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【魚食の未来#1】 水産資源のこれから(上)

はじめまして。お魚好きのフカサメです。
願いはひとつ、「おいしい魚をずっと食べたい」。ならば、サーモンはもちろんお魚全般の今後を知らなくちゃ。そんな気持ちで各分野の3人の先生にインタビューします。シリーズ名は「魚食の未来」としました。お魚好き目線で身近な質問にこだわっていきますので、どうぞよろしくお願いします!


第一回の先生は、勝川俊雄さんです。勝川さんは水産資源学の視点から、「未来のために今できること」を提言する研究者です。著書「魚が食べられなくなる日」には、水産資源の自然回復力に対して適切な漁獲量を保つことの大切さが語られています(データや漁業の実情もわかりやすく解説されていておすすめです)。そんな勝川さんに、身近なお魚への疑問をぶつけていきます。 

勝川俊雄(かつかわ・としお)さん

1972年東京都生まれ。東京海洋大学 産学・地域連携推進機構 准教授。東京大学農学生命科学研究科にて博士号取得。東京大学海洋研究所助教を経て現職。主な著書は『日本の魚は大丈夫か 漁業は三陸から生まれ変わる』(NHK出版)、『漁業という日本の問題』(NTT出版)、『魚が食べられなくなる日』(小学館)、『最新漁業の動向とカラクリがよくわかる本』(秀和システム)など。


日本の魚は減っている?

-----(フカサメ) 行きつけのお魚屋さんの口癖が「この魚は昔はもっと獲れた」なんです。先生、実際に日本のお魚は減っているんでしょうか。
 
(勝川さん) 身近な魚が昔とどう変わったか、ホッケの資源量を見てみましょうか。ホッケは北海道周辺海域に3つの独立した集団(これを系群といいます)に分かれて生息しています。このうち資源量も漁獲量も最も多いのが道北系群で、下のグラフでは資源量が魚の年齢別に色分けされています。

ホッケ年齢別資源量(水産研究・教育機構 令和2年資源評価票より)

まず棒グラフの高さを見てください。資源量がここ20年ほど減っていることがわかります。また色分けを見ると、近年は3歳以上の魚がとても少なく、そのため若い魚がより多く獲られ、大きくなるまで残れないと考えられます。
 
----- 若い魚を獲ると、さらに数が減りますよね。そんな時は禁漁になると思っていました。
 
この時、ホッケに対して国としての制限は行われませんでした。2012年から漁業者による自主管理が始まりましたが、資源復活には時間がかかるかもしれません。
 
----- ウナギはどうですか?昔から養殖が盛んで、輸入物もあります。
 
実は、国内のウナギの漁獲量は30年近く減っているのですが、平成になって中国産の養殖ウナギが輸入されたので、価格は安くなり消費はむしろ増えました。しかし、中国産ウナギの稚魚はヨーロッパからの輸入だったため、2010年にヨーロッパウナギが絶滅危惧種に指定されました。同様に、ニホンウナギも2014年に絶滅危惧種になっています。このように、「国産魚が足りなければ輸入魚がある」という考えはいずれ行き詰まるでしょうね。

----- うーん、なんだか辛い話です。こうなったのは獲り過ぎが原因なんでしょうか、それとも……?

もちろん、漁獲以外の要因も関係しています。例えば、マイワシは自然変動による増減が大きい魚種だと考えられているんです。カリフォルニア湾の海底堆積物を調べた研究があって、マイワシは人間の漁獲圧※がほとんどない時代から、自然と増えたり減ったりしていたようです。ただ、ここではっきりしなくてはいけない点があります。それは環境要因は人為的に変えることができないので、資源回復には漁獲の削減が不可欠だということです。たとえ環境要因による減少であっても、資源が減った場合には漁獲を減らす必要があります。

※漁獲圧:人間が漁獲によって天然水産資源に与える負荷のこと

資源はゆらぐ。原因もひとつじゃない

----- 不漁のニュースについて「獲りすぎか、環境変化か」みたいに原因がどれか一つであるような議論も見かけますが、環境も人間も全ての資源に影響しているんですね。そこを論じる間にも「獲れない時は少し我慢、増えたらまた獲ろう」ってところかなあ……。

そうかもしれません。下はマイワシの漁獲量のグラフです。私が子どもの頃は「またイワシ?」というくらい日常的に食べていましたから、グラフどおりの感覚ですね。先ほどの仮説通り、このカーブがそろそろ上向いて欲しいですね。

マイワシの漁獲量(農林水産省「海面漁業生産統計」より作成)

----- 本当にそうですね!それにしても、水産資源ってかなり不安定なんですね。
 
海のメカニズムはまだ解明されていないことが多いので、資源減少や枯渇の原因を一概に決めつけることはできません。ただ、魚が減れば生まれる卵も減ります。その時は、なるべく多くの卵が生まれるよう漁獲圧を下げる。これが海外では一般的な考え方です。
 
----- 確かに。じゃあ、日本以外では海の資源管理ができているんですか?
 
1980年代から、日本も含め各国が特定魚種の漁獲可能量(TAC)を定めています。それを漁業者ごとにあらかじめ割り当てるのが、米国はじめ多くの国で取り入れる「個別漁獲枠」方式です。例えばノルウェーでは70年代にニシンが激減しましたが、その後、資源維持のために魚種ごとの漁獲制限をかけています。その間に、ノルウェーの漁業は産業構造が転換して、水揚げ量を増やす代わりに品質を上げて収益を確保する方向へ進んでいきました。
 
----- お話を聞いて、お魚に感じるモヤモヤの中には「食べられなくなったらどうしよう」という不安も混じっているなぁと気づかされました。

(下)に続きます。