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『世界でいちばん透きとおった物語』

やふぅー٩( 'ω' )و
今回は、積読本の1つを紹介します。

杉井光 『世界でいちばん透きとおった物語』 (新潮社 、2023)


この本、やーっと読めました。
タイトルの意味が分かった時、そういうことかー!!と鳥肌が立ちました。ストーリーは、ミステリ調で、それほど驚くようなものではありませんでした。
感想はネタバレしか思い浮かばないので、途中ネタバレ注意報してから、好き放題書きます。
そうでないと、「すごい!!」しか出てこないんで。



ざっくりあらすじ

主人公は、母と2人暮らしをしていた。
父は小説家(ミステリ作家)であり、その小説家の愛人だったのは、主人公の母。
主人公は、父親に会ったことがない。

母は、校正の仕事をしていた。
母の仕事柄、よく編集者が主人公と母の住む家に訪れれていた。

主人公は、事故によって母を失う。
名前だけは知っている、父も病気で失う。

母を失った時と同じく、静かな生活が淡々と続くかと思いきや、相続の問題などについて話したいと、小説家の息子から突然電話がかかってくる。

病死したミステリ小説家、なにやら最期に小説を書き残していたようだ。
原稿が見つかれば、売れるかもしれない。
主人公は、初めて会う兄から原稿を探して欲しいと頼まれる。

ここから主人公は、会ったこともない小説家、仕事以外は遊び人。
この父親の遊び相手だった人たちに、原稿について聞き回る。
主人公の母繋がりで知り合いの、敏腕編集者が時折主人公を助ける。



以下、ネタバレ含む感想












12章から、急にテンポよく話が進む。
12章から、この敏腕編集者が出来事の全てを論理立てて説明する。

11章。
最後の最後で、誰かに燃やされて読めなかった622枚におよぶ原稿用紙。
ここは正直、消化不良だ。
なぜ、小説家の息子は母親を庇ったのだろうか。
編集者の推理が合っていれば、の話ですが。

この小説自体、編集者のセリフから始まっている。
そのページの冒頭から、編集者はすごいこと言ってる。

ーー「推理小説にたとえるなら、編集者は数多くの証拠を集めてひとつの形にまとめあげる探偵。校正者はその証拠をすべて吟味して裁判に完璧を期する検察官、というところでしょうか」

杉井光『世界でいちばん透きとおった物語』(新潮社 、2023)、9頁。

読書後に最初のページに戻ると、この始まり方は、この人が何かを終わらせてくれそうだと思う。
この小説のカラクリは、ちゃんと冒頭から始まっているのではないか。
それに気づいて、その美しさにゾッとする。

正直タイトルについては、最初あまり考えていなかった。
けれでも、探して欲しいと頼まれた小説家最期の原稿のタイトルが、
『世界でいちばん透きとおった物語』。
この本のタイトルと、小説家が残したかもしれない原稿のタイトルが同じなのだ。

淡々と主人公の聞き込みを読んでいたけど、12章の編集者の推論から急に面白くなる。

図書館や、書店にまつわる漫画や本を読んだことがある方。
きっと、こういうキャラクターに出会ったことがるはず。
記憶力と推理力。
1つの事柄から、あっという間に様々な可能性を広げて形にしちゃう人。
小さな種が、あっという間に大きな木になるような感じ。
また、その論理的展開が素晴らしい。
そして、その美しさには言葉を失う。

編集者の推論について異論のある箇所は書かれていないが、謎解きシーンは面白い。

その中での、本にそんな仕掛けが?!ってところに、めちゃくちゃ驚いた。
透きとおるって、そういうこと?!
仕掛け絵本を読むような高揚感。

最後まで読み終わってから、私自身「まさか、この本自体も?!」と透かしてみた。
うぉー!!!!マジか!!マジかー!!マジかー!!マジかー!!
発見して、単純に嬉しかった。

5升の「     」。
これも、分かった時に嬉しかった。
小説家がどういう話の流れで、この言葉を書いていたのかは、誰も知ることが出来ないけど。

そして、最後に主人公が「透きとおった」物語を書くとは。
これにも驚いた。

最後、主人公が書くシーンまで、彼はひたすら静かだった。
それが最後、急に主人公から音がたくさん、溢れ出るような感覚にさせられる。
たくさんの感情や言葉が、主人公から出てくるからだろうか。

書くこと自体、「小説書く」って決意して出来るものなの?とも思うが、主人公は以下のように表現している。

小説を書くという事は祈りに似ていた。そして他のどんな営みにも似ていなかった。

同上、223頁。

どれほど限りなく透きとおって見える海でも、必ず底がある。まっさらな砂が降り積もっている。そこに言葉を埋めておくこともできる。けれど物語は言葉を届けるためにはできていない。祈りと同じで、届ける相手を選べないからだ。ただ密やかに、水底で待ち続けるだけ。

同上、233頁。

最近の私の積読消化本、ジャンルが異なるはずなのに「祈り」と出てくることが多い。
日本語で「祈り」は、そんなに頻出単語だったっけ?などと、不要なことを考えた。

主人公の祈りについての考え方で、彼が静寂の中を好み、そこにいたことが分かるのではないかと思った。
実際、いつもの暮らしを主人公は好んでいた。
母が亡くなった後も、そこに住み続けたし、母の部屋はそのままにしていた。

静かにいつもの暮らしが出来れば良いと、常々思ってきた主人公。
小説を書くことによって、誰にも気付かれないはずの、埋まっていた言葉を届けようと変わる。

改めて、小説家ってすごい!!本もすごい!!
ページを捲って、何度も感動してしまう。

この本は紙じゃないと、仕掛けが分からない。
紙媒体良いんだけど、家や部屋は有限なんです。
でも、こんな面白い本に出会ってしまうと、紙の本最高!!ってなる。


この本を、読めてよかったー!!


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