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帝王切開の風景 その1


次女は帝王切開で出産した。右の卵巣に嚢腫(のうしゅ)と呼ばれる良性の腫瘍があったので、赤子を出すついでに一緒にそれも取ってしまおうという算段だった。
出産当日。全裸で両膝を抱えて横向きに転がるよう、看護師さんより朗らかに指示が出た。手術台の周りをスタッフが取り囲んでいる。これはなかなかの羞恥プレイだ。今確かに私の体はダルマのように丸いが、だからと言って、ためらいなく尻の穴丸出しで寝転がれるほど肝は据わっていない。
頬を赤らめながら言われた通りにすると、硬膜外麻酔と呼ばれる麻酔の注射が背骨の辺りに打たれる。これがなかなか上手く入らない。針が背骨と背骨の間を出たり入ったりする。もはや拷問である。ダルマは青くなった。
そのとき、ポタリポタリと顔の横に水滴が落ちてきた。あれ、まさか雨漏り?と思ったら、自分の冷や汗であった。氷のように冷たい。そして止まらない。命の危機を感じると、人は尋常ではない量の冷や汗が出ることを知った。29歳の秋であった。

その2に続きます。

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