むかし住んでいた場所にエモーショナルを感じないのは、自分にエモを感じてないからなの……?【6/11】
前からぼんやり謎に感じていたのだが、私はむかし住んでいた場所に対して、エモーショナルな気持ちになったことがとても少ない。
10年間住んだ街にある、毎日のように通っていたセブンイレブンに久々に行ってみても、セブンイレブンだなぁという感想以外の感想が生まれてくれないのだ。
とはいえ記憶力は悪いほうではないと思う。保育園のころの記憶もけっこう明確だ。いまだ、お遊戯会のせりふが覚えられなくて先生に怒られたこともハッキリと覚えている。ちなみにオズの魔法使いの劇だった。
私は「声がでかいから」という理由だけであるとき急に主役のドロシーに抜擢されたのだが、ドロシーは最初から最後まで出番があるため、ほかの子に比べてせりふが多かった。しかし、秀でて賢い子どもではなかった私は、滑らかにせりふを覚えることはできなかったのである。その様子を見た先生は途中でさじを投げそうになったらしい。なお、その劇のために先生が作った劇中曲もまだ覚えていて歌える。
(あ、話がそれかけているような気がする。まあいいや!)
そのほかにも、おやつにたまに出てきたクリーム色をしたアイスがおいしかったこととか、跳び箱を飛ぶたびに跳び箱をわらわらと崩しがちだった同級生のことはよく覚えているので、おそらく場所と思い出が紐付きにくいのではないか。
しいていうと、(あ、ここから急に冒頭の、毎日通っていたセブンイレブンの話に戻っています)酔っ払って蒙古タンメンのカップラーメンを床に盛大にこぼして、韓国のアイドルグループにいる人みたいな髪型をした店員さんに迷惑かけてしまったことを思い出して、あの人床にこぼれたカップラーメンを丁寧に掃除してくれてていい人だったなぁ、まじで申し訳なかったなぁという記憶がよみがって、「ぎゃああああああああ、うわあああああ、思い出したくなかったわあ……」という感想を抱いたりする感じだ。
あと、よく覚えているのは、セブンイレブンの近くの空き家の近くに、開封前の穀物酢がビンごと落ちていたこと。あれは本当に驚いた。持ち主はいったい誰だったんだろう。ふいに落としたにしては、500ミリのボトルはあまりに存在感があった。
それから、近所のインドカレー屋が割り箸を出してくれたことはよく覚えている。なんで割り箸? って思ったのだ。ただ、そのとき自分が何を食べていて、どんな状況にあったのかは思い出せない。一方で住んでいるときには気がつかなかった店やスポットに気がついて、「くっそう!なぜあのとき気がつかなかったんだ……」って気持ちになることはたまにある。
どっちかといえば懐かしい場所よりも、新しい道が気になるほうである。知らない新しい道は、私の記憶のなかの地図をどんどん更新して、まったく違う絵面にしていく。むかし住んでいた場所に行こうと思っても、道に迷ったあげく辿り着けないこともある。まじである。
「かつては毎日のように歩いて、すっかり心身に染み込んだように思えた道であっても、こんなにするっと忘れることができるのか!」と諸行無常は自分自身のなかにもあることを思い知った。
当時は結構引きずったはずのぎゃん泣きした別れ話のことよりも、お気に入りのバナナオレを買うために深夜コンビニまでの道を走り、バナナオレが売り切れていたときの悲しみのほうが鮮明なくらいなのである。あと、炊飯器を使うのがめんどうで、炊かれた白ごはんをポプラでよく買っていたのは妙に覚えている。大きな炊飯器で炊かれた白ごはんが売られているのは、コンビニとしてはレアケースだからだろうか。ポプラの白ごはんの真ん中には、梅干しがばすっと置かれていた。
きれいな横顔だったなぁと思い出すのは、ラーメン屋の外で飼い主をしずかに待ちわびていた白いわんちゃん。かわいい、とてもかわいい利発そうないぬだった。
人々の話を聞くたび、むかし住んでた場所とは思い出深く、感慨深いものなのだろうと思っていた。でもなんでだろう、自分の場合はそこまででもないような気がする。
なんで? って思った結果、ひとつ思い浮かんだのは、先に書いた「場所と思い出が紐付きにくい」という性質のほか、私自身が私の生活にたいしてエモを感じていないという可能性。もしくは自分にエモを見出さないように、あえてしている可能性か。エモは場所に宿るんじゃなく、思い出に宿るのだろう。だとしたら、私は場所だけでなく、自分の思い出にもエモを積極的には紐付けようとしていないのでは。
というか、もしかして、自分をエモくない存在だと定義しているんじゃないだろうか。
ただし、たまに「元職場の近く」とかに対しては、きゅーんとなることがあるので、エモさオールデイズゼロというわけでもなさそうだ。
しかしここまで書いてみてなんなんだが、エモさって。エモさとは。
エモとはいったいなんなんだろう……?
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