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造影剤使用後に目がみえない - 造影剤脳症と皮質盲

はじめに


造影剤による後方循環系動脈瘤に対してコイル塞栓術が脳神経外科で施行された患者さんで、その検査の日の夜に両目がみえないという症状でコンサルトと受けました。診察、脳MRI などの検査をすぐに行い、結果として造影剤脳症による皮質盲で、翌日には改善しました。
造影剤脳症、また皮質盲について文献を読みました。参考になれば幸いです


論文


Incidence and Risk Factors for Acute Transient Contrast‐Induced Neurologic Deficit: A Systematic Review With Meta‐Analysis
Sima Vazquez et al 
Stroke: Vascular and Interventional Neurology. 2022;2:e000142

要旨


目的
脳血管と心血管アンギオでの造影剤脳症(ATCIND)の頻度を解明すること、またリスク因子、背景、治療経過、回復についても調べることを目的とする
方法
Systematic review with meta-analysis、1974-2021年
結果
造影剤脳症頻度は0.51%(CI, 0.3%-1.0%;P<0.001)
リスク因子は造影剤の量が多いこと(OR 1.072; 95% CI, 0.952-1.192, P<0.001)と、脳梗塞の既往があること(OR 5.153; 95% CI, 1.726-8.581, P=0.003)
造影剤の量が150mlより多いと視野障害の出現の有意な因子(OR 7.083; 95% CI, 1.1742-42.793, P=0.033)となる
完全回復は89.5%でみられる(95% CI, 76.9%-95.6%, P<0.001)
結論
造影剤の量が多いこと、また脳梗塞既往があると造影剤脳症を発症しやすいため注意が必要である

本文内容


fig.2

造影剤脳症の頻度は全体で0.51%で、fig.2 の6つの文献はAIS, CAS, 動脈瘤手術を含む脳アンギオ、残りの1つの文献は心血管アンギオ(Kocabay et al)の文献でした。後方循環系動脈瘤のコイル術後の頻度は2.9%(Niimi et al)、AIS後の頻度は1.7%(Chu et al)と頻度が高く、また頻度の少ないものとしては、心カテ後は0.15%(Kocabay et al)でした。


table 2

table 2では心カテが脳カテよりも造影剤の量は有意に多いことが示されています。
このことからは、造影剤の量は造影剤脳症発症に関与するものの、大事なことは脳血管、特に後方循環系にダイレクトに大量の造影剤が投与されることが発症リスクとして重要と思えました。

Demographics and Clinical Presentation:
平均年齢は58.2歳で、症状としては、visual disturbance 57.5%, motor dysfunction 21.2%, seizure 14.2%が多いことが報告されていて、後方循環系が障害され、一時的な皮質盲を呈することが報告されていました。
Contrast Characteristics:平均造影剤量は125.6ml (32-257ml)
種類:ioversol が51.4%, iopromide 35.7%, iopamidol 12.9%
でした。


fig.4

造影剤量が多い、また脳卒中の既往が有意に造影剤脳症発症リスクとなってます。

論文をよんでみて


造影剤による一時的な皮質盲を呈したまれな経験をしました。
頻度としては0.5%程度と頻度は低いものの、知っていなければ判断に迷うと思いました。もちろん迅速なMRI検査で脳梗塞等の他の原因をチェックをすることは言うまでもありません。
特に皮質盲が起こりうるということの理解が重要と思いました。後方循環系が障害されやすいのはPRES の病態と似ているのかもしれません。様々な病態が言われていますが、まだ確定的なものはないようです。
参考になれば幸いです




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