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エンターテイナーではなく芸術家!ドラマ化のレンタルなんもしない人も彼から「面白さ」を抽出した! プロ奢ラレヤー著『嫌なこと、全部やめても生きられる』を読んで

この本は第二のプロ奢ラレヤーになれるという本ではない


プロ奢ラレヤーさん(以下、プロ奢さん)著の『嫌なこと、全部やめても生きられる』を読んだ。この本のカテゴリーとしては自己啓発本のたぐいに入ると思うが、いわゆるビジネス成功本とは一線を画している。どちらかというと、そういった正規のビジネスルートに乗れなかったり、乗っていても今の生活にどこか息苦しさを感じているひとだったり、成功が全てじゃないと思っているひとに向けた、「彼の『面白い』生き方や考え方を通して楽に生きてみよう」といったオルタナティブな人生本だと思う。

単純に彼のフォロワーで、彼の生き方が「面白い」と思って購入したひともいると思うが、彼の生き方を「面白い」と感じているということは、やはりどこか彼の生き方に憧れているひとも多いのではないだろうか。「奢られて生きていく」という「面白い」生き方をしているひとの思考や行動などを知ることができれば、自分も「奢られて生きていける」のではないかと考えるひとも当然ながらいるだろう。

しかし、誠に残念なお知らせだが、この本をいくら読み込んだところで、第二のプロ奢ラレヤーになれることはない。だからといって「読んでも、奢られて生きていくのできないのかよ。じゃあ読むのやめた」と手放してしまうのはそれはそれでもったいない。なぜなら、同じ生き方はできないとしても、この本に書かれている「面白さ」をきちんと理解できれば、あなたの人生にとって新たな発見や視野の広がりはあると思うからだ。

さて本書の「面白さ」を語る前に。

まずは、どんなビジネス書でも自己啓発本でも「この本を読めばこの著者のようになれる」「同じ行動を実践すれば自分も成功者になれる」と多くのひとが勘違いをしているので、それがたとえ誰であれ原理的に無理であるということを丁寧に説明していこうと思う。これは自己啓発本好きのひとや意識高いオンラインサロンに参加しているひとにかなり多い勘違いのひとつであるからだ。

ライター・編集を10年ほどやってきてわかった真実

ぼくは以前、10年ほど編集やライターの仕事をしてきた。

あるひとの本を出す時は、想定されるどんな読者よりも著者の思考や考え方をそのライターや編集なりが理解していなければそのひとの本をクリエイトする事はできない。さらに事実として言えることは、どんなビジネス本や自己啓発本、売れた小説、エッセイなどを手掛けた凄腕の編集やライターがいても、そのひとたちが勤め人をやめてそういった成功者になったり、面白い小説を書き上げた例は一度たりとも見たことがない。一部、編集と作家を兼ねているひとはいるが、それは元々小説家としての素質をそのひとが持っていただけであり、ある作家の作品を読み込んで同じような作家になったわけではない。

もし、そんなことが可能ならば、プレジデントみたいな意識高いビジネス雑誌を編集しているひとたちはみんなそんな雑誌社を辞めて、自分も何十億と動かす経営者になっていることだろう。

つまり、どんな読者よりも著者の思考を理解している編集がその著者みたいになれないのだから、ちょっと読んだだけでその著者と同じように成功したり、有名になったり、同じような生き方ができないのは当然なのである。

実際、プロ奢さんもこの本の後書きでこれは自分が喋ったことをライターに書いてもらっていると語っている。つまり誰よりもプロ奢さんの「面白さ」を理解しているそのライターが、出版業界を辞めて第二のプロ奢ラレヤーになれてない時点でそれは自明。ではなぜそれだけ思考をトレースしてもそのひとみたいになれないのか?

「面白い」生き方をしているひとを表面上真似ても絶対にそのひとのような生き方にはなれない

1.堀江貴文さんの場合

別の視点からも考えてみよう。たとえばホリエモンこと堀江貴文さんの新しい考え方やビジネス思考に感化されるひとは多い。ぼくの周りにもそういった言説を語るミニミニホリエモンみたいなひとは多くいる。

しかし考えてみて欲しい。堀江貴文さんの本を手にするぼくらのほとんどは労働者であり消費者である。しかし、堀江貴文さんは資本家であって消費者ではない。だからお金を消費に使わない。お金を単なる消費に使うことに「面白さ」を感じないひとなのだ。だから堀江貴文さんが「生活費なんて数万円あれば事足りる」というようなことを言っているのは、別に庶民に対してよく見られようと思っての発言ではなく多分彼の本心だろう。しかし、ぼくら凡人がそれを真に受けて、「あのホリエモンですら数万円で生きていけるって言っているんだから」と、そのまま真似してみても人生に「面白さ」を感じることはできない。なぜならホリエモンは消費にはお金をかけないが、資本を動かすことで価値を生み出し、そこで人生の「面白さ」を得ている。ぼくらには当然そんな大資本もコネクションもないわけだから、発言そのままトレースしても人生が「面白く」なるわけがない。

その辺、プロ奢さんも本書で「自分は月50時間ゆとりがあったらお金を生み出せるのか、それともただパズドラをやって終わるタイプの人間なのか……そこを見定めなければ、お金よりも時間、とは言えないのです」と、とてもわかりやすい例えで、自分が資本家なのか労働者なのか、その違いを書かれている。こういう気付きもわかりやすく伝えているのでその点だけでも本書はオススメだ。とりあえず話を進める。

2.ホームレス小谷さんの場合

さらにもうひとつ別の例を挙げよう。

プロ奢さんとは少しだけ似ているが、彼の登場前に「面白い」生き方をしているということで有名になったホームレス小谷さんという方がいる。彼は元々は売れない芸人で、キングコング西野さんの家に住まわせてもらっていたが、その家賃も捻出できなくなり、家を追い出されてしまうと同時に西野さんから「自分の1日を50円で売れ」と言われた。そして彼はそれを愚直にこなしていった結果、その生き方が「面白い」と評判になり、なんと、ホームレスをして50円で自分の時間を売っていたらその買い手が嫁になったり、さらに売れない芸人の頃には考えられなかった100万円の貯金もできてしまった。それからクラウドファンディングで資金を募って花やしきで嫁との結婚式を行ったり(クラファンのリターンはその結婚式に参加できること)、またその100万円以上あった貯金全額をフィリピンに寄付。理由はホームレスが大金を持っているのはおかしいからと。それがまた話題が話題を呼び、今ではオンラインサロンを作って、悠々自適な生活を送っている。

その後、それを真似ようと大勢のホームレス小谷フォロワーたちが自分の時間を50円で売り出した。でも誰一人として第二のホームレス小谷にはなれなかった。当たり前だ。ぼくもホームレス小谷さんを何度か50円で買ったことあるのだが、一緒にいるひとを温かくさせてくれる雰囲気や、とにかく笑顔でひとを持ち上げてくれたり、そんな生き方をしているとたまに見知らぬひとから暴言を吐かれたり実際唾を吐かれたりしたそうだが、それを笑顔で聞き流せる性質など、彼の個性によるところがなにより大きいからだ。またキングコング西野さんの拡散力といったものも馬鹿にならない。色々な条件が重なってのホームレス小谷の誕生であって、単に普通のひとが自分の時間を50円で売ったところで同じようにはなれないのだ。

プロ奢ラレヤーはエンターテイナーではなく芸術家

プロ奢さんはTwitterでの発信が「面白く」アンチを含めて大勢のフォロワーがいるが、彼の生き方の本質は、

「その『面白さ』を理解できるひとがたった数人だったとしても、そのひとたちがパトロンとなって生活をしていく生き方」

つまり芸術家なのだ。芸術家とは、大衆に受けることを追求するのではなく、自分の「面白さ」をひたすら追求していくひとたちのことだ。ただ、その「面白さ」が誰にも伝わらなければ、生前のゴッホのようにいくら素晴らしい芸術作品を描いても誰からも相手にされずたった2枚の絵だけしか売れず死んでいく。プロ奢さん自身も、「99万人に嫌われるけど1万人に好かれるような生き方」の方が良いといったことをよく言っているが、それってまさに芸術家の生き方なのだ。

ただ、ゴッホの時代と違い、今はネットで情報がすぐに拡散される。「面白い」生き方や作品を作っているひとをみつけてもらいやすくなった。

そしてプロ奢さんは間違いなく自覚的に演出していると思うが、大衆に理解されやすい発言で一般的なフォロワーを増やし、同時に大衆から忌み嫌われるような極論や常識はずれの発言で炎上することで、一般的な社会のレール上で生きてない「面白い」生き方をしているひとから発見されるし、自ら「面白い」ひとを発見することもできる。

「面白い」生き方をしているひとに飯を奢ってもらい、その「面白い」生き方をしているひとの話をツイートすることでより注目を浴びる。だから芸術家であると同時に大勢のフォロワーを楽しませているエンターテイナーでもある。

注目されることでより自分の「面白い」生き方にお金を投資することができるし、「面白い」生き方をみつけられる楽しみも得ている。これは彼の才能と努力と分析力、そしてそれを苦と思わない性質なので、Twitterで彼のような発言をしてミニミニプロ奢になってもフォロワーを増やすことはできない。そこも諦めてくれ。

本書を、あなた自身の「面白さ」をみつける手がかりにしろ! ドラマ化されるレンタルなんもしない人もそうして彼の「面白さ」から自分の生き方をみつけた

プロ奢さんの本質は「大勢に嫌われたとしても、自分を認めてくれる数人さえいれば生きていける」と前章で語った。それを「奢られて生きていく」「『面白い』価値観を発信していく」ということで彼は生活している……らしい。その内実は詳しくは知らないけれど。

だから本書がもし「面白い」生き方をしたいと思っているひとに役に立つとするならば、単に猿真似するのではなく、彼の生き方がなぜ「面白い」のか。その具体的なところから、読み進めていくことでその抽象的な「面白さ」を抽出して、自分にも当てはめることはできないか思考してみることだ。

彼が本書の中で具体的に言っていることを少し列挙すると、

・生活コストをさげて無駄なものに課金する
・働いてストレスを溜めてお気持ちゲージが下がるとその回復の為にお金を使ってしまい結果儲からない
・お金の価値は年を取れば取るほど下がる、二十歳の100万円とおじいちゃんになってからの100万円でできることは全然違う
・自分ができないしょうがないリストを作っておき、自分のやれる事、できることにフォーカスする
・まず自分が何で「ダメになりそう」なのか考え、人間関係ならその人からすぐに離れればいいし、仕事がしんどいなら転職する
・社会には「負けないこと、逃げ出さないこと」を強要してくる人もいるみたいだけど、野蛮な人はいつまでも野蛮だし、話が通じない。Twitterで意識が高い発言しているのは、だいたい実家暮らしの学生か金持ち
・朝起きるとか「当たり前のこと」ができなくても悲観することなく、むしろ、それを前向きに捉えて、これからの「ネクスト直立歩行」を獲得していく

などがある。具体的に「こういう風に視点を変えれば楽になれるよ」というものが多い。視点を変えてみるだけで楽になるというのは、まずかなり再現性があるのでそれだけでも一読の価値はある。さらにその「面白さ」に自分の特性を掛け合わせることによって新しい生き方をすることもできる。

プロ奢さんがアベマTVに出演しているのを見て、彼の「面白さ」を抽出して、自分の特性に合わせたことで成功した例が、レンタルなんもしない人さんだ。なんと今度NEWSの増田貴久主演でドラマ化もされるらしい。

レンタルなんもしない人さんはプロ奢さんの「面白さ」を抽出して自分にあてはめたが、個性が全然違っている。だからその「面白さ」の元であるプロ奢さんがレンタルなんもしない人さんになれないように、レンタルなんもしない人さんもプロ奢さんにはなれない。そしてそれでいいのである。

またぼくの友人でウイスキー藤村という奴がいるが、彼もプロ奢さんの生き方の「面白さ」の一部を抽出して、自分のウイスキーが好きというところにフォーカスを当てて、ウイスキーを飲んで語って愛して生きている。

天才ではない限り、「面白い」発想や思考は、最初は誰かから貰うものだ。「面白さ」はパクるしかない。ただ表面上だけではなく抽象度をあげて、自分の能力や個性といかにすり合わせられるかで、自分の生き方も「面白く」なる。

だから今あなたが生き方に悩んでいるのであれば、本書を読んでプロ奢さんの「面白さ」を少しでも抽出し、いかに自分の個性にフィットさせることができるかを考え抜けば、ゼロから考えるよりはるかに楽に自分なりの「面白い」生き方をみつけることはできるだろう。

「面白い」ひとのそばにいると「面白い」ことが起きる! プロ奢さんに奢ったことで個人的に変わったところ

これを書いているぼくは現在41歳だが、大学を出てからずっと社会のレールに乗らずに生きてきた。当然、若い頃は誰にも話せないような裏技的な金の稼ぎ方をしてきたり、個人事業主としてライターや古物商を営んできたりした。

だから社会のレールに乗っていない分、息苦しさみたいなものは同年代の会社員ほど感じて生きてきてないとは思うのだが、ぼくもネットで「面白い」生き方をしているひとをみつけて、直接会ってみるというのが好きで、前述のホームレス小谷さんもそうだし、プロ奢さんもまだフォロワーが2000人くらいの頃、Twitterで偶々みつけて、「面白い!」と思って連絡を取って奢って話を聞いた。

その時に、彼と彼の元妻のスロバキア人の女の子がチェコで出会ってたった二十日間で結婚した話を聞いた。それまでぼくの人生においチェコという国は世界史の授業で少し習ったくらいで、自分が行くなんて選択肢はなかった。しかし、その話がすごく「面白かった」のと、彼からチェコの大学で日本語を学んでいるチェコ人をFacebookで紹介してもらったので、その話を聞いた約一ヶ月後にはチェコに飛んでいた。空港からのバスから降り立った時のプラハの街の感動は今でも忘れない。プロ奢さんと出会わなければ決して見ることのなかった景色、そして現地の日本語を学んでいるチェコ人たちとたくさん知り合えた。

だから、今仮に無一文でチェコに放り出されても、ネット環境さえあればぼくはチェコの知り合いたちに助けてもらい生きていくことができる。ぼくの視野が広がっただけではなく、元は何もぼくと関係のない中欧の国になぜか日本語を話せる知り合いがたくさんいるのだ。これだけでもう「面白」すぎるじゃないか。

当時はよくプロ奢さんを家に泊めたりもしていたので、ぼくがライターで行き詰まっているのを話したら、厚意で「YouTuberのメディアでもやってみれば?」と助言をもらったことがあった。でもぼくはそれを漠然と聞き流した。聞き流したのはぼく自身がそれにはあまり「面白さ」を感じなかったからだ。彼も別に渾身の力で助言をしたわけではなく、直感みたいな感じで言ってくれたので、やらないのならやらないので別にいいんじゃねって感じでその後は普通にスマホをいじっていた。

その後の彼のメディア戦略を見ていくと、もし、その時の彼の助言に素直に従ってそれをやっていたらそこそこの成功(いわゆるそれで金が稼げた)と思う。それくらい彼は鋭いことを言ってくれる。しかし、それはぼくにとってやり続けることはできず、多分、途中で飽きて放り投げていただろう。良い助言を受けても、自分の能力や個性に合っていなければ、それで自分の人生が「面白く」なることはない。やはり「面白さ」を抽出した上で、自分のできること、できないことにすり合わせていくのがいいと思う。本書はそのための一助となりえるだろう。

また、最初に書いた通り、彼は「面白い」生き方を探求している芸術家なので、もしかしたら数年後と言わずプロ奢ラレヤーをやめちゃうかもしれない。今の彼がやっていることを「面白い」と思っているのなら、今の彼に会っておかないと数年後には奢って会うということもできなくなるだろう。

「そんな生き方をずっとしていけると思うのか」と彼みたいなひとに噛み付くおせっかいがたまにいるが、それこそ想像力の欠如だ。プロ奢さんはどう見たって会社に定年まで勤め上げるタイプじゃないのだから、当然生き方も数年で変わっていくに決まっているじゃないか。

だから今のプロ奢ラレヤーは今しかいない。なのでもし会いたいと思ったのなら奢ってみて実際に接してみるのもいいと思う。たしか奢るルールみたいなのがあったはずだから、それとうまく彼の気分と合致すれば飯を奢りながら「面白い」話を聞けるかもしれないし、自分のことを「面白い」と思ってくれるかもしれない。「面白く」なるには、実際「面白い」ひとに会ってそのまわりをうろうろしているのが一番だ。考え方も変わってくるし、思わぬところから「面白く」生きる裏技をゲットできることも往々にしてあるものだ。

ぼくは訳あって今は持病の双極性障害が悪化して海外にひとりでいくなんてできない。だからあのタイミングでチェコに行けた事は僥倖。なのでなにか彼の本を読んで気付きを得たのならそれをすぐに実行してみよう。いつ病気になって動けなくなるかわからないし、死んじゃうことだってあるので、やりたい事、またはそれに近いことをみつけられたのなら、それをやってみよう。逆にやりたくない事に気付けたのなら、それを思い切って辞めてみよう。

大丈夫。想像していたより大したことにはならない。そんなことより、自分にとっての人生の「面白さ」をみつけよう。



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