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暗い山

暗い山がある
物言わぬ山が
ずっしりと座っている
私の八畳の部屋のすみ
私は山の傍で本を読んだり刺繍をしたり
めそめそと泣いたりしてみるが
山は暗く静かに
深く呼吸をするばかり
四月の眩しいような朝に
山の端と私の端が
触れ合い
溶けていくような気がした
山のなかはびゅうびゅうと風が吹き
狐、狸、貉、蛇、狼の
遠吠え、呼吸、肉を食う音、這い回る音
暗い山は私を抱いて
小さな窓から入る陽光を遮る
静謐で獰猛
獣の匂いと土の湿度
私の身体は半分朽ちて
暗い山の中で春の終わりを待っている

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