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タイムマシン(小説:24)

–ある場所–

また人を殺してしまった。

何度目だ。いい加減この繰り返しから逃れたいところだが、どうしたらいいのかわからない。きっと最適解があるはずなのに。

椅子に座り頭を抱えていると同僚が通りがかった。

「あぁ、またやっちまったのかお前。で、どうするのまた戻るのか?」

「いや、正直もうどうしたらいいのかわからない」と僕は弱々しく言い、大きなため息をついて、さらに項垂れる。

しばらく沈黙が流れた後、同僚は「わかった、ついてこい」と言い歩き出した。僕は重い腰を上げ、トボトボと後に続く。


–地上–

ある日空から謎の物体が降ってきた。

「ごぉぉぉ」という音をたて、猛スピードで空から落ちてきた。このまま、地球に衝突すれば甚大な被害を被ることは容易に想像できた。

誰もが目を瞑り、耐えられるはずもない衝撃が襲ってくるのをただ待つしかなかった。しかし、いつになっても衝撃は感じられない。人々は目を恐る恐る開ける。

物体は地面に衝突するすんでのところで、ぴたりと動きを止め、そして何事もなかったように、前からその場にあったかのように浮いていた。

銀色でアーモンド型の無機質なその物体は、無音でそこにただ佇んでいた。

監視カメラが一部始終を捉えていた。その映像は瞬く間に全世界中に広まった。


後日、研究所が調査をすることになったが、そんなことをする必要はなくなった。

突如、全世界中のテレビ、スマートフォン、PCの画面がジャックされると、この謎の物体についての説明が始まった。

その動画によると、どうやらその謎の物体はタイムマシンらしい。構成物質、エネルギー源、操縦方法などありとあらゆる説明が終わると、「世界に1つ、有意義な使い方を期待している」といった言葉を最後に残し動画は終わった。

世界中が大混乱に陥ったのは言うまでもない。

「誰が何のためになぜ?」「他の惑星の罠なのではないか?」様々な憶測が飛び交うが、正解などわからない。

世界中の学者、研究者が集められ連日の会議と調査が行われたが、わかったことは、動画で発信された情報と調査内容に相違が見られなかったことぐらいで、肝心な目的はわからない。

こうなってしまうとやることは1つ、ひとまずタイムマシンに誰かが乗ってみるしかないようだ。

果たして誰が乗るのか、いや乗るべきなのか、白熱した議論は続く。そんな時、1人の宇宙飛行士が手を挙げた。


宇宙飛行士がタイムマシンに乗る日、その様子は全世界で生配信され、全人類が固唾を飲んで見守っていた。

宇宙飛行士がタイムマシンに手をかざすと、音もなく扉が開き、宇宙飛行士は足を踏み入れる。

到底体が入る大きさではないように見えるが、宇宙飛行士は難なくタイムマシンに乗り込んだ。かと思えばすぐに扉が開き、宇宙飛行士が出てきた。

何か不具合でもあったのかと尋ねる記者に対して、宇宙飛行士は興奮気味に「本当にタイムトラベルできた」と言った。

記者はマイクを差し出し、どのような光景を見たのか質問した。宇宙飛行士は過去の町並み、人々の生活について事細かに、目をきらきらさせながら話した。

そして、次に記者は未来についても尋ねた。しかし、宇宙飛行士は少し困った顔をして、「まぁ、今よりも少し技術が進んでいたかな。でも、特に話すことはないよ」とだけ言った。

その後すぐに宇宙飛行士は研究施設へ戻ってしまったため、ひとまず質問はそれで終了となった。

その夜、宇宙飛行士は死んでしまった。正確には殺された。

研究所の発表では、宇宙飛行士がタイムマシンを壊そうとしていたため殺さざるを得なかったとの事であったが、そんな発表を信じる者は誰もいなかった。


–ある場所–

「これを見てどう思う?」僕の横に並んだ同僚はまっすぐ前を見つめたまま聞いてきた。

「なかなか興味深いよ」僕は、虚な目で前を見ながらほとんど口を動かさず言った。

「だろ?こっちがタイムマシンありで、こっちがタイムマシンなしだ。タイムマシンがあればなんて誰もが一度でも考えることだけど、実際合ったら足を引っ張ってしまう」

「だな、だけどあの宇宙飛行士は優秀だったよ。死んでしまったけれどね」

「そうかもしれないな。あの世界では変化を怖がる人達が多い。彼等を納得させるのは難しいことだよ。僕たち自信も例外じゃない」そう言うと同僚は僕の肩を叩き去っていった。

僕は二つの地球を前にしていた。片方は宇宙船を作り、太陽系の外へと飛び出している。もう片方はタイムマシンが落ちてきたあの日から何も変わっていない。

タイムマシンを持たない地球は、何度も文明が滅びそうになった。間違った道を歩んだ。それでも歩みを止めることはなかった。

しかし、タイムマシンを持った地球は、大きな変化があるたびに、元に戻りもっといい方法を模索した。何度も壁にぶつかり、何度も元に戻した。

傍から2つの地球を見ると、文明の差は明らかだった。もちろん、タイムマシンを持たない地球に地球滅亡のシナリオが待っていた可能性も捨てきれない。

ただ、どちらせよそこに留まっているだけでは何も変わらないということは確かだ。

僕は頭を抱える。

「どうすればいい」

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