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信号待ちおばあちゃん。

冬、寒さに震えながら自転車を漕ぎ、家を目指す僕。
雲が2つ3つあるくらいの晴天。

僕「あ〜寒い。今すぐにでもコーンスープを頭からかぶりたい。美味しいし、温まるだろうから、きっと一石二鳥になるだろうに。」

今すぐにでも赤になりそうな信号機を前に、自転車を漕ぐスピードを上げる。
このあとオンラインで予定がある。
遅刻寸前である。

僕「はぁ〜青信号と赤信号は嫌いだよ。僕は。黄色信号が一番好き。大好きすぎて結婚したいくらいだ。なぜならね、黄色はコーンスープの色だからだよ。」

信号がギリギリで赤になってしまい、渡る直前で止まり落ち込む僕。
そこへおばあさんの気配。

おばあさん「あんた、今すごい勢いで走っていったよね?」
僕「はい、信号が間に合いそうだったので。法定速度は守ってましたよ?」
おばあさん「問題はそこじゃないわよ。あなた、カーレーサーか何か?」
僕「いや違いますけど、もう少しでカーレーサーです。」
おばあさん「もう少しとは?」
僕「おばあさんあのね、実力的にはカーレーサーなんです。でもね、僕が最終試験に行く日は、大体決まって半月なんですよ。」
おばあさん「半月とは…?」
僕「あれ、おばあさん知らない?カーレーサーって満月の日に合格しないとなれないんですよ。僕はあと満月の日に試験を受ければカーレーサーになるんです。だからもう少しでカーレーサーです。」
おばあさん「だから、半月とは…?」
僕「あ、月があるでしょ?あれが半分だけ光ってる状態のことですよ。」
おばあさん「あ〜なんとなくわかったわ。そんなことなら、満月の日に合わせていけばいいじゃない。」

僕は人差し指を立てて口の前で横に振る。
僕「チッチッチ!そんなんじゃないんです。」
おばあさん「そんなんじゃないとは…?」
僕「そんな、満月に合わせるなんて、紳士じゃないでしょ?」

おばあさん、そんなこと知らないみたいな表情で僕を見る

僕「ほら、運も実力のうちって言うじゃない?だからそこも運次第なんです」
おばあさん「運?」
僕「運。」
おばあさん「運???」
僕「うん。」
おばあさん「え、あなた今、うん○の話してる?下ネタ?」
すごい笑顔で頷く僕。
おばあさんは目を丸くして僕の髪の毛の生え際を見る。

おばあさん「でも、その試験に受からないとカーレーサーになれないのよね?」
僕「そう言うことになりますね。」
おばあさん「じゃあ生活費とか稼がなくちゃいけないでしょ?」
僕「そう言うことになりますね。」
おばあさん「じゃあ尚更、満月の日に合わせていくべきじゃない!!」

おばあさんは爪を立てて僕をビンタした。
あいにく整形で皮膚を鉄にしたばかりだったこともありことなきを得た。

僕「それじゃ紳士じゃないでしょ!って。」
おばあさん「じゃあ何、バイトでもしてるの?」
僕「だからしてないですって!」
おばあさん「いや、バイトしてるかどうかは初めて聞いたんですけど。。。」
僕「紳士的じゃないですから!」
おばあさん「バイトすることを紳士じゃないって言ってる人初めて見たわ!」

おばあさんは、笑顔で僕の右耳の穴の中に指を入れた。
入れてきたのが薬指だったのでことなきを得た。

おばあさん「じゃあ、生活費とかどうしてるのよ?」
僕「え??」
おばあさん「生活費とかどうしてるのよ?!」
僕「え???」

おばあさんポケットの中から拡声器を取り出す。
おばあさん「生活費とかどうしてるのよ?って!」

拡声器の活躍でおばあさんの声が響く。

車に乗ってるおじさん「働いています!」
横で信号待ちをしていた女子高生「バイトです!」
道の反対側の店の店主「ラーメン屋やってます!」
猫「可愛い子ぶってます!」
道路「税金です!」
僕「え????」

中々僕に声が届かないを見て、
おばあさん、僕の耳の中に入ってくる。

おばあさん「生活費どうしてるのよ!って」
僕「あ〜生活費はいらないのよ。」
おばあさん「え?」
僕「僕ね、何もやることがないとき以外は生きてないから。」
おばあさん「え??」
僕「だから!何もないときは死んでるから!何も食べたくならないし、何もいらないの!」
おばあさん「え???」
僕「だから生活費ほぼいらないの!」
おばあさん「え????」
僕「基本的に死んでるから!生活費いらないの!」
おばあさん「え?????何が?」
僕「紳士的じゃないからね!」
おばあさん「え????????」
僕「…?」
おばあさん「え????????????」

僕はオンラインでの予定に遅刻した。
後からわかったことだが、あのおばあさんは僕のことをよく思っていない人が、予定に遅刻するように仕向けた刺客だったらしい。

今となっては、耳の中で生活してもらってる。
時々みかんをあげると喜んでくれる。

僕は今、バイトをしている。
紳士的かどうかなんかより、おばあさんに喜んでもらえる方が嬉しいからだ。
バイトで、おばあさんのみかん費を稼いでいる。
いつか大金持ちになったら、高級みかんを箱買いし、おばあさんにプレゼントをしたい。
その時には、僕も耳の中に入れるようになってるかな?
いやなっていて欲しい。

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