マガジンのカバー画像

夜中詩

44
こぼれ落ちるのをすくってゼラチンで固めたやつ
運営しているクリエイター

#幻想文学

箱庭住み

箱庭住み

四角い箱庭に
赤い屋根のおうち
プラスチックの黒猫
陶器のオウム
フェルトの妖精たち
寂しくないように配置して
わたしはひとり暮らしている

むかしはもっと広いところに
住んでいた気がするが
記憶が遠すぎてわからない

カウンセラー役のきみがやってきて
わたしの心を分析する

さびしくて
こわくて
かなしくて
おこっていて
だけどたのしく暮らしていますね

箱庭の中に小さな海をつくって
いつでもき

もっとみる
明けの愚者

明けの愚者

水のない花瓶に
きみを生ける
大振りな滅紫の薔薇に挟まれて
きみは俯いてみせる

愛してるというより
好きだった
たぶん恋だった

きみの少年時代から抽出した
苦い琥珀糖を
齧りつづけて口は汚れた

早く朽ちてくれと
祈りながら冷たい水をそそぐ
きみは溺れ
最期をぼくにくれる
水が溢れ出し
夜を編み込んだ敷布は濡れる

ねえ
きみはぼくのことどう思っていた?
ちゃんと恨んでくれていた?

最初にプ

もっとみる
石と

石と

重いなと思ったら大きな石を抱えていた
石は静かにあたたかく
私の腕の中でゆっくりと呼吸する
ツバメたちが耳元で
底なしだから気をつけなさいと囁く
導くのは金色の脚をした少年たち
天鵞絨垂れ下がる天岩戸で
太古の蟲が果実を貪る
私と石は心を決める
やみいろの長い髪をした創造主は
石を見失わないようにと
赤酸塊の王冠を差し出す
煌々と灯される火よ
滴る血よ水よ
どこから騙されてたのかわかっているのかと

もっとみる
暗い山

暗い山

暗い山がある
物言わぬ山が
ずっしりと座っている
私の八畳の部屋のすみ
私は山の傍で本を読んだり刺繍をしたり
めそめそと泣いたりしてみるが
山は暗く静かに
深く呼吸をするばかり
四月の眩しいような朝に
山の端と私の端が
触れ合い
溶けていくような気がした
山のなかはびゅうびゅうと風が吹き
狐、狸、貉、蛇、狼の
遠吠え、呼吸、肉を食う音、這い回る音
暗い山は私を抱いて
小さな窓から入る陽光を遮る

もっとみる