だるま山 #1
とある山奥にひっそりと佇むお寺がありました。
山奥も山奥。
一年を通して、このお寺に参拝客が来ることはほとんどありませんでした。
そんなお寺には、和尚が一人と小坊主が一人棲んでいました。
小坊主は朝早く起きてお寺の掃除をするのが毎日の仕事です。
掃除が終わると朝ごはんの準備をして、和尚と一緒に朝ごはんを食べます。
食べ終わると和尚は本堂に、
小坊主は写経と言ってお経を書き写す練習をします。
和尚が本堂でお経を読んでいる声が聞こえてきます。
そろそろお昼だな。
小坊主が昼ごはんの準備をしようと思った時、
いつもは訪ねてくる客人なんていないのに、トントントンと
玄関を叩く音がしました。
誰だろう?こんな山奥に客人とは珍しい。
と、小坊主は思いながら玄関へと行きました。
「どちら様ですか?」
小坊主が尋ねても返事がありません。
小坊主は玄関の扉を開けました。
不思議なことに、そこに客人はいませんでした。
おかしいなと思いましたが、客人がいないので扉を閉め、
昼ごはんの準備しに戻ります。
すると、またトントントン、トントントン、と言う音がします。
やっぱり客人か? 今度は急ぎ足で玄関に行きました。
再び扉を開けるとやっぱり誰もいません。
きっと風が吹いてトントントンと音を立てたのだろう。
扉の建て付けが悪いようだから和尚様に言って直してもらわなくては。
そう考え、戻ろうとしたその時です。
小坊主の足に何かが当たりました。
何かと下を見ると、の足元に小さな小さな“だるま”が転がっていました。
どうしてこんなとこにだるまが?
小坊主がだるまを拾おうとすると、
ヒョイッ
だるまが動いたのです!
よーく見ると小さな足がだるまには生えているではないですか。
「ぎゃー」
小坊主は動いただるまを見て大声をあげ、一目散に和尚のところに向かいま
した。
「和尚様、和尚様、大変です」
「どうしたのじゃ。落ち着いてしゃべらんか」
「実は玄関に客人が来たので扉を開けたのですが、
その客人というのがこんなに小さなだるまだったのです。
足も生えていて動き回るのです」
小坊主は早口で伝えました。
「はははは」 和尚は大きな声で笑うと
「今日は肌寒い。いつまでも玄関で待たせていてはかわいそうじゃ。
早く迎えに行って客間に連れて行ってあげなさい」
と言いました。
「和尚様はだるまが動いても驚かないのですか?」
「はははは」と和尚は笑うだけでした。
小坊主は再び玄関に戻り、恐る恐る様子を見ると、
小さなだるまが体を小さくしてそこに座っていました。
小坊主の手のひらにすっぽり納まるくらいの小さなだるまです。
「だるまさん、だるまさん。客間へご案内するのでこちらへどうぞ」
小坊主は小便をちびりそうになりながら、早足で客間へと案内しました。
小坊主の後ろをだるまは小さな足でヒョコヒョコと歩いて付いてきます。
「こちらでゆっくりしてください」
小さなだるまはお辞儀をしました。
それから小坊主は和尚に言われて客間に布団をひき、風呂も沸かしました。
だるまが風呂に入るのかと不思議に思いましたが、
お湯を張った小さな桶を持っていくと、すぐに中に入り風呂を満喫している
ようでした。
夜には夕飯も準備し出しました。
小坊主が和尚と夕飯を食べ始めると和尚が尋ねました。
「だるまには夕飯は何を出したのじゃ?」
「私たちと同じものです」
「それはいかん。栗を蒸してご飯と一緒にあげなさい」
小坊主はどうして和尚がだるまの好物を知っているのか不思議でしたが
言われた通り、栗を蒸しご飯と一緒に持って行きました。
和尚の言う通りで、だるまは夕飯に手をつけていませんでした。
「失礼しました。蒸した栗とご飯になります」
小さなだるまはお辞儀をすると、美味しそうに栗とご飯を食べ始めました。
その日はこれで終わり、小坊主はだるまのことで頭がいっぱいでしたが
疲れてすぐに寝てしまいました。
つづく
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