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映画ライターDIZと、韓流ナビゲーター田代親世がとことん語る。2020年みんなが韓国ドラマに夢中になった理由<後編>

SNSを中心に映画レビュアー・ライターとして活躍するDIZさん、韓国ドラマを語らせたら天下一品の韓流ナビゲーター田代親世さんを迎えて、2020年に話題をさらった韓国ドラマブームの魅力を紐解く座談会。Netflixのバイヤー担当、広報担当と共に韓国ドラマの魅力を徹底議論。2020年に話題となった作品を中心に、その魅⼒を深堀していきます。

2020年のトレンドを振り返った前編はこちら。今回は、20年以上続く韓流ブームの変化に注目しながら、韓国ドラマの魅力をさらに掘り下げます。

<参加者プロフィール>
DIZ:映画レビュアー、ライター。SNSで映画の素晴らしさを伝える活動中。映画とファンをつなぐメディア「uni」(@uni_cinema)主宰。常に幅広いジャンルの映画をチェックしている。韓国作品は映画中心に見ているものの、韓国ドラマは初心者。

田代親世:韓流ナビゲーター。韓流番組・イベントのMCを始め、テレビ・雑誌、webなど幅広い媒体で韓国ドラマを紹介。公式サイト「韓国エンタメナビゲート」や会員制の韓流コミュニティ「韓流ライフナビ」を主宰している。韓ドラ視聴歴は20年以上。

なおみ:Netflix コンテンツ部門マネージャー。2017年入社。作品のバイヤーとして韓国ドラマ以外にも国内外問わず作品をチェック。入社以降一途に韓国ドラマの調達に精を出してきた。

なお:Netflix広報担当。2018年入社。主にNetflixブランド全体の広報を担当。Netflixや作品の魅力を知ってもらうために日々奔走。韓国ファン歴は数ヶ月のため、沼にハマりたてのワクワクを実感中。

韓国ドラマはここまで進化。韓国のドラマファンは日本の◯◯ファンと似ている?

DIZ:そもそも「韓国ドラマ」と「韓国映画」には、どんな違いがあるのでしょうか?

田代:地上波の韓国ドラマは、主な視聴者である女性向けに作られることが多いです。脚本家も8〜9割女性だとか。オーソドックスな少女漫画やロマンス的世界観の作品が多い点が特徴です。一方で、映画になるとエロ・グロも平気で出してくるリアルな現実味あふれる作品が突出してきます。映画は比較的男性作家が多く、監督が作家を兼任することが多いですね。

DIZ:韓国映画はよく見るのですが、結構どぎついテーマや描写が多いですよね。韓国ドラマもそうなのかなと思っていたのですが、全然違っていたので驚きました。

田代:韓国ドラマもケーブルテレビになると全然色合いが違って実験的な作品が多く、サスペンスジャンルドラマを中心に放送するチャンネルなんかもあるんですよ。「そこまでリアルに描写しなくても!」と怯んでしまうエグい犯罪モノも多いですね。日本でリメイクされた「ボイス」は、ケーブルテレビで放送されたテレビドラマシリーズです。

DIZ:なるほど。韓国ドラマが、ここまで日本で人気なった理由はなんだと思われますか?

田代:「やっぱりドラマはこうでなくちゃ!」というドラマティックな物語がつまっているから、つい見てしまうんでしょうね。そしてエピソードが分かりやすい。韓国人のダイナミックな感性は万国共通になりやすく、愛とかやるせなさを描かせたら天下一品。見ている側も感情の起伏が激しくなるので、忘れかけていたトキメキの気持ちを呼び覚ましてくれるんです。それを味わいたくて、何度も見てしまうのでしょうね。

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「愛の不時着」

DIZ:確かにわかりやすいですね。言って欲しいセリフをバンバン言ってくれる感じや、愛情表現の仕方は、欧米の作品以上かもしれません。見ながら「私、こういうこと言ってほしかったんだな」って感情の扉が開くというか。分かりやすいセリフや言い回しは、韓国語の特徴なんですかね?

田代:韓国語というより韓国の文化として「思っていることをちゃんと伝えないと、相手に伝わらない」と思っているから、セリフもすごく長いんですよね。字幕で見ると1行に要約されてアッサリしちゃうのが残念。「愛の不時着」の最後のお別れのシーンなんかも「ああ〜!もっとクドクド素敵に言ってるのに〜」ってもどかしく思いながら見ています(笑)

なおみ:韓国の視聴者はすごく厳しい口コミをSNSに書くそうですが、視聴者の意見を取り入れてドラマ製作が行われることが多いのでしょうか?

田代:昔は「視聴者にこのキャラクターを殺すなって言われたから方向を変えよう」とドラマの筋を変えることもあったようですが、最近ではそのドラマ内じゃなく、次回作に生かすやり方が多いようですね。製作者側はきちんと口コミを読んで傾向を探っていますし、視聴者の意見はすごく気にしています。ただ、誰の意見でも聞くのではなく、モニター達の意見を中心に参考にしているようです。

DIZ:韓国ドラマってすごくクオリティが高いのはなぜでしょう? オスカーを受賞した映画『パラサイト 半地下の家族』のように、ドラマも世界に向けて作られているのでしょうか?

田代:「冬のソナタ」のときは画面内に撮影用のマイクが映り込んでいたレベルだったので、現在はそこからの飛躍がすごいです。作り手であるスタッフが若いですし、撮影機材も最新で揃えて種類も豊富。世界に向けて作っている気概があります。ただ、最初から世界や日本でウケるものを目指して作るのではなく、まずは韓国で視聴率を取り、韓国の視聴者に評価されることに命を削るんです。韓国はドラマが好きな国民性がありますし、韓国のファンは一番目が厳しいので、そこをクリアできたら世界でもウケるはずだと。

なお:韓国のドラマ好きは、日本のドラマ好きとは、また違いますかね?

田代:SNS文化の違いがあるかもしれません。韓国は主に若い人たちがどんどん口コミをSNSに書き込むけど、日本人はわざわざネガティブな評価を書き込んだりはしないような……。

なおみ:わざわざ「つまらない」と書かずに、つまらないと思ったら見るのをやめる、という人が多いかもしれませんね。あえて脚本や演技にツッコミはしないというか。

なお:韓国は、SNSでかなり厳しく言うんですか?

田代:一話目から「つまらない」とか「演技が変」ってバッシングする人は多いですね。「いやいや、まだ分からないじゃん!最後まで見てあげようよ!」って、そんな短絡的に見ちゃイカンよと思うんですけど(笑)

なお:なんとなく日本のアニメファンに似ているかもしれませんね。アニメは1話目からバチバチに言われることもあるでしょうし、ファンの目も厳しいです。

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「梨泰院クラス」

DIZ:韓国と日本ドラマの違いには、どんなものがあると思われますか?

田代:10年ほど日本のドラマを見ていないので具体的には比べられないのですが、韓国はドラマの作り方がまず違うんですね。企画を重要視し、優秀なクリエイターがいる制作会社をどんどん子会社にして、クリエイターを確保するところからドラマ作りがはじまっています。そして脚本家さんが一番ギャラをもらっているくらい、脚本を大事にしています。もちろんキャストも重視しているのですが、スターが出ていてもヒットしない作品も多いんです。

日本のドラマは、描写が細かくて繊細ですね。しかし、そのぶん日本人以外には分かりにくく感じてしまったり「いい話だったな」で終わってしまい、リピートには繋がらないことも少なくありません。もっとも私は最近の日本のドラマを見れていないので、現在は変わってきているのかもしれませんが……。

DIZ:韓国は映画に対しても多くの方が意見を言うみたいで、ドラマもその点は一緒だと思います。視聴者の姿勢が作り手にとても影響を与えているんでしょうね。一方で、共通点は何がありますかね?

田代:韓国ドラマのセリフが私たちの心に響くのは、アジア人としての情緒が同じだから。言われたい言葉をきちんと言葉にして言ってくれる。これはラブに限らず、ヒーローが正義を言動で示してくれて見ている側も奮い立つ、というのも含めてです。ストレートに言うべきことを言ってくれるので、見ていて気持ちいいんですよね。

DIZ:価値観のベースが同じだから感動するポイントも一緒で、ハマってしまうんでしょうね!

2020年代の韓国ドラマは、「仕事」と「愛」を両立する

DIZ:日本では韓国カルチャーが20年近くブームになっていますが、昔流行った韓流ドラマと、今の韓流ドラマには、どんな違いがあるんでしょうか?

田代:まず題材がかなり変わってきています。以前はラブストーリーならラブストーリー、サスペンスはサスペンス、といちジャンルで完結する作品が多かったのですが、いまは全てのジャンルがひとつの作品に入っていて、「このドラマは、なんてジャンルになるんだろう?」と悩んでしまうフュージョン系のドラマが多いです。例えば『椿の花咲く頃』は、ヒューマンな感動もありながらサスペンスがあって、どっちなの?って戸惑うのですが、全部入ってて面白い作品。ひとつひとつのドラマが持つテーマが壮大になってきました。

あと、最近感じた大きな変化として、ドラマにリアリティが増えてきました。昔は「愛」 が始まったら仕事そっちのけになっていました。「冬ソナ」主人公の二人なんか「ちゃんと働いてるのか?」って思うじゃないですか?今はちゃんと仕事している描写があって、そのうえで「愛」をやっている。内容も現実的になってきて、働く女性の共感を得られるようになっていると思います。

なおみ:確かに、最近の韓国ドラマは現実的ですね。「愛の不時着」も、作り置きを作ったりコーヒーを入れてくれたり、登場人物が「嬉しい」と思うポイントに生活感があってリアル。「強い女性が弱い一面を見せてもいいんだよ」ではなく、「強いままでいられるように支えてあげる」っていうのがこの作品のポイントでしたし、そこに新しさを感じました。イ・ジョンソクが南でゲームにハマる描写も「いるのかな?」と思ったのですが、追われてばかりだと緊迫感が続いて疲れてしまうし、そういう緩急が散りばめられているから全16話あっても一気に見たいと思えるんでしょうね。最後は北と南どちらかに残る選択なのかなと思ったのですが、あんなラストになるとは……。

田代:もうひとつ思い出した話があります。最近ではオリジナルではなくマンガや小説を原作にした作品が増えていて、日本の小説を原作にした韓国の映画もあるんです。それがオリジナリティを入れ、削ぎ落とすところはバシッと削ぎ落としながらも、見事に小説の芯を捉えていてすごくいい作品になるんですよ。例えば『白夜行』とか見てみると、この小説の本当に言いたいことを突いていて素晴らしいなって思いますね。

なおみ:最近ですと『バーニング 劇場版』(原作:村上春樹「納屋を焼く」)とか。

田代:宮部みゆきさん原作の『火車』もそうですね。遠慮なく自分のクリエイティビティを入れながら、原作者の言いたいことを伝える手法はすごいと思いました。

ズバリ、年末年始に見るべき韓国ドラマは?

DIZ:Netflixではたくさんの韓国ドラマが配信されていて、どれから観たらいいのか悩んでしまいそうですね。ハマれそうな作品を見つけるコツなどはありますか?

田代:そのドラマの何に自分がハマったのかに寄りますが……。主演俳優の魅力にハマったのならその俳優の出演作を探しますし、ドラマの重要な要素であるキャラクター性、例えば主演俳優の“ツンデレ”キャラにハマったなら、ツンデレ御曹司が登場するドラマを探すといいですね。例えば「キム秘書はいったいなぜ?」から「私のIDはカンナム美人」「花より男子〜Boys Over Flowers」「ハベクの新婦」とか。テーマや描いている世界観にハマったと思えたなら、同じ脚本家の他の作品を探すといいですね。「スタートアップ:夢の扉」から「ピノキオ」。「キングダム」を面白いと思ったなら次は「シグナル」という感じになります。

私はもっぱらツンデレ御曹司が好きなので、それが出ているかどうかという観点で選ぶことも多いですし、やはり脚本家を重視します。ただ、最近は新人作家の作品がヒットを飛ばしていてベテランが失速した例もあるので、世代交代が起きているかも。

DIZ:いま「サイコだけど大丈夫」が、タイトルに惹かれて気になっているんですよね。個人的ながら、自分を愛することって大事だなと思い始めていて。「サイコだけど大丈夫」というタイトルから察するに「どんな自分でも大丈夫だよ」っていうことを伝えてくれるドラマなのかなと思っているのですが……?

田代:自分の存在を認めきれていない孤独な人びとが、どうやって他人と愛を交わしていけるようになるのかを描く、じんわりヒューマンドラマですね。男女の主人公が痛々しいのですが、その二人がどうやって近づいていくのか見守りたくなります。ラブストーリーでありながら、登場人物みんなが自分を犠牲にして誰かのために生きていて、「あなたはあなたの人生を生きていいんだよ」というメッセージを貰えるドラマです。

DIZ:素晴らしい!もう絶対に見ます!最後に、年末年始は時間がある方が多いと思うので、時間があるときに一気に観た方がいい作品を教えていただけますか?

田代:「アスダル年代記」と「ミスター・サンシャイン」は世界観が独特で、気軽に日常生活で見ていても入り込めなさそうなので、時間を取ってみた方がいいかも。「奇皇后 〜ふたつの愛 涙の誓い〜」や「朱蒙」は話数が多い時代劇なので、集中して一気見すると相当満足感が高いです。「秘密の森」「秘密の森2」は緻密な伏線があって気を散らすと回収が難しいゆえ、シリーズを続けて見て堪能してください。

また、この機会に「応答せよ1997」「応答せよ1994」「恋のスケッチ~応答せよ1988~」シリーズをこの順番で見ていただくと、韓国文化のあれこれがわかるし、1994のエピソードが1988にもチラリと出てきたりという具合に、シリーズを通しで見ているからこそのクスリとさせる仕掛けがあるのでオススメです。ついでに、この監督と脚本家のペアが放った「刑務所のルールブック」や「賢い医師生活」も一緒にご覧になるといいですね。また「キングダム」と「シグナル」は、ジャンル物を書かせたら今一番と言われている脚本家の作品。時代も設定も違うけれど、双方とも秀作です。

DIZ:ありがとうございます。今回は座談会を通して、様々な入り口がある事でどんな人も楽しめるように時代に合わせて変わり続ける韓国ドラマの魅力に触れられました。コロナ禍で人とのコミュニケーションがうまく取れなくなってしまった今だからこそ、感情を言葉にして表現して伝えるキャラクター達をみて、心が動き、人との繋がりの大切さや尊さを改めて感じた人が多いのかなと。また、多くの人がSNSなどで同じ作品を共有する楽しさを教えてくれた事が心の支えになったと思います。今年、日本が韓国ドラマに夢中になった理由を紐解いていく中で、私たちが本当に大切にしたい事が見えてきた素晴らしい座談会でした。

ちなみに、私が今ハマっている「スタートアップ:夢の扉」は1話目から泣いてしまったほど感情移入できる作り込まれたストーリーでした。夢へ向かって頑張る主人公たちを観て「2021年もがんばっていこう!」と思える作品なのでぜひ皆さんにも年末年始に観て欲しいと思います。


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