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わたしの名前は真由といいます。真由って漢字は、よくみると□がたくさんあります。つまり鉛筆で塗りつぶせるところが7つもあるんです。

文字って、意味がわからないうちは、図でしかない。図っていうか、記号。マークですよね。ひらがなもカタカナも漢字も英語も。わたしバカだから、塗りつぶすところがあるかどうかでしかないんです。たとえば数字の「6」は1つ塗りつぶせるところがある。「8」は2つ。ひらがなだと、たとえば「あ」とか「め」は塗りつぶせるところが2つある。「ぬ」は3つもある。閉じられた□や閉じられた○、閉じられた△は、わたしにとって、「塗りつぶせる形」でしかなかったんです。

「真由」は□が7つもあるんです。1つずつ鉛筆で塗りつぶすと気持ちが落ち着きました。
「素数を数えて落ち着け」みたいなの、あるでしょう。わたしにとって□を塗りつぶすのはそんな感じなんです。

塗りつぶすときは、まず□のフチドリをして、順番に外側から塗っていったり。斜線を1本ずつ丁寧に敷き詰めて埋めていったり。塗りつぶさずに、真ん中に黒点をちょんと書いて日本の国旗にしてみたりとか。遊んでました。□で。

昔、小学生のときかな。親戚の葬式の芳名帳に書かれてた名前の、□を全部鉛筆で塗りつぶしちゃったことがあったんです。人の死が怖くて、落ち着きを取り戻そうとしたんですかね。そりゃもうこっぴどく叱られました。塗りつぶすのが楽しいっていうか、やらずにはいられなかったんです。

今度結婚する人が、わたしがバツ2なんで、3人目なんですけど、名前が畠中さんっていうんです。外見も性格も好きだけど、名前がいちばん好きで、名前が欲しくて、絶対この人にしよって思いました。圧倒的ですよね。前の2人が上手くいかなかったのも、そういうことなんじゃないかと思ってます。結婚して「畠中真由」になれたら、わたしの名前に□が15もできる。
でも畠中さんとも上手くいくか不安です。

そしたら、もっと塗りつぶせる人を探せばいいってだけの話ですよね。

呪いなんですよ。わかりますか。今はもう、○や□をいちいち塗りつぶしたりなんかしないですよ。たぶん絶対わたし呪われてるんです。引っ越しの内見をしたら、浴室のタイルに数えきれないほど□がありました。だからこの物件にしようと思います。□の数だけ、閉じられた国があって、そこから出られない人のことを考えなければならないんです。これまで、無慈悲にたくさん塗りつぶしてしまった。やってはいけないことをしていたんです。そう思いませんか。ずっと考えてます。苦しいですよ。だからお腹の子には絶対すごいキラキラネームをつけてあげたい、思考停止できるような強さの。なんの話をしているかわかりますか。

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