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夏の変態大三角形


この前読んだら損するような日記を書いてしまったんで今回は得してもらおうと思う
禁じ手にしてた話題 変態について書きます

何故禁じ手にしてたか それはキモいから
それでは何故解禁したか それでも変態大三角形を見つけたことを報告したかった

変態大三角形というのは、映画「夜を走る」、小説「メタモルフォシス」、そして映画「D坂の殺人事件」を結ぶ線のことです

時代もジャンルも違う、遠いところにある3つの点ですが、山田優一郎は独自の解釈により共通点を見出しました
大好きな3つの作品の感想を交えながら、変態とはなんぞやというのについて考えます

①夜を走る(2021)
ガツーーーーンときた映画
スクラップ工場で働く冴えない男秋本と、要領は良いが運が悪い男谷口の抱える閉塞感と取り返しのつかなさと諦念が徹底的に描かれて、2人がある事件に巻き込まれてから気持ちの悪いカタルシスと共に全てが無茶苦茶になっていく
なんのジャンルかも分からん映画 

ホラーと無慈悲なブラックユーモアが同時に出力されるヤバすぎる映像、ヤバすぎるノイズ、身体表現がヤバすぎる俳優足立智充はこの映画でなんかの賞を獲ったらしい
もう足立智充の笑顔を見るだけで背筋凍る
賞ぐらいあげないと走って追いかけてくるかもしれない
全編を通して感じる強烈な女性嫌悪とルサンチマンがヤバすぎて、女性によって植え付けられた"存在しないトラウマ"がフラッシュバックしてくるので注意かもしれません

とにかく秋本の狂いっぷりがすさまじくて、「ほんとにプッツンした人ってこうだよな」というリアルさがあってゾッとした
本人の中では全て地続きになっているんだけど、周りはある瞬間からぶっ壊れてしまったように思える、まるでオタマジャクシがカエルになったような、まさしく秋本が"変態"するまでを描いた映画です
本人は全くふざけてない、これは変態の必要条件です

②メタモルフォシス/羽田圭介(2015)
マゾの男がSM道を突き進んだ結果エゲツない感じになるっていう話

淡々とした筆致で書かれる具体的すぎて吐き気のするSMプレイ、それがだんだんエスカレートしていき、最終的にエゲツないことになります

①と違うのは、主人公は変態であることに誇りを持っていてより高みへ上り詰めようとして死ぬ程の苦しみさえ快感に変え、"メタモルフォシス"の瞬間をピークにして終わるところです
これもまともな読者ならある瞬間から雲行きがおかしくなってくることに気づくのですが、羽田圭介は容赦ないので最後まで書き切ります
読み切った後で何かが始まる作品です

最後はネタバレありです
かなり衝撃的な出会いだったので長め

③D坂の殺人事件(1998)
江戸川乱歩の「心理試験」「D坂の殺人事件」をいい感じに混ぜた作品 乱歩独特のエグいことをあっさりきっちりと書く感じはそのままに、真の男真田広之の真の変態っぷりをこれでもかというほど盛り込んだ映画
もうネタバレありの考察とかしちゃうよね、ここまで来たらさ


天才贋作師の蕗谷(広之)という男が江戸時代のSM画である責め絵の中で麻縄に縛られ悶える美人の姿に取り込まれ、女装して自らを麻縄で縛り、自分をモデルに絵を描く
蕗谷さんは贋作を作ったら本物は焼いちゃうから、責め絵のモデルのこともアレしちゃう
いきなり出てきた巨大な明智小五郎にサクッと暴かれる、という作品

緊縛に取り憑かれた人物は蕗谷さん以外にもいて、
・不倫してまでSMセックスに勤しみ、あそこの奥さんは素質があるだなんだと噂をする下衆
・品評会に集まって虫眼鏡でマジマジと責め絵を見てはああだこうだという好事家のみなさん
・好事家と広之を繋ぐ怪しい奥さん(実はモデル)
・蕗谷さん
とグラデーションになってるので、より一層蕗谷さんの孤高の変態ぶりが際立っていて凄いなと感じました

考察↓
この映画のポイントは、なんといっても本物に異常な嫉妬を向け、本物を超えようとする蕗谷さんの度を越したストイックさとナルシズム

①前半で爪にニスを塗り艶を出してうっとり
②あまりにも本物すぎる男性器型のはんこを愛用してる
③壁には男性器のメタファーを思わせる鼻がめちゃデカ長い巨大天狗のお面をかざっている
④絵のモデルの1人である女に犯されそうになるも拒否
そして④の後に女が巨大天狗を見つけハッとし、鼻の部分を触りながら蕗谷さんを嘲笑うシーンがある

このことから、
蕗谷さんは男性が好きで女性化願望がある
自らを女のにせものだと感じており、女性嫌悪のケがある人だと推測しました

「完璧な偽物を作ることができる」
「本物に憎しみともいえる嫉妬を向けている」
「女性がいためつけられる絵の贋作作りを頼まれる」
この条件が揃った蕗谷さんは狂気の変態と化します
完璧な贋作と完璧な己の女装姿に満足し本物の絵と本物の女を排除するに至ったんですね
偽物と本物、絵と女
蕗谷さんのコンプレックスを匂わせ程度にとどめた演出は最高としか言いようがない
脚本も秀逸

真田広之の演じる蕗谷さんの女装は艶かしくそれはそれは綺麗なんですが、やはり真田広之は真の男だから男性的な魅力も残っていて、「完璧な偽物」に見えるんだよな
この絶妙な美しさが作品にものすごい説得力をもたらしていると思いました

余談↓
D坂を見てから緊縛に憧れを持つようになり、ちょうど機会があったので私も緊縛師にちゃんと麻縄で緊縛されてきました
そこで感じたのは、緊縛というのは変身に近いということ 縄で縛られてる人に「なった」
当然体の状態が変わると意識も変わる
私が縛られてD坂の蕗谷さんの気持ちを追体験した気になったように、蕗谷さんも絵の中の女性と心から一体化したんだろうなと感じた
だからあの表情なのか…と、作品をより深く理解することができて良かったです
おわり

以上が狂気の変態大三角形です
共通点としては、女への執着と嫌悪、抑圧からの解放というところでしょうか

ざっくりまとめると、変態というのは自意識過剰と自我崩壊です
コンプレックスや日々のストレスに揉まれ、自意識がビッグバンを起こし超自我が目覚める
以上の作品に触れたら言葉の意味がわかると思います
これが変態だ!!というわけではないが、この中の1つでも触れたことがあるなら、必ず他の2作をチェックするのをおすすめします

そしてミイラ取りがミイラというか、変態を理解しようとすると自らも取り返しのつかない変態になってしまうので気をつけてください
私はどうなんだろう、けどもう始まっているからね…

それではこれでバッハハーイ

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