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脚本の授業で、キャラクターの心情表現について学んだこと

映画というビジュアル・メディアにおいて製作者が最も悩むことの一つが、どうやって登場人物の内面を描くかです。

今回は、私が脚本の授業で心情表現について教わったことを振り返ってみます。

内的葛藤と外的葛藤

以下の記事で、「主人公とは欲求を持っているものの、目の前に壁が立ちはだかって苦しむキャラクターだ」というお話をしました。

言い換えれば、多くの物語の主人公は葛藤を抱えています。

そしてその葛藤は、内的なものと外的なものに分けることができます。

内的葛藤=キャラクターの心の中で起こる葛藤
外的葛藤=キャラクターの心情ではなく、キャラクターの外側で起こる葛藤

上に載せた記事の中で、主人公の前に立ちはだかる壁の種類は「」、「環境」、「心の葛藤」の三つに分けられるとお話ししました。

このうち最初の二つ「」と「環境」は外的葛藤にあたります。

それに対し、三つ目の「心の葛藤」は文字通り主人公の心の中で起こっていることなので内面の葛藤です。

上手な脚本家はこの外的葛藤のみを描くのではなく、内的葛藤も一緒にうまく組み合わせて物語を作ろうとします。

観客が映画を見ている時、主人公の感情(喜び、苦しみ、野望、恐怖など)がわからなければ物語はあっという間に退屈になってしまいかねません。

そのため脚本家にとってはいかに内的葛藤を上手に表現できるかが大切になるというのです。

Show, Don't Tell. 〜見せろ、語るな。〜

外的な葛藤は目に見えやすいので描きやすいのですが、内的な葛藤は簡単に目に見えるものではありません。

そのため、内的葛藤をどう映像の中で見せるかが脚本家の頭を悩ませるところです。

小説であれば主人公の心の声を聞くことができますが、ビジュアル・メディアである映画の場合は主人公の心の声が聞こえる(=ボイス・オーバーがある)ことは極めて稀です。

そんな中で映画制作について学んでいるとよく耳にするフレーズが"Show, don't tell." (見せろ、語るな。)です。

私もやってしまいがちなのですが、セリフに頼ってしまうのはあまり好ましい方法だとされていません。

私も初めて宿題で短編作品を書いて教授に提出した時は、教授から「もう少しセリフじゃなくてビジュアルで表現できないかな?」と言われました。

少なくともアメリカの映画界ではセリフで心情を表すより行動などで心情を表現する方がずっと説得力があり効果的だという考え方が存在します。

これには複数、理由があります。

一つは、人は言葉よりも視覚から吸収する情報の方が多く、記憶にも残りやすいからです。「百聞は一見に如かず」ですね。

そしてもう一つの理由は、言葉は嘘をつけるものだからです。言葉でも心情を表現することは可能ですが、行動を通した表現ほど説得力はありません。

人はそんなに正直者ではありません。人は嘘をついたり矛盾したことを言うものです。

例えば、とあるシーンでカップルが互いに「愛しているよ」と言い合っており、カップルの片方がナイフを背後に隠し持っていたとします。

この場合、「愛しているよ」という言葉に何の重みも無いことを観客はすぐに理解します。

この言葉(=「愛しているよ」)と行動(=ナイフの所持)のどちらが本当の気持ちかと言えば、圧倒的に後者です。

そのため、映画というビジュアル・メディアにおいて登場人物の行動が持つパワーは圧倒的にセリフよりも大きいのです。

この前、大ヒットNetflixドラマ「ストレンジャー・シングス」のシーズン1を見返していたのですが、そこでも良い例がありました。軽いネタバレなので未見の人は次に続く2段落をスキップしてください。

シーズン1の第6〜7話で、恋人同士のナンシーとスティーブの仲が険悪になった時の展開です。勝手にナンシーの浮気を疑ったスティーブは友人達と一緒に町の映画館の看板にナンシーの悪口を落書きします。その後、一緒に落書きをした友人と話をしている間に何か少し考えていた様子のスティーブは友人達を置いて映画館へたった一人で戻ります。そして、その落書きを雑巾で消そうとしている映画館スタッフに「手伝いたい」と声をかけます。映画館スタッフは「君の仕業なのか?」と聞きますが、「ただ手伝いたいだけだ」と彼は言い、スタッフはそれを聞いて雑巾をスティーブに手渡します。そしてスティーブは、ナンシーへの悪口を書いた落書きを自分自身で消し始めるのです。

該当のシーン。S1 Ep7

このシーンを改めて見た時は感動しました。もしスティーブがナンシーに「あんなことしてごめん」と謝るだけなら、そこまで私の心は動かされなかったと思います。もちろんスティーブは謝るべきです。しかし彼の後悔の気持ちを視聴者に見せるための描写として「落書きを消す」というシーンがあることによって、スティーブの気持ちをより如実に感じ取ることができます。さらに映画館スタッフは「君の仕業か?」と聞きますがスティーブはその質問にはっきりとは答えていません。それでも、きっと映画館スタッフは事実に気づいているし視聴者もスティーブの心の内を垣間見ることができます。スティーブの言葉には何の力もありませんが、彼の行動から視聴者は彼の気持ちを感じ取るのです。

このように、行動でキャラクターの心情を見せるのは言葉で表現するよりもずっとパワフルです。

そのため、映画界では耳にタコができるほどShow, don't tellと言われるのです。

まとめ

  • ベテランな脚本家は、内的葛藤と外的葛藤をうまく組み合わせる

  • 心情は、セリフで語るのではなく行動で見せる方が効果的

最後まで読んでいただきありがとうございました。

それではまた!

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