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殺って、祈って、バグ起きて - 『Cult of the Lamb』

ゼノブレイドシリーズやったことないし盆の帰省中に遊んでみるか……と思って買った夏の大作ゲーム『ゼノブレイド3』。しかし、10分に一回ペースで挟まれるムービーの多さと、ボス戦以外全部任せきりにできるほどの優秀すぎるオート戦闘がいまいち肌に合わず、進めるモチベーションが上がらなかった。こうして虚無になった盆休みを救済すべく急遽ダウンロードしたのが、今回紹介する『Cult of the Lamb』だ。

本作はそのタイトル通り、カルト教団を運営するゲーム……と書くと、ものすごくクセの強い作品に思えるかもしれない。某教団がワイドショーを騒がせるこのご時世的にも、かなりヤバい匂いがするというものだ。

否。決して、否。『Cult of the Lamb』は突き抜けた独創性で物好きを喜ばせるカルトゲーなどではない。いや、カルトのゲームではあるけれど……。むしろ、過去の名作タイトルをしっかりと参照し、それらの要素を上手に組み合わせてバランスを調整した、凡事徹底の傑作だ。先日レビューした『Stray』に続き、初めてのインディーゲームとして万人におすすめできる優れた作品である。

……邪神に取り憑かれたような、おびただしいバグさえなければ。

教祖は教団第一の下僕ちゅうかんかんりしょく

キミは今まさに「旧き信仰の司教」たちにより処刑されようとしている子羊。そんなときに命を救い出してくれたのは「待ち受けし者」と呼ばれる謎めいた存在だった…。
彼から授かった赤き王冠を使いこなし、真なる教団を築き上げよう!
各地を冒険して忠実な信者を増やし、忌まわしき司教たちが支配する旧き信仰の地で自身の教えを広めていくのだ!
信者を集めれば集めるほど、キミは王冠の力をより引き出せる。ときには、強大な力を手に入れるため信者に命を捧げてもらうこともあるかもしれない。そうして手にした赤き王冠の強大な力を振るい、司教たちによって囚えられている待ち受けし者を解放しよう!

『Cult of the Lamb』ストアページより

あらすじにもあるように、プレイヤーはゆるふわな子羊となり、カルト教団の教祖を務める。教祖だからといって、ふんぞり返って信者をこき使っていればいいというわけではない。子羊自身も謎めいた神に仕える立場であり、すなわち中間管理職だ。中間管理職はマネージャーでありながら自身も手を動かすプレイヤーであり、組織において最も忙しい役割をしばしば押し付けられる。カルト教団運営においてもそれは変わらない。

木を伐り、土を耕し、食事を振る舞い、寝床を作る。宗教コミュニティの開拓はとにかく地道で所帯じみているが、なんだかんだいっても信仰心を根底で支えるのは物質的な満足だ。誰であれ霞を食べて暮らすことはできないし、衣食住が満たされないコミュニティが早晩崩壊してしまうのは歴史が証明する事実である。生活と信仰は表裏一体であり、満足に信者の世話もできない教祖に未来はない。とはいえ、信者の排泄物処理までやってあげる教祖は本作だけだろうが。

ゲロ掃除をさせられる教祖の図

生計の維持は大事だが、それにばかり気を取られていてはいけない。信者からの願いを叶えたり、教祖らしく説教を垂れたりして、信者の忠誠心と信仰心を高めよう。日々の説教だけではマンネリなので、時には盛大に儀式も行うといい。カルト教団なので信者を生贄に捧げられるし、あるいは問答無用で信者を娶ることもできる(重婚可能)。信仰心が下がりすぎたときには怪しいキノコで洗脳してしまうのもアリだ。

カルトにドラッグはつきもの

宗教団体の拡大に伴って、内ゲバが起こるのは避けられない。時折現れる教団からの離反者をほったらかしておくと、他の信者によからぬことを吹き込まれるし、最悪の場合は教団の金を持ち逃げされてしまう。カルト集団の内部崩壊という愚かな歴史を繰り返さないためにも、こうした離反者はいちはやく首枷に繋ぎ、慈悲深く再教育してやるべきだ。もしくは、さっさと生贄に捧げて始末してしまうのも手間がかからなくてよろしい。信者の死肉はいざとなれば食料になるし、いいことづくめだ!

離反者に食べさせることで反抗心を失くしてやれる

『Cult of the Lamb』はかようにえげつないゲームだが、2等身キャラのゆるいカートゥーン調ビジュアルがそのエグみをうまく中和し、奇妙で独特な面白さに変換してくれている。もしこれが『Darkest Dungeon』のような陰鬱な見た目だったら、気が滅入るどころの話ではないだろう。それはそれでやってみたいけれど。

『牧場物語』と『どうぶつの森』を混ぜ合わせて邪教で煮込んだような、教団運営シミュレーション。それだけでも一つのゲームといえるほど忙しいのだが、それだけではいつまで経っても本作はクリアできない。旧き信仰の司教に聖戦を挑み、彼らを粛清することが本来の目的だからだ。その上、信者は時間と共に歳を取り、いずれ死んでいく。人的資源の補充のためにも、聖戦の中で新たな信者を拉致勧誘しなければならない。

教祖は中間管理職。マネージャーの次は、プレイヤーの時間が始まる。

異教徒共に死の裁きを

聖戦は、軽めのローグライクローグライトアクションゲームとなっている。旧き信仰の司教が支配するランダム生成ダンジョンに挑み、いくつかのステージを突破し、最終ステージに待ち受けるボスを撃破して無事に帰還するのが攻略の基本的な流れだ。

ちょっとあからさますぎ?

ここでも、かつての名作ローグライトの要素がうまく取り入れられている。複数の小部屋に分かれたステージでの見下ろし視点の戦闘は『Hades』に近いし、ボスまでの各ステージが分岐して次のイベントを選ぶことができるのは『Slay the Spire』にインスパイアされたものだ。パクっているというよりは、ローグライトの基本をしっかり押さえているといったほうがふさわしいだろう。

本作にはランダムで手に入るタロットカードを使った二者択一の強化要素があり、メイン武器もリーチとモーションの異なる4種類の中からランダムで選ばれる。”モーションがクソ速い上に当てるたびに毒を付与し一定確率で敵の体力を吸い取る大斧”といったハチャメチャに強い武器が運次第で生まれるのは、ローグライクならではの面白さだ。

ヒットアンドアウェイを軸に立ち回る本作の戦闘はシンプルだが、ヒットストップと画面の揺れでダメージがうまく演出されるおかげで、強い爽快感が得られる。回避行動がとても優秀で理不尽な被弾が少ないのも高得点だ。攻撃の当たり判定が怪しくて上方向を攻撃しにくかったり、四種の武器の一つである短剣が異様に使いづらくて事実上のハズレ武器になっているなど完璧ではないものの、戦闘だけでも一つのゲームとして満足できるほどに仕上がっている。

ノーダメクリアでボーナスもある

聖戦をしている最中も教団は教祖不在のまま運営されているため、帰還したころには信仰心は低下し、信者は腹を空かせ、衛生環境は悪化しているといった状況がしばしば起こる。戦いはしばらく休み、ダンジョン攻略で手に入れた新たな信者を加えて教団マネジメントがふたたび始まるというわけだ。

『Cult of the Lamb』がとても面白いのはここだ。聖戦プレイング教団運営マネジメントという二大要素が相互依存関係にあり、どちらかだけに偏ってプレイすると確実に不利になるという点である。食料がなければ生活を維持できず、生活できなければ信者は離反する。聖戦をしなければ信者は増やせず、信者がいなくては教団を拡大できない。儀式を行って状況を有利に動かすこともできるが、儀式に必要な大量の骨は聖戦でしか手に入れられない。かといって聖戦ばかりしていると教団の環境が悪化し、信仰心の低下に繋がる……。

時には脅してやるのも大事

あちらを立てればこちらが立たず。こうして、プレイヤーは各種リソースをうまくやりくりするために聖戦と教団運営を10分程度でテンポよく繰り返し、忙しく手を動かし続けることとなる。教祖生活が安定することは滅多にないけれど、おかげさまで退屈することもなく、強烈な楽しさを感じ続けられる。本当によくできたゲームサイクルだ。

SAN値を削られる不具合

『Cult of the Lamb』についてここまでほとんど褒め倒してきたが、ここからは愚痴の時間だ。

冒頭でも軽く触れたが、本作はかなりバグが多い。例えば、儀式を行っても信者が現れないバグや、聖戦中に敵を全滅させても次の部屋に進めなくなってしまうバグだ。こうしたバグで一度フリーズすると、最後にセーブした時点以降の進捗を放棄してメインメニューまで戻るのを余儀なくされる。

結構な頻度で見るポーズ画面

儀式のバグであれば再度同じ儀式を行えば済むのだが、ランダム要素が絡む聖戦時のフリーズバグは最悪だ。スーパーレアなタロットを手に入れて短剣並みの素早さで大斧を振り回せるようになったのにそれをバグで台無しにされたときは、かなり深刻に萎えてしまった。乱数が生む一発勝負が妙味であるはずのローグライクにおいて、これはあってはならない類の不具合だ。ちなみに、それ以降スーパーレアタロットは手に入れられた試しがない。

こうした重篤なバグが1時間に1回程度の頻度で起きるので、精神的なダメージは相当なものだ。それに加え、このゲームは基本的なパフォーマンスにおいても問題を抱えている。

調理時の目押しでラグるのはやめろ

帰省中に遊ぶため俺はSwitch版を購入したのだが、フレームレートは低い上にまるで安定しない。特に、聖戦に出ているときはこの傾向が顕著だ。戦闘中も裏で教団の生活がシミュレートされているせいか、信者の数や建築物が増えるほどフレームレートは悪化する。最終的にフレームが目で追えるレベルまで落ち込み、酷いときにはゲームが強制終了する。また、プロコンを接続すると何故か入力ラグが異常に大きくなってしまう。アクションゲームにおいて、これらの不具合は面白さと快適さの両方を致命的に損なう短所だ。

囚えたはずの離反者。インタラクトできなくて怖い!

他にも、思わず不安になるくらい長いフリーズがオートセーブ時に発生したり、建築物を移動するときの挙動がちょっと怪しかったり、首枷に拘束したはずの離反者がなぜか解放されていたりと、不具合は枚挙に暇がない。普通であればこんなモンすぐに投げ出してしまいそうなものだが、ゲーム自体はやっぱり最高に楽しい。そのため、今更やめたくてもやめられないという、なんだかマゾヒスティックな状況になってしまっている……。

万人向けのカルトゲー

繰り返すが、『Cult of the Lamb』は遊ぶのをやめられなくなるほど面白いゲームだ。ゲーム性がブッ飛んでいるわけでもなく、これまで色々なインディーゲームで人気を博した要素をうまくいいとこどりし、綺麗にまとめられている。倫理観は崩壊しているが、ゲームバランスは恐ろしく丁寧に積み上げられているのだ。

バグや不具合があるからといって本作に手を出さないのは、あまりにももったいない。今すぐに買えとは言わないけれど、次にセールになる頃にはバグも減っているはずなので、その際は絶対に遊んでほしい。『Cult of the Lamb』は、そう断言できる逸品だ。他のレビューでも「バグは酷いけどマジで面白いから買え!」という意見が頻繁に見られるが、この狂信的な勧め方もある意味カルトっぽくて面白いかもしれない。

いと慈悲深き教祖の創る理想郷は、すぐそこにある。


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