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辞典はツッコミを待っている…「金色」は「きんいろ」ではない?

何気なく「きんいろ」という言葉を電子辞書で調べて……驚きました。

「きんいろ」が載ってない!

私の電子辞書には「広辞苑 第七版」「明鏡国語辞典 第二版」「新明解国語辞典 第七版」が入っていますが、広辞苑と新明解にしか「きんいろ」がないのです。

明鏡国語辞典 第二版

明鏡では「金色」は「こんじき」のみ。その欄に「きんいろ」とも書いてあるだけでした。

「きんいろ」なんて言葉は市民権を得ていない。黄金のような色を言う時は「こんじき」と言うべし!ということでしょうか?

雨が上がった後、空から天使のはしごが下りてきて、雲がキラキラ輝くことがありますよね。「きんいろの雲、きれい」とは言っても「こんじきの雲、きれい」とはあまり言わないように思うのだけど。

(ちなみに「天使のはしご」は、私の電子辞書のどの辞典にもない! これ、そんなにマイナーな表現なんですかね?)

「国語辞典は絶対明鏡!」という人は、カラオケで「桃色吐息」入れたら、

「金色 銀色 桃色吐息」を「♪こーんじーき ぎーんいーろ」と歌うんでしょうか? 

「♪きーんいーろ」と歌う人に対して、「まあ、許容範囲だけど、わかってないなぁ」と思う人もいるかもしれません。

新明解国語辞典 第七版

私には、この説明がいちばんしっくりきます。確かに古風なものなら「こんじき」でいいと思います。

もう一つ気になったこと。マイ電子辞書には和英辞典が2種あるけど、ジーニアスの方にしか「きんいろ」がない!

明鏡もジーニアスも大修館書店。同じ出版社なのに、国語辞典は「きんいろ」掲載時期尚早派、和英辞典は「きんいろ」容認派。なぜ?

そもそも、もう一つの和英、ウィズダムにはどうして「きんいろ」がないのか? こちらも「こんじき」なのか?と調べたら……

「こんじき」も見当たらない!

「こ・ん・じ・き」とキーを打って出てくる言葉は、

ウィズダム和英辞典 第2版

これのみ。

三省堂は、

「きんいろ」も「こんじき」も英訳できなくても困りませんよね。でも、「金色夜叉」を英語で言えなかったら、まずいでしょ。

と判断しているのでしょうか? 「夜叉」って「デーモン」でいいのかぁと私は一瞬感心したけど、この知識、いったいいつどこで使えば……。

私、アラカンで文学部卒ですが、今まで一度も「金色夜叉」を訳せなくて困ったことはなかったです。だいたい若い人の多くは尾崎紅葉すら知らないですよ。

「金色夜叉」は明治時代の小説で最も人気のある作品の一つ。貫一、お宮、で有名ですよね。

高等中学生の貫一。高等中学は帝国大学の予備教育機関ですからエリート学生ですよ。ところが、結婚を約束した宮は、資産家に言い寄られ、金に目がくらみ、よろめいてしまいます。絶望した貫一は復讐を誓い、高利貸しになろうとするというお話。

熱海の海岸で、裏切ったお宮をなじる学帽・マント姿の貫一。彼女を下駄で蹴って、

「来年の今月今夜のこの月を、きっと僕の涙で曇らせてみせる」

と名台詞を決める。芝居にも映画にもなった傑作です。

1902年読売新聞連載とあるから、120年前! そんな昔に、愛は金で買えるのか?という現代的なテーマを取り上げているんですから、すごい。感情移入しやすいキャラ、月夜の海辺という絵になる情景、そして真似したくなる台詞……大当たりするのも当然です。

なるほど。

「きんいろ」はgold。常識でしょ。
そんなことより「金色夜叉」!
日本が誇るこの小説を英語でバンバン語って海外にどんどん広めてほしい。

辞典編集者さんからの、そんな、振り切れた隠れメッセージを、私は勝手に受け取りました。そういうスタンスもありですよね。

「きんいろ」を引いただけなのに、気づいたらnote記事綴っていて、「桃色吐息」口ずさんでいて、資本主義のかねの色に染まる明治の日本に思いを馳せていました。楽しいけれど、時計を見たら2時間以上も経っているから、少し怖い。

辞典は、私がツッコムと、底なし沼のようにボケ倒してくれます。

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