見出し画像

【シナリオ】軽井沢で朝食を

シナリオセンター通信本科課題10「軽井沢」

華は母親の梨津子と二人で軽井沢に旅行に来た。せっかくの旅行でも別行動の梨津子と華。華には一人で行きたいところがあった。母と離れ離れになる前に…。

-----------------------------------------------------------------------------------

<人物>
平原華(16) 高校1年生
平原梨津子(36) 華の母

--------------------------------

〇平原家・食卓
平原梨津子(36)、離婚届に印を押し、
前をまっすぐ見据える。

〇軽井沢駅・北口・外
梨津子、大きなスーツケースを手に出てくる。
少し離れて出てくる平原華(16)。
手には小さな旅行鞄。
駅をバックに自撮りする梨津子。
冷めた目で見る華。

梨津子「ほら! 華も入って!」

華、すたすたと行ってしまう。

梨津子「え~待ってよ~」

慌てて追う梨津子。

〇ルグラン旧軽井沢・門・前
『LE GRAND』の看板のついた門。
奥に大きなお屋敷のようなホテルが見える。
梨津子と華が出てくる。

梨津子「じゃね~」

とタクシーに乗り込む梨津子。
華、梨津子の方を見向きもせず、
タクシーの向きとは逆に歩き出す。

〇タクシー・車内
ふぅと息をつく梨津子。

梨津子「アウトレットまでお願いします」
運転手「一緒に行かれないんですか?」
梨津子「一人で行きたいところがあるって」

動き出すタクシー。

梨津子「趣味も好みも全然違うんですよね~。
    親子なのに…」

と窓の外に目を向ける。

〇ルグラン旧軽井沢・前
足を止めて振り返る華。
走っていくタクシー。

華「……」

再び歩き出す華。

〇絵本の森美術館・入口・前
『絵本の森美術館』の看板。

〇同・展示館・展示室
展示を見ながら歩く華。
ふと立ち止まる。
視線の先にピーターラビットの絵。

華「……」

雷の音。

〇同・同・休憩スペース
窓の外は激しい雨。
椅子に腰を下ろし、外を眺める華。

スタッフの声「雨、すごいですね」

華、振り返ると小さな紙の束を手にした
スタッフがいる。

スタッフ「これ、もしよかったら…」

と小さな紙を差し出す。受け取る華。
『好きな絵本アンケート』とある。

華「……」

〇カフェルーエ・外観
晴れた空。雨粒で輝く緑の木々。

〇同・店内
メニューを見ている華。近くの店員に、

華「あ、あの…サーモンのなんか…
  ありませんでしたっけ? 前来た時食べて…」
店員「あ~今やってないんです~すみません」
華「あ、いえ…大丈夫です…」

〇ルグラン旧軽井沢・客室(夕)
開いたスーツケースが床に転がっている。
中はほぼ空。
周りにはブランドの紙袋がたくさん放置されている。
呆れたようにため息をつく華。
華のスマホに着信。『お母さん』の文字。

〇キッツビュール(夕)
壁にドイツ国旗がかけられたレストラン。
店内見回す華。
おいしそうにビールを飲んでいる梨津子を見つける。
梨津子も華に気づき、

梨津子「華~こっちこっち~」
華「……」

梨津子の向かいに座る華。
テーブルの上にお皿いっぱいのスモークサーモン。

梨津子「食べきれないのよ~協力して~」
華「……」

〇ルグラン旧軽井沢・露天風呂(夜)
露天風呂につかっている華と梨津子。

梨津子「あ~もう無理!
    先に部屋戻ってるからごゆっくり~
    あ~暑い!」

と出ていく梨津子。

華「入ったばっかりなのに」

と空を眺める。たくさんの星。

華「星、きれいなのに」

〇同・脱衣所(夜)
体にタオルを巻いて髪を乾かしている華。
乾かし終え、ロッカーを開く。

華「え?」

〇同・客室(夜)
すごい勢いで入ってくる華。
ビールを飲んでいる梨津子。
華、ブランド物のワンピースを着ている。
落ち着いた黒の大人っぽいワンピース。

梨津子「あら、似合うじゃな~い」
華「なにこれ」
梨津子「あんたが好きなブランドでしょ?」
華「そうじゃなくて! なんで…」
梨津子「あ~アウトレットで70パーオフだったから
    買ったの。遠慮しないで~」
華「……」

華のスマホに着信。『お父さん』の文字。

華「…もしもし」

おいしそうにビールを飲む梨津子。

華「…うん…わかった…」

華、電話切って、

華「お父さん、明日の朝、迎えにくるって」
梨津子「相変わらずせっかちね~」

梨津子、ビールをごくごく飲み、

梨津子「ッカ~~~うまい!」
華「……」

〇同・カフェ(朝)
モーニングビュッフェ。
梨津子、テーブルに料理を盛った皿をたくさん並べ、
もりもり食べている。
華がやってくる。
黒のワンピースを着て、両手で絵本を抱えている。

梨津子「朝ごはん、食べないの?」
華「…私、行くから」

梨津子、料理を口に運びながら、

梨津子「そ。あの人によろしく~」

おいしそうに食べる梨津子。

華「……」

華、くるっと梨津子に背を向け、
すごい速さで歩いていく。

〇同・フロント(朝)
勢いよく歩いてきて、足を止める華。
唇を噛み、絵本をぎゅっと抱きしめる。

華「……」

華、意を決したように踵を返し、
来た方へ歩いていく。

〇同・カフェ(朝)
梨津子のテーブルに勢いよく向かう華。
お構いなく食べ続けている梨津子。
華、梨津子の前に立ち、ワンピースをぐっと握る。

華「このブランド、
  ここのアウトレットに入ってないから」
梨津子「……」

食べ続ける梨津子。

華「……」

華、梨津子に絵本を差し出す。
食べる手を止め、絵本を見る梨津子。
『ピーターラビットのおはなし』。

梨津子「……」

梨津子、顔を上げて華を見る。

華「ん」

と絵本を差し出す華。
口の中の物を飲み込み、絵本を受け取る梨津子。
絵本を見つめる。

梨津子「……」

顔を上げ、華を見つめる梨津子。

華「……」

見つめ合う二人。

〇同・門・前(朝)
道に1台の車が停まっている。
華、一度立ち止まるが、決心したように、
そのまま車に乗り込む。

〇絵本の森美術館・展示館・休憩スペース(朝)
スタッフが壁に『好きな絵本アンケート』を
貼り出している。
『名前:華』と書かれたアンケート。
『好きな絵本:ピーターラビットのおはなし』
『理由:小さいとき、お母さんが何回も
 読んでくれた絵本だから』

〇ルグラン旧軽井沢・カフェ(朝)
テーブルにピーターラビットの絵本。
口いっぱいに料理を詰め込む梨津子。
手が止まる。
涙をこらえるように息をつき、
必死にもぐもぐと口を動かす。

〇車内(朝)
動き出す車。
後部座席の華、
こらえ切れず頬に流れた涙を掌で拭う。

〇道(朝)
まっすぐ続く道を、
華の乗った車が停まることなく走っていく。

<終わり>

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?