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プラチナのことなんか全然好きじゃねーし - 『ベヨネッタ3』

嘘、大好きだよ……。



ラブコメならこれでハッピーエンドなのだが、全ての感情をこじらせたオタク a.k.a. NeverAwakeMan相手にはそうはいかない。

俺にとって、プラチナゲームズは愛憎相半ばする罪作りなゲームメーカーだ。彼らの作るゲームには、プラチナのように輝く素晴らしいところと石ころ並みにくだらないところがいつも入り乱れている。だから、愛そうにも愛しきれず、憎もうとも憎みきれない。そうして、見た目は最高にいいけれど性格が終わっている魔性の女を相手にしているような気分を味わうことになる。

プラチナゲームズで魔性の女といえば、『ベヨネッタ』シリーズだ。妖しく下品な艶やかなアンブラの魔女、ベヨネッタが落ちながら戦い、飛行機の上で戦い、創世の宇宙で戦い、天使も悪魔も平等にお仕置きする。過剰に過剰を重ねてバカに片足突っ込んだ演出が名物であるこのゲームのジャンルは"∞クライマックスアクション"。他にこのジャンルに入るゲームはない。TSUTAYAでスターウォーズだけ別の棚にあるようなものだ。ちなみに、∞は"ノンストップ"と読む。他にそんな読み方をするゲームはない。

去る10月にベヨネッタシリーズの最新作『ベヨネッタ3』が発売された。俺が触れたベヨネッタシリーズはPS3で発売された1作目だけで、もう記憶もおぼろげだったので、いい機会だと思いシリーズ全作買って一気にプレイしてみることにした。

突如現れた、天使とも悪魔ともつかない異形の軍勢。消滅の危機に瀕した人間界を救うため、最強の魔女ベヨネッタが立ち上がる。
その身を魔獣と融合させて力を振るう「デーモン・マスカレイド」、大魔獣を召喚して意のままに操る「デーモン・スレイブ」。前作から大きく進化した新たな魔導術で、戦いはよりダイナミックに、さらにサディスティックに。
加えて今作では、ベヨネッタに助けを求める謎めいた“第三の魔女”も登場。日本刀を手に、猫の魔獣チェシャを召喚して戦う彼女の正体は一体……!?
新たな舞台、新たな能力、新たな装いで、麗しき魔女は三たび全世界を席巻する。

公式サイトより

その派手さ、プラチナ級

ベヨネッタ3で最も大きく変わった点は、巨大な魔獣を召喚して直接操作する魔導術"デーモン・スレイブ"が使えるようになったことだ。戦闘中にトリガーひとつで発動できるこの技をひとたび使えば、マダム・バタフライの鉄拳が唸り、ゴモラが放射熱線で焼き払う。雑魚ならワンパンで瀕死だ。さらに、マルチバースを巡る旅で別の魔獣と契りを交わすことでデーモン・スレイブの種類はどんどん増えていくので飽きさせてくれない。カエルの歌でフィールド全体に猛毒の雨を降らせたり、チェーンソー付き暴走特急で遮るものすべて轢殺したりと、プラチナ印の多彩なバイオレンスでプレイヤーを楽しませてくれる。

今作で俺が特に気に入ったアクションは、通常コンボの最終段で魔獣を召喚して一撃する"ウィンクスレイブ"だ。その火力の高さと攻撃範囲の大きさもさることながら、一瞬の暗転と独特の効果音のおかげでとても気持ちいい。こうしたベヨネッタと魔獣の連携アクションには、プラチナゲームズが2019年にリリースした『アストラルチェイン』の影響が色濃く感じられる。

デーモン・スレイブのおかげで、ベヨネッタ3の戦闘は間違いなく段違いに派手になった。

シリーズをブッ通しで遊んだ身からすると、これまでは強敵にトドメを刺すときのクライマックス演出にしか現れなかった魔獣を自分で動かせるというのは感無量の体験だ。ちなみに、普段の戦闘で魔獣を使えるようになったため、本作のクライマックス演出はベヨネッタが魔獣に心臓を捧げて巨大化させるというものに変わった。雲海を風呂代わりにするマダム・バタフライやマンハッタンの高層ビル群より大きなシン・ゴモラなど、文字通りスケールの違う∞な戦いを堪能できる。

東宝とは全く無関係

あるのとないのとで別ゲーになるほど強力でド派手なデーモン・スレイブだが、これにはもちろんリスクが伴う。

まず、召喚や魔獣へのダメージで魔力が消費されること。魔力は時間経過で回復するので使い切っても問題ないが、ダメージを受けすぎた魔獣は暴走してベヨネッタ側に攻撃してくるので厄介だ。とはいえ、暴走はショップで購入できるアクセサリーで封じられるのでこちらも大した問題ではない。

もっと厄介なのは、デーモン・スレイブ中のベヨネッタ自身は激しく踊り狂っていて回避はおろかその場から移動すらできず、完全に無防備なことだ。魔獣の操作に夢中になっていると雑魚の攻撃に気付かず痛い目を見るといったことが頻発する。魔獣で戦うことを想定した大型の敵とベヨネッタ本体と戦うことを想定した小型の敵が同時に出てきたときは当然厳しい状況となるが、決して無理ゲーではない。

なぜなら、魔獣の行動は2回まで予約でき、予約した行動を終えるまではベヨネッタが踊るのをやめても魔獣は引っ込まないからだ。この仕様を使えば敵の攻撃をかわした上でデーモン・スレイブを継続できる。トリガーを押して離してまた押して……と操作は小難しくなるものの、うまくいくと結構楽しい。シリーズ経験者向けにいうと、これは変則的なダッヂオフセットのようなものだ。

悪魔に魂を売った代償

デーモン・スレイブがもたらした最大にして最悪の代償。それは、魔獣の強さそれ自体だ。言い換えれば、魔獣がゲームに与える影響が大きすぎるせいで、これまでのベヨネッタシリーズの楽しみが不可逆的に変質してしまったことである。先程述べた"あるのとないのとで別ゲー"という表現は、決して誇張ではない。

前回の記事でも触れたが、アクションゲームとしてのベヨネッタの面白さはこれまで二点のシステムに集約されていた。ジャスト回避で周囲の時間を鈍化させ反撃に転じる"ウィッチタイム"と、回避を挟んでもコンボを途中から再開できる"ダッヂオフセット"。敵の攻撃が当たるかもしれないリスクとプレイヤーが攻め続けられるリターンの駆け引き、避けては殴り殴っては避けるシンプルな面白さこそがベヨネッタのゲーム性であり、中毒性だった。

ベヨネッタ1ではジャスト回避してもウィッチタイムが発動しない意味不明な敵がいたりして、この魅力は少なからず破綻していた。ベヨネッタ2ではそのあたりが大きく改善され、ウィッチタイムとダッヂオフセットを活用すればどんな相手とも楽しく華麗に戦えるようになった。ゲーム側が試練を出しプレイヤーが操作で応えるというアクションゲームの根源的面白さと、それを担保するフェアな戦闘システムはベヨネッタ2でほとんど極まっていたといっていい。

しかし今作は高火力広範囲のデーモン・スレイブを前提としてゲームが作られており、前述の二大システムの存在感は薄れてしまっている。巨大な敵と魔獣が画面狭しと押し合いへし合いするせいで回避のタイミングや攻撃の判定が分からず、いつのまにか攻撃を食らうようなしょうもないフラストレーションが増えてしまったのだ。また、全体的なカメラワークの悪さと過剰なエフェクトと解像度の低さが悪魔合体した結果、ほぼ見えない位置から攻撃がカッ飛んでくる理不尽な出来事もしばしば起きる。視認性のためにデーモン・スレイブを縛ることも考えてみたが、今度は火力がショボくて話にならなかった。

付け加えると、真面目にコンボしたり回避するよりも多少のダメージを覚悟でさっさと魔獣を召喚して戦うほうがよっぽど簡単で、火力が出て、しかも高評価を得られる仕組みも俺としては気に入らない。やってることはトリガーを押してボタンを擦ってるだけなのに、それでプラチナメダル獲得というのは何か違うんじゃないか?

∞クライマックスアクションとしての伸びしろを求めるあまり、ベヨネッタ3はアクションゲームとしての本分を見失ってしまったように思える。

このキャラ性能で新世代は無理でしょ

全然楽しくない新キャラ

本編のいくつかのチャプターでは、ベヨネッタとジャンヌに続く第三の魔女、ヴィオラを操作して戦うことになる。ヴィオラは日本刀を獲物に戦うパンク女でかなりイカしたビジュアルをしているのだが、プレイアブルキャラとしてはゾッとするほどつまらない。

まず、シンプルに操作しにくい。回避に加えてガードが使える関係で、ヴィオラはトリガー周りの操作がベヨネッタと似て非なるものになっている。これがもう頭がおかしくなるほどややこしいのだ。ガードしたつもりが回避していたり、魔獣召喚するつもりが敵をロックオンしていたり……ああ、今こうして書いていても苛立ってくる。しかも、やっとのことで操作の違いに慣れたころにはまたベヨネッタパートに戻ってしまうので本当にうんざりしてしまう。俺にとって、ヴィオラパートは思い出したころにやってきては脳味噌を引っ掻き回してくる罰ゲームのような時間だ。

間違い探しではない

罰ゲーム女ヴィオラはジャスト回避ではなくジャストガードでのみウィッチタイムが発動する。敵の攻撃を引きつけ過ぎてガードが遅れるとモロに食らうので当然ハイリスクだが、それに見合った大きな快感が得られるかといえばそうでもない。彼女が召喚できる唯一の魔獣にして最大火力のチェシャが手前勝手に攻撃する自律型であるせいで、プレイヤーは自らの手で敵に反撃する愉悦から遠ざけられてしまうからだ。被ダメ覚悟で手繰り寄せたウィッチタイムで千載一遇とばかりに召喚したチェシャが明後日の方向の敵に突撃する絵面を見せられると、アクションゲームとは一体なんなのか深く考えてしまう。

可愛いね♡ ちゃんと狙った敵殴れクソ猫

遊んでいて楽しくもなければ、強くもないキャラ。総じて、ヴィオラはベヨネッタの哀しき完全下位互換にしか感じられなかった。アンブラの魔女としてヴィオラがベヨネッタを襲名するエンディングは本来感動的なはずなのに、あの情けないキャラ性能が頭をよぎった途端に俺は醒めてしまった。

なんにせよ、ヴィオラを操作してSEKIROの劣化みたいな刀チャキチャキをするくらいなら、魔獣化して最高にカッコよくなったルカをプレイアブルにしてほしかった。これは俺の偽らざる本音だ。

バカで、不器用で、でも……

ベヨネッタ3を遊んでいて思ったことを率直に書き連ねたつもりが、いつのまにやら壮絶なDISになってしまった。こんなはずじゃなかったんだけどな……。

実のところ、本作はDISろうと思えばもっとDISれてしまう。たとえば、楽しさから1万光年離れたところに存在する特殊ステージ(特にチャプター10のVerse 1)のことや、相変わらず制作側の自己満足でしかないミニゲームのこと、自分のことをマリオだと勘違いしたクソ足場渡りプラットフォーマーのこと……。ベヨネッタ3をプレイ中、こうした石ころのような要素につまづくたびに俺は怨嗟の声を上げていた。

ここまで書いておいて何を今さらと思うかもしれないが、ベヨネッタ3は決して悪いゲームではないということはハッキリさせておきたい。

本作は集大成らしく、プラチナゲームズにしか作れないアクションの楽しさとシュールな魅力がこれでもかというほど詰め込まれていた。雑魚の群れを相手に伝統のPPPKKKコンボを決めるのも楽しいし、魔獣を召喚して大立ち回りするのも豪快でテンションが上がる。ウィッチタイムで敵を翻弄しつつボコボコにし、最高ランクのピュアプラチナメダルを手に入れたときの興奮はやはり得難い体験だ。また、マルチバースを活かした終盤の逆転劇はコテコテながらも猛烈にアツく、もう一度見るために周回プレイしてもいいとさえ思える。

たしかに、プラチナゲームズの作品にはバカみたいなところがある。

2022年とは思えない不器用なゲームデザインもある。

けれど、コントローラーを置きたくなるような退屈さを味わうことだけは、ただの一度もなかった。

だから、今一度ハッキリ言わせてもらおう。


ありがとうプラチナゲームズ、大好きだよ……。


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