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一筆啓上 (ホラー掌編:1,372文字)

あらすじ……

 僕の気持ちを、受け取ってください――。

 学校の帰り道で、フードを深く被った男が、私をつけていた。
 突然目の前に現れて、「一筆啓上」と言う。
 誕生日なのに、ほんとについてない―。

 ©Fortuna 2022 
 ※エブリスタのコンテスト(妄コン「おめでとう」)用に書き下ろしました。

一筆啓上

 学校の帰り道。背後から気配を感じる。誰かが私の後をつけている。誕生日なのについていない。
 睨みつけてやろうかと振り返る。
 男だ。
 上下黒い服で、フードを深く被っているから顔が良く見えない。

「やあ!」
 突然、その男が目の前に立ちふさがった。
「一筆啓上……一筆啓上……」と、繰り返しぶつぶつ言っている。
 なんなの、こいつ。
 フードの中の顔は、まだ昼間だというのに真っ暗。なぜか、異様に大きな丸々とした鼻のパーツだけ確認することができた。
「け、警察を呼びますよ……」
 と震える声で言い返すが、その男は「一筆啓上……一筆啓上……」と繰り返すだけ。
 
 横を通り抜けようと、一歩前に出たときだった。
 白い箱を突然その男から手渡されて、反射的に顔を背けながら両手で受け取ってしまった。
 納得したのだろうか、男は一目散に行ってしまった。

 その箱を開けてみると、カットされた苺のショートケーキが2個入っていた。
 途中で捨てるわけにもいかず、どうしたらいいのか迷っていると、気がつけば自宅に着いてしまった。
 この状況を助けてほしくて、お母さんを呼ぶが返事がない。
 買い物に行っているのだろうか。
 しばらく待っていたが、バイトに間に合わなくなるので、その箱を冷蔵庫にしまうと、着替えて外に出た。


 バイトから帰ると、テーブルの上には、ショートケーキを食べ終わったあとの皿があった。
「お母さん! 冷蔵庫の中のケーキ食べたの!?」
「そうよ。いけなかった?」
「体調……大丈夫だった……? 腐ってなかった……?」
「ううん。ふつうにおいしかったわよ」
 あの男は変な人だったけど、お母さんに何ともなさそうだから、ケーキは食べても平気なのかもしれない。

 このショートケーキには、大きくて丸々とした苺が二つのっている。
 毒が入っていたらと緊張する。
 苺を一つ口に入れた。甘酸っぱくて普段の苺である。
 次は、フォークでショートケーキの先端をすくった。味も普通だった。
 なーんだ、と心配して損をした。
 しかし三口目のフォークを刺したところ、白いクリームから真っ赤なクリームに変わった。
 異様に生臭い。
 ほじくると、ぽろっと白いフルーツのようなものが、音をたてながら皿の上で転がった。
 なにこれ……。
 顔を近づけた。
 上が少し黒くなっていて、下には二本の角がある……。
 あ、歯だ!!
「きゃ――ッ!」
 わかった瞬間、恐怖で飛び上がった。
 さらにほじくると、ちりちりの黒い毛も数本出てきた。
 めまいがする。
 まだ口にしていない苺があの男の鼻に見えてきて、急に胃のあたりが熱くなってきた。
 吐きそう!
 もう無理!

 トイレに駆け込み、胃の中にあるものを出し続けた。
 壁に寄りかかりながら、恐怖で涙をこぼしていた。

 一筆啓上……一筆啓上……。
 まさかと思った。
 便器からあの男の声がする!
 覗き込みたくない!
 一筆啓上ッ……一筆啓上ッ……一筆啓上ッ……一筆啓上ッ……!
「お母さんッ! 助けてェ!」
 無我夢中でトイレから出た。
 お母さんがキョトンと廊下に立っている。
「ど、どうしたのよ?」
「お母さん、怖いッ!」
 お母さんの胸に飛び込んだ。
 ぎゅっと抱きしめてくれたおかげで、少しずつ少しずつ落ち着きを取り戻す。

 一筆啓上……一筆啓上……。

「えっ…?」
 
 見上げると、私のお母さんの顔は、鼻を除いて真っ黒になり、その鼻は大きくて丸々とした苺のようになった。

 一筆啓上……一筆啓上……、お誕生日……おめでとう……。

一年間更新がなかったとき、私はこの世にいないかもしれません……。