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あなたは”すべて”を持っている〜Everything!?驚いた・・・女医の言葉にのけぞった

 体調がかなり悪かった時期から、ずっとお世話になっている女性のお医者さんがいる。彼女は他の病院の、目も見ないでとりあえず薬を出してくる先生たちとはかなり対応が異なっていて、健康診断の結果でちょっと問題があるかも、と言われたことに悩んでいると話したら、他の病院を教えてくれたり、とにかく対応が気さくだった。こんなお医者さんがいるんだ!と本当に驚かされた。元々は、職場で色々と相談していた際に、かなり親身になってくれた相談員の方の紹介だったのだが、かれこれ10年以上その病院に通っている。

 女性でお医者さんの比率というのはどのくらいなのか。ちゃんと調べていないけれど、とてつもなく少なそうである。数年前のデータであるが、雑に検索したところ、医師の男女の比率は、8:2だそうだ。

 先生と受付の女性は、私が結婚しているとずっと思っていなかったらしく、数年前に妊娠したと話したとき、本当に椅子から飛び上がりそうなほどに驚いていた。漫画でよく見られる、飛び上がった時に出る三本線とガスのようなものが目に浮かぶような飛び上がり方だった(飛び上がってないけど)。確かに、著しく体調が悪い頃からずっとそこに通っていたので、その時の記憶は自分にはなくて、その頃より、だいぶ元気になったと思っているのだが、満員電車に乗れなかったほど具合が悪かった時期の印象が濃厚なのかも知れない、とも思った。

「ねすぎさん!結婚してたんですね!そして!お子さんができたの!?」と、やんややんや!と言った様相で、都心の狭い病院の受付とその周辺は、圧倒的な盛り上がりを見せた。先生と受付の女性の頭には、三角の帽子、そしてぱんぱん!と鳴るクラッカー(ゴミが出ないタイプ)すら見えた気がした。ドン・キホーテで大量に入っているものを買ったようなやつである。「本日の主役!」と書かれた斜めがけのタスキさえ、私にかけてくれそうだった。ドンペンくん(ドン・キホーテの公式キャラクター)はいつもたすきをかけている。

 言われてみれば、体調が悪くて復職したのちに、色々と職場で大変な目にあっていて、そのことを度々相談していたのだが、その時には、結婚しているかどうかを診察時には聞かれることがなかったので、ずっと独身だと思われていたのかもしれない。日々、よく独身だと色々な人に思われるのだが、まぁ確かに、小学生男子のような服装とマインドだし、女性一人のお客さんがすこぶる少ない、美味しい駅構内の立ち食い蕎麦屋のことや、うまい棒の美味しさに今さら感動したりしていて、家庭的な雰囲気が皆無であることは、自覚はしている…。

 その後、なかなか、なり止まないッ!職場での悩みなどをこぼすたびに、先生はとにかく仕事を辞めないように勧めてきた。色々な職場の産業医を務めているそうで、有名企業であっても、安定していると思われていた公務員であっても、職場環境がどこもかしこも著しく悪化していることをよく知っているのだそうだ。どこに行っても絶対大変だから、今の職場はまだマシだから、辞めないほうがいい、といつも言われた。

 そして、ある時、職場での人間関係についての悩みを話すと、こんなことを言われた。

「ねすぎさん、あなたはすべてを持っているんですよ!」

すべて…!

その瞬間、長年楽しく見ている「月曜から夜更かし」に出てくる竹ノ塚の路上で弾き語りをする男性が歌う「You're everything!(by MISIAの名曲の竹ノ塚の男性カバーversion)」の歌声が鳴り響いた。

「月曜から夜更かし」を見たことがない人向けに例えるなら往年のジャイアンの歌声、「ボエー」で歌われるEverythingを想像してほしい。「ボエー・エヴリシング」である。

 これがすべてなのか。こんなにしんどいのに。こ…これがすべて!?これがー!?Everything!?

 その時の衝撃を、別の日に、第一人者の先生とのカウンセリングで話した。

 その頃、夫も子供もいて、雑誌の表紙などもよく飾っていた俳優の自殺に関する報道があった。自分はなんとなく、彼女がなぜ亡くなったのか、その感覚が、わかるように思うことがあった。はたから見たら、すべてを持っているように見えるのに。すべて持っているのに辛いなら、何を得たら辛くなくなるのか。自分が本当に欲しいものはなんだったのだろう。母親がどうして欲しいと思っているか、周りがどうして欲しいかを、そればかりを、ずっと考えていたから、いつまでたっても苦しいのに。

 「はたから見たら、私はとても恵まれているように見えるそうなのですが、とにかく毎日、とてもしんどいんです。」

 先生の目が光った。

「”はた”は何もしてくれません。」

 ”はた”という単語が主語の文章を、その時初めて聞いた気がしたのだが、確かに先生の言うとおりだった。

 私は必死に手帳にその言葉をメモした。

 ”はた”は何もしてくれないのだ。 


 

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