雑記:対戦ゲームは怒りをくれよ
こないだゲーム友達のエクサさんとスト6で対戦しながらダベっていたとき、『フォームスターズ』の話題になった。
そう、フォームスターズ。"泡スプラ"と書いたほうが通りがいいかもしれない。『Warlander』のトイロジックが開発しスクエニが販売している、アワパーティシューター(公式名称)だ。皆さんはこのゲームのことを覚えているだろうか?もっといえば、皆さんは一度でもこのゲームをきちんと遊んであげただろうか?
どうしてこんなに念を押しているかといえば……まあ端的にいって、フォームスターズはあまり流行らなかったからだ。
配信直後こそ「スプラトゥーンに似てる」という一点突破で対戦クリップがタイムラインに流れたりしていたけれど、体感では一週間も熱が保たなかったように思える。というか配信直後でさえ、俺を含むごく少数のPvPジャンキー以外にこのゲームを遊んでいる人をほぼ見かけなかったレベルだった。そういったなんやかんやでフォームスターズは、オープンベータで惚れ込んで紹介記事まで書いていたエクサさんも黙って首を横に振る、なんとも哀愁を帯びたゲームになってしまったというわけだ。
そしてこれもエクサさんが以前書いていたことだが、インターネットの一部地域には「スクエニのやることなすこと全部バカにしていい」という、忌まわしく愚かしい偏見がある。そこにスクエニの大型減益という決算発表まで加わった。ゲーム企業の減益はスクエニに限った話ではないとはいえ、売上予想を下回ったのは事実らしい。そういうこともあり、フォームスターズに貼られたクソゲーのレッテルはいよいよ強固なものになりつつある。
フォームスターズはクソゲーだった。
だから滅びた……本当にそうか?
困難があるほど 楽しめたもん勝ちなんだぜ
この手の話をすると誤解する人が絶対にいる(賢明なあなたには信じられないかもしれないが本当にいる)ので先にハッキリと断っておくと、俺もエクサさんもフォームスターズに対しては好意的だ。変にくさしたり貶したりするような意図はない。それどころか、よくできたゲームだと思っている。
この「よくできた」という言葉は、ゲームシステムの完成度が高く、根っこがブレず、開発者が決めたコンセプトに忠実なプレイ体験が提供できている……というような意味だと思ってもらえればいい。言葉にするのは簡単だが、「よくできた」ゲームは実のところそう多くない。
だが、フォームスターズはそれに成功していた。
細かいシステム面の評価については先に掲載したエクサさんのレビュー記事によくまとまっているのでそちらを読んでほしいのだが、ものすごくザックリいうと、本作はスプラトゥーンを始めとした対戦シューターがしばしば抱える苛立ちや怒りをうまく解消できていた。なおかつ、チームで戦線を押し上げるワチャワチャ感も得られるゲームとなっている。アワパーティシューターというオリジナリティあふれるジャンルは決して伊達じゃない。
他にも好印象だった点は、チーム内で一番活躍できてない人……ゲーマースラングでいうところの"戦犯"をできるだけわかりにくくしているため、フレンドと遊んでいても空気が悪くなりにくいところだ。そのかわり、一番活躍している者は「スタープレイヤー」としてバフと褒めがもらえる。この徹底してポジティブ寄りの構造はよかった。なにしろ、俺はこれまで色々なゲームで色々な人を怒らせてきたことがあるので……。
馬鹿は馬鹿げた夢 追うしか出来ねえんだ
トイロジックの開発ブログによると、フォームスターズが目指したのは「身近で親しい人たちと上質で幸せな時間を過ごせるゲーム」だったそうだ。実際、本作はチュートリアルの時点で「これは血生臭い戦いなんかではなくパーティだ」と高らかに宣言しており、相手プレイヤーを倒すことはキルではなく「チル」と呼ばれる。
そう、フォームスターズは異色のチルい対戦シューターとして相当うまく完成されていた。……けれど悲しいことに、スプラトゥーンキラーにもAPEXキラーにもなれなかった。
付け加えると、ゲームビジネスには"切替コスト"という概念がある。想定顧客に今遊んでいるゲームを中断させ、新作を遊んでもらうために必要とされる品質、期待値、価格設定その他諸々のコストのことだ。『フォートナイト』以降、高品質なライブサービス型ゲームが幅を利かせるようになったため、きょうびこの切替コストはますます高まっているという。
フォームスターズは発売初月にPS+加入者向けに無料配信され、それ以降は定価3,960円(税込)で売られている。切替コストの観点からいうと、これはスタートダッシュになるどころか、むしろかなりキツい逆風だった。
固定観念の力は強い。いまどきのゲーマーにとっては「対戦シューターといえば基本無料」が当たり前であって、財布の紐を緩めてもいいと思えるのはせいぜいCoDかスプラトゥーンくらいだ。完全新規タイトルにわざわざ金を払おうというのは物好きに片足を突っ込んでいるようなものだろう。もし今このタイミングでフォームスターズがよくできたゲームだと瞬時に理解されたとしても、実際に買って遊んでもらうまでに多くのプレイヤーが二の足を踏むのは想像に難くない。
限界のピンチを 本気で感じて初めて
チルいシューターを目指したフォームスターズから得られる教訓があるとすれば、闘争心を煽られない対戦ゲームは長続きしないかもしれないということだ。必要なのはむしろ、怒りや射幸心といったある種ネガティブ寄りの感情なのかもしれない。
実際、多くの対戦ゲームにおいてランクマッチは実質的に「ランクポイントをやり取りするギャンブル」となっている。ランクポイントを介さなくてもプレイヤーは勝ち負けそれ自体をベットしているようなものであり、腕前の向上という本質よりも「いい感じに勝つ」という目先の部分に引っ張られる。負けた怒りと勝った快感こそが闘争心を駆動する。それ自体は動物的本能のようなものなので、半ば避けられない。
そんな気持ちになるゲームはアンフェアに見えるし、実際アンフェアなことも多いが、しかしめちゃくちゃハマりやすい。味方がおらず最高にフェアなはずの一対一の格闘ゲームでさえそうだ。プレイヤーはキャラ差やラグやコントローラーに責任を押し付けられる。そして次の試合で負けを取り戻そうとする。これらの特徴に当てはまるゲームといえば、CoD、APEX、オーバーウォッチ、LoL、VALORANT、ギルティギア、エトセトラ、エトセトラ……。
一方、フォームスターズは勝っても負けても心に波が立たないゲームだった。厳密なエイム勝負をするゲームではないので撃ち負けてもさほど悔しくないし、リザルト画面でキルデスが表示されない(これ自体はスプラトゥーンも)ので味方のヘマにも気づきにくい。エモート煽りのようなバッドマナーも、俺が遊んだかぎりでは見かけられなかった。快適といえばすこぶる快適なゲームだった。
だが、上品すぎた。俺を含む多くのゲーマーにとって、チルは早すぎる概念だったのだ。
怒りをもっとくれ 理性なら邪魔なんだ
つい先日UBIより配信された対戦FPS『XDefiant』を遊んでいたときも、フォームスターズに少し近い上品さを感じた。このゲームは黄金時代のCoDに携わっていた人々によって作られたラン&ガンなシューターで、実際、とても懐かしく心地よい手触りをしている。発表からリリースまで妙に時間がかかったけれど、それに見合うだけの高いクオリティは確かに感じられる。
XDefiantがCoDと決定的に違うのは、連続キルによるボーナスがないという点だ。各勢力ごとにUltはあるけれどキルストリークより殺意が薄めになっていて、ダイレクトにマルチキルを取れるものは多くない。しかもこのUltはチャージに必要な時間がべらぼうに長く、どんなに活躍しても1ラウンドに2回使えるかどうか、場合によっては一度使うタイミングすらなく試合終了するような代物だ。
ワンサイドゲームを防ぐという意味では、キルストリークの廃止やUltの回転率の悪さは決して間違っていない。キルストリークは結局のところ一発逆転のための秘密兵器などではなく、すでに勝っている側が複利付きで有利になるシステムだからだ。こんなもんハナっからブッ壊れているといっていい。逆転の可能性や公平性、萎え抜け防止を考慮するならキルストリークは真っ先に取り除くべきだ。
では、実際にキルストリークをなくしたXDefiantはどうなったか?……なんだかビックリするくらい薄味になった。配置の読み合いに勝ち続ければワンチャン逆転できる爆破系FPSと違い、CoD系のFPSはより純粋なパワーゲームに収束していく傾向があるため、潜在的な実力差が開くことも埋まることもなくジワジワと決着に向かっていく。これがまあ~面白くない。勝つにしろ負けるにしろ、試合が長引きすぎてしまうからだ。
繰り返すが、キルストリークは欠陥システムだ。プレイヤーの怒りを煽り、ワンサイドゲームを助長する。しかしそれでも、それこそが、それだからこそ、強烈な中毒性が生まれる。我ながら愚かしく思えるけれど、俺が望んでいるのはチルではなく怒りだ。
怒りがなくては対戦ゲームは続かない。だから、怒りをくれよ。