【シナリオ】雲まで届け
シナリオセンター通信本科課題3「帽子」
しっかり者のゆま5歳。ねぼすけのママと二人暮らし。ついにパパを発見! ぬいぐるみのピプーと一緒に追いかけます。
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<人物>
門川ゆま(5) 保育園年長
野崎信也(27) スリの常習犯
桐山エリ(38) エルドラドのママ
門川葵(30) ゆまの母
坂本昭太郎(32) 矢原町交番の警察官
森海斗(6) 小学1年生
森幹人(34) 海斗の父
宮内凛(10ヶ月) ゆまの友達
宮内崇(29) 凛の父
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〇門川家・寝室(朝)
マンションの一室。
むくっと起き上がる門川ゆま(5)。
隣で爆睡中の門川葵(30)。
ゆま、ブタのぬいぐるみに、
ゆま「おはよう、ピプー」
〇同・洗面所(朝)
ゆま、踏み台に乗って顔をぺちぺち洗い、
クリームを顔にぺたぺた塗る。
〇同・居間(朝)
お行儀よくシリアルを食べるゆま。
〇同・寝室(朝)
2枚のセーターを見比べるゆま。
〇同・居間(朝)
着替えたゆま、テレビをつけてハッとし、
駆けていく。
ゆまの声「ママー、起きる時間ですよー」
テレビで流れるニュース番組。
アナウンサーの声「こちらはスリの瞬間をとらえた
貴重な映像です」
野崎信也(27)の荒い映像。
ぼさぼさの髪と髭で隠れた顔。よれよれのコート。
戻ってチャンネルを変えるゆま。
テレビのお姉さんの歌に合わせて踊り出す。
〇ふたば保育園・玄関(朝)
赤ちゃんの泣き声に振り返るゆま。
宮内凛(10ヶ月)をあやす宮内崇(29)。
ゆま「……」
宮内「ほら、ゆまお姉ちゃんだよ」
凛の顔を覗き込むゆま。
ゆま「大丈夫だよ。お部屋はあったかいよ」
ピタッと泣き止む凛。
〇同・保育室
お絵描き中のゆま。隣に座っている凛。
ゆま「パパのたかいたかいはママより高い?」
凛「あー」
ゆま「ゆま、凛ちゃんより大きいから、
もしかして雲取れるかもしれない」
凛「だぁー!」
ゆま「わかってる。ちゃんとわけてあげるよ」
〇矢原町交番・前
ブタのぬいぐるみを抱いたゆま、
坂本昭太郎(32)に絵を渡す。
ゆま「指名手配お願いします」
坂本「…え?」
〇バス停
ゆま、バスに乗り込む人達に目をやり、立ち止まる。
ブタのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめ、
一歩踏み出すゆま。
〇バス・車内
混みあった車内に野崎。
サイドにブタの刺繍のあるキャップを被り、
髪も髭も整えられ、爽やかなお兄さん風の服。
バス停まり、人の間すり抜けて降りる。
〇橋
歩く野崎。
ポケットから女物の財布出し、
お札を数枚抜き財布を川に捨てる。
〇スナックエルドラド
小さなスナック。奥に2階に続く階段。
グラス磨く桐山エリ(38)。おなかが大きい。
ドアが開き、野崎が入ってくる。
エリ「…誰かと思った」
野崎「センスのいい奴多くて助かったよ」
エリ「その子もいただいてきたの?」
野崎「え?」
野崎、振り返ると後ろにゆま。
ゆま「パパ!」
〇矢原町交番・中
机の上にゆまの絵。
キャップを被った男の人っぽい絵。
サイドにブタっぽい絵。「ぶたさん」の文字。
〇スナックエルドラド
ドカッと座る野崎。
隣に座るゆま。
エリ「この子が生まれる前に2階から出てってね。
犯罪者と会わせたくありませんので」
野崎「こいつみたいにパパとか言うかもな」
エリ「勘弁してよ。外国でも行ったら?」
ゆま「ゆまんち行く?」
野崎「ゆまんちは外国か?」
ゆま、考え中。
ゆま「うん」
野崎「はっきりと嘘つくな」
エリ「ゆまちゃん、おうちこの辺?」
ゆま「ゆまんちはね、お巡りさんから、
こう行ってこう行ってこう行ってこう行くの」
と指で説明。
顔見合わせる野崎とエリ。
〇野崎の家・居間(朝)
ソファーで眠るゆま、むくっと起きる。
〇同・洗面所(朝)
顔を洗うゆま。
〇同・寝室(朝)
寝ている野崎。
ゆま、ドアから顔出し、
ゆま「お顔のクリームは?」
野崎「……ない」
出ていくゆま。すぐに顔を出し、
ゆま「シリアルは?」
野崎「…ない」
ゆま、出たり入ったり。
ゆま「お洋服は?」
野崎「ない」
ゆま「テレビは?」
野崎「ない!」
〇同・居間(朝)
歌い踊っているゆま。
野崎が来る。
ゆま、歌をやめ、ブタのぬいぐるみに、
ゆま「ゆまはダンスの時間だから、
パパと遊んであげてね」
と野崎にぬいぐるみ渡して踊り再開。
呆れたようにぬいぐるみを見る野崎。
背中にチャック。
〇スナックエルドラド
ゆまに焼きそばを出すエリ。
ゆま「わぁ~ゆまおなかペコペコだったの」
野崎「食ったらママのところ帰るぞ」
エリ「どこの子かわかったの?」
野崎、ブタのぬいぐるみの背中からメモを出す。
駅から矢原町交番までの地図。
ゆま、エリのおなか見て、
ゆま「トントンする?」
エリ「え?」
ゆま「ゆまね、ママが泣いてるとき、
よしよしってトントンしてたよ」
野崎「早く食えって」
エリ「ちょっと黙ってて」
ゆまの隣に座るエリ。
エリ「ねぇ、ゆまちゃん、なんでこの人が
パパだと思うの?」
ゆま、野崎のキャップを手に取る。
ゆま「これ、パパのお帽子」
野崎「パパと会ったことねぇんだろ?」
ゆま「このお帽子の人とお話してるママ、
いっぱい笑ってとってもかわいかったもん」
ゆま、エリのおなかをそっと触る。
ゆま「だから、あのママがいいなぁって思ったら、
おなかにぽーんって入れたの」
エリ、ゆまの口の周りを指で拭う。
ゆま「パパも一緒に帰るでしょ?」
野崎「……」
〇マンション・駐輪場
野崎、子供用の自転車を指して、
野崎「ここ」
ゆま、キャップを握りしめている。
森海斗(6)が自転車に駆けてくる。
ゆま「……」
ゆま、海斗にキャップを差し出す。
海斗「あった! お父さん! 帽子あった!」
森幹人(34)が駆け寄ってくる。
幹人「探してたんです! これ限定品で…」
ゆま、幹人をじっと見つめ、キャップを差し出す。
しゃがんで受け取る幹人。
幹人「ありがとう」
ゆま「……」
海斗「お父さん、早く!」
幹人「ありがとうございました」
出ていく幹人と海斗。
じっと見るゆま。
野崎「いいのか?」
ゆま「あの人はゆまのパパじゃない」
野崎「…ママは、お前と話してるときの方が
いっぱい笑ってかわいいと思うぞ」
ゆま、野崎をじっと見上げる。
野崎「…知らんけど」
ゆま「たかいたかいできる?」
と野崎に向けて両腕を出す。
野崎、ゆまを高く持ち上げる。
空に向けて手を伸ばすゆま。
ゆま「雲、取れない」
野崎「…今日は不調だ」
〇道~矢原町交番・前
手をつないだゆまと野崎。
自転車で戻ってきた坂本に向かって走り出すゆま。
坂本「ゆまちゃん!」
振り返るゆま。誰もいない。
〇矢原町交番・中
駆けこんでくる葵。ゆまに抱きつく。
ゆま「ねぇ、ママ」
葵「どこも痛くない? 大丈夫?」
ゆま「ゆまね、ママが大好き!」
葵「……もう! ママもゆま大好き!」
泣き笑いでゆまを抱きしめる葵。
ゆま、葵の腕の中でぷっくりと笑う。
<終わり>
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