見出し画像

丘田ミイ子の【ここでしか書けない、演劇のお話】②観たことない演劇についても語らせて!

みなさん、こんにちは。毎日暑くってかないませんね。先日、夏休み満喫中の娘とプールに向かう道中「今から“暑い”って言った方が負けね。よーいスタート!」と突発的に始まる小学生あるあるなゲームに誘われました。2分位は「影どこにもない、隠れるのうまっ!影だけに」とか「もう太陽のワンマンショーやんか」とか “暑い”のユーモア言い換え合戦みたいになってたのですが、3分経つ頃にはただただ無意識に流れる汗のごとく「あっっつ」って言って負けました。その位の暑さですよね。
さて、季節の挨拶(?!)もほどほどに、演劇ライター・丘田ミイ子の【ここでしか書けない、演劇のお話】第二回です。ちなみに、私が「演劇ライター」と名乗るのも、ここまで砕けた口調で自由に書かせていただくスタイルも実はこの連載内だけです。その理由については初回記事をご参照下さいませ!

冒頭の通り、我が家は絶賛夏休み。子ども達が家にいることが増えました。いつにも増して上がってしまう観劇のハードルを前に、「今こそが諦めの悪さの本領発揮!」と試行錯誤を凝らすのですが、どうしても涙を飲むことが増えてしまいます。だからこそ、私にとっては「観られなかった経験」もまた「観られた経験」と同じくらい大切。「この悔しさ、次の観劇に必ずや活かしてやるのだ!」といつも鼻息を荒くしているのです。
とかく演劇って、観た感想が話題の中心になりがち。観ないと分からないので当然なのですが、たまには観られなかった作品や観たことのないカンパニーについてのアーカイブ記事があってもいいじゃないか。観られなかった作品は言葉に、記録に残りづらいけれど、「観たい!」「観たかった!」というクチコミもまた、舞台芸術の幅広い繁栄には必要なのではないか。と、常々思っているのです。
そんなこんなSNSなどでも度々、観てもいないカンパニーや作品名を挙げ連ねている私ですが、今回はまさにそんな、まだ観たことのない/次こそ観たいカンパニーについて語っていきたいと思います。それでは、悔しさと楽しみを原動力に、9月中くらいまでに上演を控えている未見のカンパニーや作品を挙げていきたいと思います!

まず、劇団連跿『ネットスーパーの女』(8/16〜8/22@千本桜ホール/作・演出:太田衣緒)。連跿←「これ、なんと読むの?」とお思いの方も多いかもしれません。かくいう私もその一人でした。チラシの劇団名にはルビが打ってあり、「れんず」と読みます(余談ですが、「跿」は訓読みで「はだし」「すあし」などとも読むそう)。演劇にも“ジャケ買い”の衝動はあって、チラシやポスターのアートワークに魅せられて予約してみた、なんて経験がある方もいるのではないでしょうか?私はそれと同じように名前に魅かれて行ってみることもあるのですが、劇団連跿『ネットスーパーの女』はまさにその両方でした。チラシには、ススキ畑のような場所にエプロンと三角巾と買い物かごを身に付けた、いかにも“スーパーの女”が丸太に腰掛けていて、その横には同じ装いの少女が寄り添っています。伊丹十三作品を想起させるのはタイトルだけではなく、チラシにもまた味わいのある仕掛けを感じます。コピーは、「全労働者、全ての市民の皆様へ これは総じて、愛の讃歌であります」。年齢もキャリアもバラバラの総勢16名の俳優が奏でる愛の讃歌、気になります!

同時期に上演しているのが、ぽこぽこクラブ×千葉哲也『あいつをクビにするか 改訂版』(8/17〜8/27@新宿シアタートップス/作:三上陽永 演出:千葉哲也)。ぽこぽこクラブは、昨年紀伊國屋ホールで上演された『光垂れーる(2022)』を観に行く予定が直前に叶わず、さらにその次のコラボシリーズの第一弾となった、ぽこぽこクラブ×西沢栄治『不動の衆』も観られず、「今度こそは!」と思っているところです。なんと言ってもタイトルのインパクトが目を引きました。おいそれとは言えぬような言葉ではありますが、その言葉に辿り着くまでに、どんな文脈が、どんな風景が隠されているのか。そこにこの演劇の核心が秘められている気がして、観てみたいのです。

はたまたその頃、アトリエ春風舎で上演されているのが、果てとチーク『くらいところからくるばけものはあかるくてみえない』(8/18〜8/27/作・演出:升味加耀)。過去公演の『害悪』(令和元年度北海道戯曲賞最終候補作の再演)、『はやくぜんぶおわってしまえ』など気にはなっていたもののなかなか観劇が叶わなかったカンパニーです。『害悪』は「目を閉じたら、なんだって無いのと一緒だよ」。『はやくぜんぶおわってしまえ』は「―今すぐババアになりたいよ。」。そんなタイトルとコピーのそこはかとないシンクロにも観る前からゾクっと想像力を駆り立てられます。ちなみに『くらいところからくるばけものはあかるくてみえない』のコピーは、「―ほら、もうずっとそこにいる。」。ほら、もうすでに怖いんです、気になるんです……。ドラマターグに綾門優季(キュイ)さんのお名前があるのも気になるところですし、批評家・ドラマトゥルクの山﨑健太さんが編集長を務める、11月刊行予定の演劇批評誌『紙背』に戯曲と劇評が掲載されるのも楽しみの一つです。

8/23〜8/27にこまばアゴラ劇場で上演されるのが、くによし組の『壁背負う人々』(作・演出:國吉咲貴)。くによし組が気になったきっかけは、あらすじに散らばるワードのパンチ力&誘引力でした。「自分はスピッツだと名乗るどう見てもスピッツではない男」、「メデューサの子孫のメデュ子」、「一家に一トランポリンの時代」など、思わず「え、どういうこと?!」と二度見ならぬ二度読みをしてしまうとんでもワードが続々飛び出してきます。そんな期待もさることながらキャストのお顔触れも毎回個性に富んでいて、長らく気になっていたカンパニー。ちなみに今作の『壁背負う人々』のあらすじは、「くによし組が過去に上演した作品の中から、架空の宗教団体『壁教』に所属する人々が出てくるお話と、新作をまとめた短編集」。ほらね。何事もないように書いたりますけども。しれっと出てきましたけれども。……「壁教」ってなんぞやー!!!。そう、こういう気持ちです。それが一体なんなのか、この目で確かめたいと思っています。

再演の公演で気になっているのが、『怪獣は襲ってくれない』(8/30〜9/3@新宿シアタートップス/作・演出:岡本昌也)。京都を拠点に活動する安住の地が昨年5月に東京で初めて行なったプロデュース作品の再演です。岡本昌也さんは6月に安住の地を退団されましたが、映像・演劇問わず、作家としても俳優としても幅広く表現活動をされていて、今後の活躍が楽しみなアーティストの一人です。安住の地の作品は観たことがあるのですが、本作は未見だったので、新たに生まれ変わる再演に立ち会えたら。物語の題材は「トー横キッズ」と呼ばれる歌舞伎町をたむろする若者たち。まさに物語の舞台である新宿でこの公演が観られることにも意義を感じます。なんだか、観る前と観た後で街の景色がぐるりと変わりそうな。そんな予感がしています。

続いてはコント公演、オムニバスコント実弾生活23『旅のマシーン』(8/31〜9/3@下北沢 駅前劇場/作・演出:インコさん)。コメディアンであり、イラストレーター(アーティスト名はリタ・ジェイ)でもあるインコさんが主宰し、2005年からオムニバスコントを打ち続けている公演。そんな実弾生活による新作ナンバリング公演が『旅のマシーン』です。先月上演のムシラセ『つやつやのやつ』『ファンファンファンファーレ!』でも大爆笑をさらっていたインコさんはもちろん、桃尻犬『瀬戸内の小さな蟲使い』で怒涛の関西弁と切ない歌唱で観客の心をもフリーフォールさせた中尾ちひろさん、艶∞ポリス『恥ずかしくない人生』で義母のいびりと夫の無関与の板挟みになる哀切をヘビメタのごとく髪を振り乱しながら表現した小林きな子さんなど、魅力あふれるコメディエンヌ陣の出演も楽しみの一つです。リタ・ジェイさんが手がけたチラシもカラフルPOPでとってもかわいい!

あっという間に9月に突入しましたね。もう少々お付き合いいただけたら……!
忘れてはならないのが、旗揚げして間もないカンパニーの公演です。劇団ド・パールシム『邪教』(9/1〜9/3@イズモギャラリー/作・演出:新井孔央)。旗揚げは今年の4月なので、なんとまだ誕生して4ヶ月という超フレッシュなカンパニー。今作が第二回公演で、劇作のテーマは「愛」、「性」、「忘」といった人間の不条理、それらを時に美しく、時にリアルに緻密に紡ぐ会話劇が創作の指針だとか。主宰の新井孔央さんは2002年生まれの21歳。高校生まではダンサーとして活動していたそうで、20代前半ならではの瑞々しい感性や身体性への問いかけも気になる要素の一つです。何より、やっぱり旗揚げやそれに近しい公演ってワクワクしますよね。初期衝動というのでしょうか、ぐわんと立ち上ってくるような煌めきに導かれる感覚がすごくあって。ビジュアルもとっても大胆でかっこよかったです。邪と教の間に人が立っている。そこにはどんな意味があるのでしょう。気になります。

9月に開催される演劇のイベントも忘れるわけにはいきません。豊岡演劇祭2023とMITAKA“Next” Selection。ここからも観たことのない/観たい作品をいくつかピックアップしていきたいと思います。

まずは豊岡演劇祭から。俳優の平田満さんと井上加奈子さんによる企画プロデュース共同体・アル☆カンパニーが企画・製作する『POPPY!!!』(9/21〜9/22@江原河畔劇場/作・演出:野田慈伸)。初演で涙を飲んだので「今回こそは!」と思っている公演です。作・演出を手がける桃尻犬の野田慈伸さんは、先月にはテアトロコントにも初登場。再演でますますブーストがかかったコメディを観られるのが楽しみです。もう一つは、フリンジショーケース(9/14〜9/16@芸術文化観光専門職大学内 小劇場・そぞろ座)。青年団リンク キュイの『あなたたちを凍結させるための呪詛』と『蹂躙を蹂躙』(作・演出:綾門優季)、ユニット手手『窓/埋葬』(原作:横田創 脚本:平野明 演出:笠井晴子)、マチルダアパルトマン『ばいびー、23区の恋人』(作:池亀三太 演出:坂本七秋)と、かねてより気になっていたカンパニーが一挙に観られる貴重な機会にドキドキしています。果たして豊岡まで行けるのは全く分からないのですが、備えあって憂いなし。そう思って、心の準備だけは完璧な私です。


続いて、今年のMITAKA“Next” Selectionに登場するのが、劇団アンパサンド『地上の骨』(9/1〜9/10@三鷹市芸術文化センター 星のホール/作・演出:安藤奎)。方々から興奮の口コミを見聞きしながら非常に悔しい思いをしたのは昨年のこと。『されど止まらず』と『サイは投げられた』という過去公演でした。様々なカンパニーの公演で活躍する俳優陣が名を連ねる、少数精鋭なキャスト陣も魅力的なのですが、突飛な設定から一体どんな物語や人間関係が発展するのかがとても気になります。ちなみに劇団名の由来は、好物のあんパンとサンドウィッチからだそう!
こちらは初めてではないのですが、9/29からは排気口『時に想像しあった人たち』(作・演出:菊池穂波)にバトンタッチ。星のホールに今年はどんな”Next”が待ち構えているのか、期待が高まります。

最後にもう一つだけ、どうしても触れておきたい9月上演の公演があります。それは、ウンゲツィーファ 演劇公演『リビング・ダイニング・キッチン』(9/14〜9/18@アトリエ春風舎/作・演出:本橋龍)。初見ではないカンパニーなのですが、子育て中で観劇時間が捻出できず、途方に暮れている方にこそ届いてほしい、という思いを込めて特筆したく思いました。本作は育児中の夫婦のお話で、赤ちゃんを挟んで三角関係になった二人のコミュニケーションが描かれるそう。しかし、それだけではないのです! なんと、この公演には<赤ちゃんシャウト回>、その名の通り赤ちゃん泣き叫び大歓迎の回があるのです。チラシにあったこの言葉がまたとても素敵。「お子様をお連れでないお客様にとってもエキサイティングな体験になるのではと思っております」。もはや赤ちゃんの存在がリビングの、ダイニングの、キッチンの演出を手伝う瞬間すら浮かぶような。そんな生活と地続きの演劇になりそうです。さらに安心なことに、チラシの情報によると、この回に限ってはベビーカーが預けられ、座敷席があり、キッチンの利用ができ、調乳用の湯があり、授乳&オムツ交換のスペースあるそうです。上演中の暗転はなく、ロビーへの導線も確保されているようです。観劇アクセシビリティの向上は演劇界全体の課題。そんな中で乳幼児のお出かけ時の懸念をクリアしたこんな演劇があること、ウンゲツィーファの新作がこんな環境で観られること、なんと心強いのでしょう。絶対観たいと思います!

さてさて、ザザザっと足早にあげていきましたが、皆さんの「観たい!」との重なりはありましたでしょうか? 1ヶ月でもこんなにもたくさんの観たことのないカンパニーの上演があること。これまで観られなかった悔しさももちろんありますが、やはり書くにつけて楽しみの方が心を占めていくような気持ちです。だって、これだけの未知の演劇に出会える可能性が私にはまだあるということなのだから。
当然ながら観たことがないので、オススメ記事ではありません。そして、ここに挙げた全ての作品が観られる未来も全く約束されていません。だけど、観たことのあるものや知っていること、分かっている予定しか語ってはいけないなんてつまらないですよね。演劇はもっと自由に、広く、未来についても過去についても語られていいはず。改めてそんな思いでいます。ちなみに、私は観劇スケジュールをチラシ束からピックアップして月別に管理しているので、家には過去・未来・現在の大量のチラシがあります。「おちらしさん」のnoteだからそう言っているのではありませんよ、むしろそんな理由から私は「おちらしさん」に出会ったのです。そのお話はまた別の回にでも! あるときはチラシをきっかけに、またあるときは誰かの口コミをきっかけに、私もあなたも来月にはまた好きな劇団や作品が増えているかも? それではまた来月、Have a nice theater!

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
丘田ミイ子/2011年よりファッション誌にてライター活動をスタート。『Zipper』『リンネル』『Lala begin』などの雑誌で主にカルチャーページを担当。出産を経た2014年より演劇の取材を本格始動、育児との両立を鑑みながら『SPICE』、『ローチケ演劇宣言!』などで執筆。近年は小説やエッセイの寄稿も行い、直近の掲載作に私小説『茶碗一杯の嘘』(『USO vol.2』収録)、『母と雀』(文芸思潮第16回エッセイ賞優秀賞受賞作)などがある。2022年5月より1年間、『演劇最強論-ing』内レビュー連載<先月の一本>で劇評を更新。CoRich舞台芸術まつり!2023春審査員。

Twitter:https://twitter.com/miikixnecomi
note: https://note.com/miicookada_miiki/n/n22179937c627


▽舞台公演や映画のチラシが、無料でご自宅に届きます!▽


17,100名の舞台・美術ファンにお届け中!「おちらしさん」への会員登録もお待ちしています! おちらしさんとは⇒https://note.com/nevula_prise/n/n4ed071575525