーは投資先のハンズオン支援のプロフェッショナルとしてハンズオン支援のみに関わり、ディールソーシングなどは行いません。

EIRはキャピタリストとしての役割を果たしますが、いずれかのタイミングで投資先ベンチャーに経営陣として転籍します。ゼロから起業する場合と異なり、ベンチャーキャピタルから給料をもらいながら起業する案件を探すことができますし、ベンチャーキャピタルとしてもその人の能力や人となりを把握した上で投資先の経営陣に据えることが可能です。

キャピタリストの報酬は3種類

キャピタリストの報酬は、ベース、ボーナス、キャリーの3種類に分かれます。ベースとボーナスについては他の業種と同じく、固定給と各年度の賞与を指します。キャリーは正式にはキャリードインタレストと呼ばれ、ファンドの投資成績に応じて支払われる報酬です。
 
ベースおよびボーナスはファンドの管理報酬から支払われ、キャリーは成功報酬から支払われます。こちらの記事で解説したように、一般的には毎年の管理報酬はファンド総額の2%、成功報酬はファンドの元本の超過リターンの20%です。例えば、100億円のファンドであれば、毎年の管理報酬として2億円が運営費として充てられ、この中からキャピタリストへのベースとボーナスも支払われます。

成功報酬については、100億円を200億円に増やすことができた場合、元本超過分の100億円のうち、80%を投資家に分配し、残り20%にあたる20億円がベンチャーキャピタルに残ります。この20億円の一部を今後の運営のためにベンチャーキャピタルに留保し、残りがキャリーとしてキャピタリストに付与されることになります。
 
それでは、気になる報酬水準ですが、いくつかの転職エージェントのサイトなどではベース+ボーナスの年収について以下のようなレンジで示されています。

キャピタリストの年収水準

一方、キャリーの割合については各社でブラックボックスとなっていますし、その内容も大きく異なるようです。米国の場合には、一般的にジュニア層にはキャリーは支払われない、もしくは非常に小さな割合に留まり、シニア層にあたるプリンシパル、パートナー、ジェネラル・パートナー間でも傾斜がかなり大きいようです。

キャピタリストのキャリアパス

キャピタリストとしてベンチャーキャピタル内で昇進していくケースと外部に新たなキャリアパスを求めるケースとがあります。ここでは、ベンチャーキャピタルを退職されたキャピタリストが進むキャリアパスの典型例をいくつか挙げてみましょう。
 
まず一つは、独立して自身で新たなベンチャーキャピタルを設立するケースです。キャピタリストとしてアピールするに足る投資実績と経験がないことには投資家から資金を集めることはできませんので、決して低いハードルではありません。IT系では自身が担当した投資案件が成功し、資産を築いた起業家から出資してもらうようなことがよくありますが、バイオ領域では必ずしも多くはありません。
 
二つ目として、キャピタリストからベンチャー企業の経営陣へと移るケースがあります。EIRは最初からそのようにデザインされた職種ですが、それ以外にもキャピタリストとして経営陣と伴走しているうちに反対側でチャレンジしてみたくなるケースも多いようです。
 
三つ目として、投資領域や投資方針がより自分の能力に合うような同業他社に移籍をするケースです。それまでに培った経験や知識をそのまま活かすことが可能ですが、投資先の情報などをそのまま活用すると競業避止に抵触しますので注意が必要なケースです。
 
最後に、製薬会社出身の方の場合、製薬会社に戻る例が散見されます。研究が好きな方の場合には、投資先のバイオベンチャーを支援する立場ではなく、やはり自ら研究に携わりたいというケースもありますし、金融のカルチャーであるベンチャーキャピタル業界が肌に合わないようなケースもあります。

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研究機関、金融、製薬会社、バイオベンチャー、ベンチャーキャピタル、その全てに籍を置き、様々な角度からステークホルダーたちと関わりを持ってきた筆者だからこその視点で、創薬のプロセスからバイオベンチャー起業の仕組み、投資手法、ベンチャーキャピタリストの業務に至るまで、バイオベンチャーで成功する方法を丁寧に教えます。

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