山雅に惚れて20年。クラブとともに生きる愛され店主・まるちゃんの原動力。【松本山雅】
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20年以上にわたり、松本山雅FCサポーターから愛される居酒屋がある。松本駅から歩いて15分ほど、店頭にある黒板・山雅伝言板が目印の『やきとりはうす まるちゃん』だ。店主の"まるちゃん"こと丸山篤史さんは、地域リーグ時代からの筋金入りサポーターであり、その"まるちゃん節"を聞くために、多数のサポーターたちが彼のもとを訪れる。山雅一色に染まる店内のルーツ、そしてまるちゃんの山雅愛に迫る。
取材班:すごい…ホントに松本山雅一色だ…。
まるちゃん:気づいたらこうなっちまってなぁ(笑)
【プロフィール】
まるちゃん。本名・丸山篤史。長野県松本市生まれ。高校時代から本格的にサッカーをスタート。その後も地域クラブでのプレーやクラブ立ち上げに関わり、サッカーへの愛を深める。今から約20年前、居酒屋『やきとりはうす まるちゃん』を開業。松本山雅FCのポスターや選手のサインなどで埋まる店内で、松本市のみならず、全国各地から集まるサッカーファンと日々飲み語らい、交流している。お店HP:http://r.goope.jp/maruchan
山雅色のまるちゃんができるまで
取材班:このお店を開いたのはいつ頃ですか?
まるちゃん:おれが40過ぎの頃だから、今から25年くらい前。高校を出てから飲食業をしたり、東京に行ってサラリーマンをしたりしたんだけど、いとこから「お前遊んでんだったらちょっと店手伝え!」なんて言われて松本に戻ってきて。そのあと独立して、このお店を開いたんだよ。
取材班:当時から松本山雅FCのファンで?
まるちゃん:ぜーんぜん!
でも一応、知ってはいたんだよね。おれ、高校を出てから地域のサッカーチームでプレーしてて、当時はよく山雅と練習試合をしたんだ。おれたちより1つ上のカテゴリーにいたから歯が立たなくて、格上の強いチームって印象。だから、おれにとっての山雅って、最初は練習試合の相手だったんだよね。
取材班:ということは、山雅のために開いたお店ではない?
まるちゃん:もちろん!
取材班:じゃあどうしてこんなに…?
まるちゃん:これね、実はお客さんが作ったんだよ(笑)
取材班:どういうことですか????
まるちゃん:いとこがサッカーに精通していてね。まあおれもサッカーやってたもんだから、最初の頃のお客さんはサッカー関係者がほとんどで。高校サッカーの監督とか、それこそ山雅の連中とかも来てたんだ。
開業から5年目くらいかな。このお店を通じて親しくなった人の一人が、2004年に「アルウィンスポーツプロジェクト」ってのを立ち上げてね。要するに、せっかくアルウィンみたいに立派なスタジアムがあるんだから、アルウィンからJリーグを目指すチームを作ろうって活動を始めるわけ。
でも、一からチームを作るなんて大変じゃん?
だから、既にあるチームをみんなで強くしていこうってなって。そこで候補に挙がったのが「アンテロープ塩尻」と「松本山雅」の2つ。その知人から「まるちゃん、どっちのチームがいいかな?」って聞かれたおれは、「山雅でいいんじゃねえのか」って言ったんだ。練習試合をよくする相手だったし、遠い親戚が監督をしてたこともあったし、何かと縁のあるチームだったからね。まぁそれもあって、松本山雅が選ばれるんだけどね。
そしたらさ、ウルトラスの連中がウチに来るようになって、山雅に関係するものをいろいろと置いてくんだよ。山雅を地域全体でバックアップしていこうとしてて、ウチのお店をその一環にできないかと考えたんじゃねえかなぁ。「メニューも作っていいすか?」なんて言って、緑色のメニューを作ってきて置いたり。とにかくこのお店を山雅一色に染めはじめてね(笑)それまではファンじゃなかったおれも、彼らにつられて山雅に引き込まれていったんだ。
取材班:ご自身の愛からスタートしたお店かと思っていました。
まるちゃん:いやいや、サッカー関係で食っていこうなんて全く考えていなかったよ。やっていく最中で色んな人が関わってきて…まさかこうなるなんて想像もしていなかったね。
取材班:ちなみに先ほどさらっと言いましたけど、もしかして、まるちゃんの一声がなければ今の松本山雅は…。
まるちゃん:そうそう。あの時に「塩尻アンテロープにしようか」って言ってたら、松本山雅は今ここにいないだろうね。そうなんだよ、本当にそうなんだよ!(笑)
進化していく山雅のそばで
取材班:2004年のプロジェクトもあって、好きになった松本山雅はJリーグを目指すチームになったわけですが、ご自身のお店が山雅色に染まっていくことに対する抵抗はなかったですか?
まるちゃん:なかったかなぁ。そいつら(ウルトラス)に感化されてる自分がいたね。山雅には知り合いが何人かいたこともあったけど、初めて試合を見に行くようになって、そこからはもう大好きになったよ。
当時から地域リーグとは思えないくらいサポーターの熱はすごかった。おれもたまにはゴール裏に入って、バンデーラ(ゴール裏上段から下襷に通るタスキのようなもの)を持って応援してたけど、「こりゃサッカーやってた方が楽だわ」とか思って、ほとんどはタッチライン沿いで見ていたね。弁当食いながら見るのがおれの応援スタイルなもんで。
取材班:具体的に、山雅のどんなところに惹き込まれたんですか?
まるちゃん:人のつながりもあったけど、一番は強さかねぇ。
やっぱりJリーグを目指していくには、強くならなきゃいけなかった。それまではおれの友達なんかがプレーしてたけど、2005年に辛島(啓珠)が監督になって、そのあとにJリーガーの土橋(宏由樹)とか白尾(秀人)が入って、どんどんプロ化していくんだ。(2005年に北信越2部で優勝、2007年には北信越1部で優勝、2009年にJFL昇格)
土橋や白尾のプレーをはじめて見たとき、「そりゃあ違うわ」ってびっくりしたよ。もうね、俺たちがやってるサッカーじゃなかった。Jリーグのレベルの高さは知っていたけど、目の前で見るとさ、本当に全然違ったんだよプロは。タッチラインを割りそうなボールでも必死にスライディングして残すとか、生活かかってる連中が見せるプレーは衝撃だったよ。
見たことのない強さにうんと引き込まれていったんだ。自分の地域からJリーグ入りを目指す過程には夢があったなぁ。やっぱりおれは強いチームを見たかったから、わくわくしたね。
取材班:強いチームのサッカーを見ることが楽しかったと。
まるちゃん:ああ。当時、お隣のパルセイロは「地域の選手たちでJFLに行く」って意気込んでたんだけど、「そんなことやったら100年経ってもJFLには行けねえぞ」って言ってやったくらいだよ(笑)
取材班:その頃には、お店もサポーターから認知されるように?
まるちゃん:ウルトラスのつながりもあって、徐々に山雅サポーターのお客さんが増えていったね。
JFL時代はこのお店でパブリックビューイングみたいなこともしてて。とはいってもテレビ中継はないから、みんなでガラケーを開いて、現地から送られてくる速報を見て一喜一憂するだけなんだけどさ。あとは昇格が決まる瞬間って、客席からテープを投げ入れるじゃない?そのテープの芯を抜く作業なんかも、このお店でしてたんだよ。
取材班:知名度を上げたって意味では、映画『クラシコ』の存在も大きかったのでは?
まるちゃん:もちろんだよ!というか、一番うれしかったのは松本山雅を題材にした映画でウチのお店を使ってくれたことかもしれないなぁ。儲かるかも分からない状態でお店をはじめて、そのお店にいる自分の顔が全国を歩いたわけだから、少しはほめてやりたい気持ちもあるよね。「これ、まるちゃんの映画だね」なんて言ってくれた人も多かったし。
ここを通じていろんなサポーターと出会えたし、そういう瞬間瞬間に立ち会えたのは本当に良かったと思ってる。2018年にJ2優勝したときは、社長がここまでシャーレを持ってきてくれたんだ。あれもうれしかったなぁ。
まるちゃんが見据える未来
取材班:まるちゃんが思う、松本山雅の魅力ってどんなところですか?
まるちゃん:みんなが言ってるのと同じで、老若男女が応援する文化じゃないかな。みんながスタジアムに足を運ぶし、そういうところは胸張れるなと思うよ。最初は5、6人のウルトラスで始まったんだけど、彼らがウェルカムな姿勢で「誰でもどうぞ!」ってへだたりなく引き入れてたのが本当に良かった。
ゴール裏に女の子が来たら「こんなとこ女の子が来るところじゃないぞ」って言って水かけるようなチームもあったって聞くからね。でも山雅は最初からウェルカムだったのが、今みたいな応援スタイルに繋がってんじゃないのかな。ウルトラスのやつらがいなかったら、今の山雅はないだろうね。
取材班:と同時に、もっと強くなっていく姿を見たいと。
まるちゃん:地域リーグの時からずーっとそう思ってるよ!当時から応援しいてた人は少ないと思うけど、JFLに上がるのは本当に狭き門で大変だったんだから!(笑)
そういう歴史から考えると、すでに2回もJ1で戦えているのは大きなこと。反町さんが来てJ1まで引き上げてくれたのは感謝しかないし、もうここまで来たら、ビッグクラブと肩を並べるくらい強くなってほしい。だってさ、市民が立ち上げたクラブがそこまで強くなったら、すごいことじゃない?
取材班:単刀直入に聞きますが…経営の方はどうなんですか?
まるちゃん:これが儲かってねえんだ…(泣)
『クラシコ』の影響もあってたくさんの人に来てもらえて、いまはお客さんの80%が山雅サポーターになってる。でも逆に、一般客が少し離れたり、サッカー好きにとっても敷居が高く見えるらしいんだ。おれからすりゃ「敷居なんて高くねえし!」って思ってるんだけどね(笑)
このお店は「相手サポータ―お断り!」なんてことも全くやってないし、むしろウェルカムなんだよ。いまでも試合後は、両チームのファンが混ざってここで飲んでるけど、互いに持ち上げ合うくらい楽しくやってるんだ。逆に自チームをけなしあったりしてね。そういうサポーター文化はいいなぁと思っているし、もっと広まればいいなって願ってるよ。
取材班:最後に、今後このお店をどうしていきたいと思っていますか?
まるちゃん:全然わからねえなぁ(笑)ただ今までと変わらず山雅を応援していくだろうね。おれはぼんくらなもんで、ただ「山雅が好き」って気持ち一本でここまでやってきちゃったんだよ。
取材班:山雅ファンからすごく愛されている。それも続けられる秘訣ですか?
まるちゃん:うん。やっぱりそういうのがあるかもしれない。儲かんねえから「そろそろ潮時かなぁ」ってみんなに言ってるんだけど、「まるちゃん、それ何年も前から言い続けてるよね?」って言われてね。
まぁ、こんなミーハーなじじいだけどさ。一杯飲みに来てくれたらうれしいね(笑)
【了】
----------nest編集部より----------
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