寄り添って、寄り道をつくりたい。 | 【インタビュー】ぱぷりか 第6回公演『どっか行け!クソたいぎい我が人生』
「あぁ、たいぎい。」
ふわりふわりとうかぶ、細かな息遣い。
ぱぷりか 第6回公演『どっか行け!クソたいぎい我が人生』の稽古場です。指揮をとるのは、脚本家・演出家の福名理穂さん。2014年の「ぱぷりか」旗揚げ以降、全作品の作・演出を務め、2021年に上演した第5回公演『柔らかく搖れる』において、第66回岸田國士戯曲賞を受賞されました。
岸田國士戯曲賞は、株式会社白水社が主催する戯曲の賞。「演劇界の芥川賞」と称されるほどで、新人劇作家にとっては登竜門ともいわれます。
出演者の占部さんの「ここはもう少しタバコを吸っていたいです。」という投げかけに対して、どのタイミングで吸い終えると良いシーンになるか、チームの皆さんで具体的に話し合ったり……。同じく出演者の阿久津さんが「この場所はどんなイメージですか?」と質問したときは、福名さんが稽古場のホワイトボードに駆け寄り、イメージを分かりやすくシェアしたり……。
俳優も演出家も双方向にコミュニーケーションをとりながら、台本の言葉が舞台上に生き生きと立ち上がっていきます。「こうしたい」と、心から湧きあがる感覚の共有をもって、じっくりとシーンを造形していく様子が印象的でした。
◆ぱぷりか主宰×劇団員インタビュー◆
稽古終わりの夕方、ぱぷりか主宰の福名理穂さん、劇団員で今回の公演にも出演をする岡本唯さんに、お話を伺いました。
福名さん「はしゃいじゃうね、私たち。でもこのままでいい。」
カフェオレと、カフェグラッセ。冷たくて甘いドリンクを、パフェのように楽しそうに見つめるところから、インタビューが始まります。
小さな自信と、小さな違和感ーー受賞の変化
ーー岸田國士戯曲賞の受賞後、初めての本公演となりますが、何か創作への変化はありましたか……?
福名さん「小さな自信につながりました。キャスティングのオファーがしやすくなったり。今まで無名だったので……。”岸田國士戯曲賞受賞者のなかで最も無名な人”とも言われていたくらいです。昨年は、創作・券売状況の両方に不安を抱えていましたが、今年はだいぶ軽減されています。
ーー受賞を通じて初めて福名さんの舞台を観る方も多いと思います。これまではどんな作品をつくられていたのですか?
福名さん「人のもっているコンプレックスかなぁ、なんだろう、ちがうか……。」
岡本さん「家族の話が多いよね。」
福名さん「あぁそうですね。福名理穂の話は何が多いかというと、家族の話ですね。私が自分の母親のことを好きすぎて、そこに執着している部分が物語にも反映されている気がします。母親に限らず友達を見ていても。生きるの下手だなぁ……もうちょっと楽に生きられるのに……と感じたとき、私が実際に真剣に向き合いすぎちゃうと上手くいかないから、物語のなかで寄り添える作品をつくっていきたいと思っています。」
岡本さん「なるほどねぇ」
福名さん「もっと楽に生きていいよ、っていうことを、ずっと思いながら書いています。うまく書けているかは置いておいて、今回もそれを重きにおいているかもしれません。」
ーー岡本さんは、2014年の、ぱぷりかの旗揚げ公演から第3回公演まで続けて出演されています。今回は久しぶりの出演ですが、旗揚げの頃と比べて福名さんの印象は変わりましたか?
岡本さん「やりたいことは変わっていないけれど、台詞の強度が高まっているように感じます。昔はポエムっぽい印象だったけれど、それが緻密に彫られていて現実的な立体感として感じられるようになってきています。それと、演出するときの言葉が増えました。『今のは違う』を伝える言葉がどんどん増えたなぁと思います。小さな違和感を大事にしているから、うそのまま突き進んで戻れなくなることがないんです。一歩一歩着実に歩んでいく演出家。繊細な感覚を大切にできる人です。」
ーー感覚を大切に稽古を進めていこうとすると、キャスティングをするときも、より慎重になるかと思います。今回のメンバーは、どのようにして集まったのですか?
福名さん「これまでは当て書きをすることが多かったのですが、今回はイメージを先行させました。キャスティングしたい人が持っていそうな人間味を重視してからお声がけをしたので、私の求めているものから大きくずれることがありませんでした。役柄の層が濃くなり、その場に立っている気がします。もっと”その人(役柄)”に見えるんです。」
人は個だ。みんな個だ。ーーチラシデザインから作品へ
ここからはチラシデザインの話に。柔らかいタッチが印象的な今回の公演チラシ。イラストを担当された三好愛さんとの出会いについてお聞きしました。
ーーチラシのデザインも優しい色合いで素敵ですよね。
福名さん「2〜3年前にツイッターにたまたま流れてきたんです。他のイラストもめちゃくちゃ可愛いくて、思わずツイッターをフォローしました。ファンの1人です(笑)。ぱぷりかの制作会議でチラシについて話し合ったとき、これまでは写真をよく使っていたから、今回は新しい試みとしてイラストを取り入れてみようという話になりました。イラストをお願いしたいと真っ先に思い浮かんだのが、三好さんです。他に考えられませんでした。想いを伝えてお声がけしたところ快諾いただき、今回のデザインが誕生しました。三好さんが担当された、小説家・宮部みゆきさんの『三島屋変調百物語七之続 魂手形』の挿絵『叫ぶ猿』の挿絵が衝撃的だったんですよね。ぜひ皆さんにも見てほしい。エネルギーがあって、すごい好き。人の内側に潜む叫び声みたいなものに寄り添っていて、どこか”個”として存在している雰囲気が好きです。」
岡本さん「福名の作品には、ちょっと孤独な人が出てきます。三好さんの絵も、可愛いけれど何かポツンとしているものがあって。そこの共感もあるのかなぁと。」
福名さん「どれだけ寄り添っていても、一緒にはなれない。それが当たり前なんだけど『まぁそうだよね』という小さなあきらめ。それでも一緒にいちゃう人と人。見ていて切なくなるけれど、優しくて可愛くて大好きな絵です。優しい世界のなかの”個”を書いているイメージが好きです。自分の作品に近いと感じました。」
「たいぎい」ーー広島の言葉から感じる寄り添いやすさ
作品の舞台は広島。タイトルにある「たいぎい」は、広島弁で「めんどくさい」を指す言葉だそうです。広島ご出身の福名さんは、自身の書いた台本の方言指導も務めています。
ーー岡本さんは東京都のご出身ですが、広島の方言は、練習していてどう感じますか?
岡本さん「楽しいです!早くなじませて、自分の身体の内側からくる言葉にしたいです。『〜じゃろ』『〜じゃけどねぇ』という、まろやかで優しい音にあたたかみを感じて、寄り添いやすさがあります。」
ーー広島ご出身の福名さんは、生まれた場所の言葉で書いていることで、東京の言葉で書くよりも心の持ち方は変わりますか?
福名さん「キャラクターを書きやすくなりました。地元の言葉なので、その役が何を考えているのか、わかり、話し方がイメージしやすいんです。」
2つの違和感に寄り添いたいーー作品について想うこと
インタビューは終盤を迎え、作品について。
ーー作品のことについて、教えてください。
福名さん「私の知り合いで、ある事件に巻き込まれた子がいたんです。そのことが私にとっては大きな衝撃だったのに、第三者の世間にとってはありふれた出来事でした。その自分と世間の間に対する違和感を感じて……。私にできることは物語にすること。それが正解かも分からなかったけれど、ひよっても仕方ないので、その想いを物語にしたいと考えました。
もうひとつ……。日常で起こりうる”何かにのめりこんで会話ができなくなる状況”にも違和感を感じていて。この2つを物語にのせて寄り添いたくて、今回の作品に取り組みました。そうしたらいつものように親子の話になっていったんです。」
岡本さん「稽古中は、福名の初稿の台本をもとに、俳優と演出家でじっくり対話をしながら、福名の感覚で生まれた言葉のディテールを探していくような雰囲気になっています。」
福名さん「ありがたいことに大きくずれずに物語が具体的になっています。俳優・スタッフみんなが寄り添ってくれているんだと思います。」
ーーどんな人に観てほしいですか?
岡本さん「福名自身が何か特別な演出家であり『私のもっているものを観にきてください!』という雰囲気ではなく、私もみんなと一緒です、という作り方をしています。福名の作品には押しつけがなく『こういうこと皆んな思っているよね』と感覚を共有してもらえる安心感があるんです。観客にとっては違う家族の話を見ていることになるけれど、私もこんな気分になることがあるなぁと思って優しい気持ちになります。」
福名さん「ひとつ肩の力を抜きたい。ちょっとだけ抜けて、頑張ろうかなと思える、そんな作品にしたい。生きていくうえで少しの寄り道ができる世界をつくるイメージ。立ち寄る道が欲しい人に観てもらいたいです。」
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「どんな人」という言葉で観にきてくださる方を分類してしまわないように。人間のもつ”個”を肯定しながら、寄り添うように優しく紡ぐ言葉は、ふうっと息をついて次に進むエネルギーをもたらしてくれます。寄り添ってもらえる寄り道は、何よりの幸せです。
取材 / 成島秀和
文 / 臼田菜南
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