現代人は他人に興味を持てるのか【『LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる』読書感想文】

本記事はケイト・マーフィ著「LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる」の読書感想文である。

本書は「話を聞くこと」の大切さを説く本である。
話を聞くことは、本質的に相手のことを理解することであり、重要な行為であるはずだが、現代では話すことが重視され、聞くことは軽視されている、と著者は主張する。
他者とのつながりが希薄である現代社会において、人を理解し自分を理解してもらうために、聞く力をつけるべきだという。

本書では、聞くために必要な方法についても記載されているが、具体的なハウツーというよりは、「聞く(聴く)とはこのようなものである」という原理・原則を示すものである。
その中で私が取り上げたいのは、「相手に興味を持つこと」についてである。

前述した通り、話を聞くことは本質的に相手のことを理解することである。
本書の中で話の聞き方のNG例として、相手の話を受け、「〇〇といえば~」といって話題をすり替えたり、動揺している人や悲嘆にくれている人の話を聞いた時、その問題を解決してあげようとしたり、安心させようと説得したりすることが挙げられていた。これらは相手の話を「ずらす対応」であり、結局自分の意見を述べているだけであるため、相手のことを理解したいのであれば、このような対応をするべきではない。
優れた聞き手は、応答者がもっと深く理解できるように、話者にさらなる説明をうながすように「受け止める対応」をするという。そしてそのために、「真摯な好奇心にもとづいた」(p.235)質問を行う必要がある。

上記のように、相手の話を聞く姿勢として、相手に興味を持つことが重要であるという内容が、本書で何度も述べられている。言い換えれば、相手に興味を持っていなければ、話を聞く状態になっていないということである。
では相手に興味を持つにはどうすればよいのだろうか。本書ではそれについては詳しく掘り下げられていないが、ヒントになりうることは示されている。それは、chapter3のタイトルにもなっている通り、「聞くことが人生をおもしろくし、自分自身もおもしろい人物にする」というものである。
人の話を聞くということは、自分とは異なる他者の世界観に触れるということである。本や漫画、映画やゲームなどと同様、創作物に触れることはそれ自体が楽しいことであると同時に、それらの作品を通して自分の人生を豊かにすることもできる。人の話を聞くことも、その人が語る物語に触れることであるととらえれば、それが楽しく、実りあることであると想像できるはずだ。このように考えれば、興味を持って相手の話を聞くことができるのではないだろうか。

とはいえ、創作物の例を書いていて思ったことだが、昨今では状況がやや異なるかもしれない。情報過多の現代においては、手っ取り早く情報を得るために、倍速で動画視聴する人が一定層いる。彼らは、コンテンツそのものを楽しむというよりは、そのコンテンツに含まれる情報を得ようとしている。
そういった層の人たちにとっては、人との会話は、長くつまらないものに感じるかもしれない。それは本書で述べられている通り、「『思考』が話よりも速いから(p.129)」である。自分の知りたい情報に対してだけ反応するのは、本書で主張される「優れた聞き手」の行為ではない。
「聞くこと」が軽視されているという著者の主張が、倍速視聴という行為からもうかがえる。現代人は果たして他人に興味を持って話を聞くことができるのだろうか。

参考資料

  • ケイト・マーフィ(2021). 『LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる』. 日経BP
    https://amzn.asia/d/dsiycI3

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