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今日の飯か、明日の教育か。(教育⑥)

前回、校内美化の為に靴棚作りを子供たちと行い、教室にゴミを捨てる人が減っていき、校内美化が進んだ。今回は、保護者や地域の人を集めて行った保護者会について書いていく。


モデル校は、地方と首都に2校あり、2週間ずつ交互に学校へ行き、授業を観察しながら先生用のチェックリストを書いてフィードバックをしていた。

私の配属先にくる子供たちは、貧困家庭の子や他の学校をドロップアウトした子などが来る。家庭の金銭問題によって、学校の前後で働いている子、家事手伝い、児童婚などで、学校に来る頻度が減り、勉強についていけなくなって途中リタイアする子が多い。

子供を学校に通わせないと、結局は貧困スパイラルが続く。
しかし、今日を生きるための死活問題に直面している家庭に、生活の保証がされている私が学校に来てくださいと簡単には言えなかった。

学校教育は、家庭と地域の協力なしに成り立つことは難しい。モデル校を始めることで教育の質を上げて、貧困のスパイラルから抜け出すチャンスを子供達に掴んでほしいと保護者に伝えたいと思い、保護者会を開くことにした。

首都にあるロトナ校長のいる学校は、保護者が協力的な人が多く、ロトナの方から既に伝えていると言うので、地方にあるもう一つの学校で保護者会を行うことにした。

青空保護者会

当日は、80名近い保護者や地域の人が訪れた。
モデル校の説明、学校教育、学校教育への協力について話をした。

勉強をすることで職業への選択肢が増えること、奨学金をもらえて進学できる可能性があるので、貧困のスパイラルから抜け出す為に協力してほしい旨を重点的に話した。

学校に行く途中に、そのまま遊んで来ない子供や学校に行かなくても何も言わない家庭もあると校長先生から聞いたので、朝は必ず子供を学校に見送ってほしいと保護者に話し、地域の人たちには学校の時間帯に遊んでいる子を見つけたら学校に行くように促してほしいとお願いした。

質疑の際に、保護者からも意見や要望があった。
教師についての不満が出て、学校に来ない日があることやサボっているので改善してほしいという声も出た。外から学校の様子が見えるので、先生の様子が外からでも分かる。

先生たちを良くしていく為にモデル校を始めたのでもう少し見守ってほしい、先生たちがサボっていたら保護者や地域の人も先生に言ってほしいと話した。その場に、先生たちも全員いたが苦笑いをしていた。

保護者や地域の人は、最後まで真剣な眼差しで話を聞いてくれて、協力していきたいという言葉ももらったので、いい感触であった。

なかなか上手くいかないモノだ。

保護者会の次の日に、先生たちにどんな変化があるのか楽しみに学校に行った。授業を観察していると、1人の先生が授業中に携帯電話が鳴り、通話し始めた。子供の前なので、あとで言おうと観察を続けることにした。

そのうち、授業中にリンゴを食べ始め、食べ終わったリンゴを床に捨てた。子供が掃除して教室をキレイに使おうと動き始めているのに、その行為は許せなかった。まして、昨日の保護者会で保護者と地域の人に協力を仰ぎ、みんなで学校を良くしていこうと話したのにだ。

授業が終わり、校長先生にそのことを話したが、言い返されるので他の教員になかなか注意できないと言う。学校見学や今までしてきた話し合いは、何だったんだと焦燥感に打ちひしがれた。

授業中に電話をしないこと、ゴミを教室に捨てないこと、先生の負担にならないように気持ちを汲み取りながら、1ヶ月以上前から取り組んでいることが定着していないことに悔しくて涙が出た。

もう一方が上手くいってただけに、余計にショックが大きかった。校長によって、学校の雰囲気やあり方が大きく変わることを身をもって体感した。

その後、先生たちと仕事以外のプライベートな会話を増やしていき、互いの理解を近づけていくことで徐々に携帯の使用やゴミ捨てをしなくなっていった。あの日以来、校長先生は先生たちに少しは注意するようになったと先生たちは言う。

そして、有難いことに、先生の口から校長先生の愚痴を聞けるようになった。つまり、それを言ってもらえるだけの関係になったということだ。

浸透することの難しさ

思いや目的の部分で現地スタッフとしっかりと共有して、彼らに何の為にやっているか目的がしっかりと浸透しないと本当の意味で継続していかない。

地方にあるモデル校では、前任者が始めたゴミ拾いのイベントが数年経っても行われていた。本人がいなくなっても、そのイベントが残っているのはすごいことである。しかし、次の日には先生も子供も教室の床にゴミを捨てている現状であった。

形式は残っているのだが、イベントをやっている当人たちが何の為にやっているのか分かっていなかった。2年間の任期で根付かせるのは本当に難しいことだと感じた。

そのことを踏まえて、現地スタッフにプロジェクトの目的と変化することで得られる利点とやりがいを理解してもらえるように念頭に置いてやってきた。


限られた制限時間

私たち青年海外協力隊は、2年間という活動期間がある。
モデル校化プロジェクトは、当然、私のいる間では終わらない。

私がいる間にできることは、モデル校の企画書や学校目標作りを行い、チェックリストを用いて学校の環境整備を行うことで、いわばモデル校プロジェクトの立ち上げに過ぎない。

チェックリストの内容としては、教授法についての項目はほとんどなく、学習環境の改善についての項目がほとんどである。学習環境を整える途中での任期終了になるので、後任には段階を追って教授法や研修制度などを引き継いで進めてもらう。

もしかしたら、自分のやってきたことも前任者と同じく形骸化したものになっているかもしれない。2年間の限られた時間の中で、専門家でもない教育学部卒が教育成果を出すということは、非常に難しい。

しかし、自分で問題を見つけ、それに対してどう考えて取り組むかが大事なのではないか。

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