インナーベイビー、受肉する。|らくがきからLive2Dモデルを作ってもらった話
お気に入りの手放せないぬいぐるみみたいな自分のキャラが、頭の外で動いたら、なんてすてきなんでしょう。
自分の拙い絵を、アバターにして動かしたい…!
そんなことを思ったことはありませんか?
わたしは、AI画像生成のブームにその欲望に火がついて、Midjourneyにお願いしまくったところ、全然ダメ。
AIはらくがきからすごい絵を作れる!
なんていうけど、すごすぎて逆に、困ります。
諦めかけたものの、ついた欲望の火は消せず、3/26に下記でらくがきをアバター化してくれるクリエイターを募集していました。
そしたら!
Twitter経由でシブタク/ぽちみんさんに声をかけていただき…!
先月末、受肉が完了しました。
絵が上手い人のことを「神絵師」っていうけど、らくがきに命を吹き込むのって、まさに「神」の技だよね。
準備されたパーツを組み合わせてアニメ絵のアバターが作れるアプリもあるけれど、原画から期待している動きを忠実に再現してもらうのは、少なくとも今のAIサービスでは無理。
神の許可を得て、その受肉ストーリーを公開します。
「手描き感」を残そうとテクスチャをつけることにコケる依頼者
Twitterからのご案内によろこんで、早速メールでやり取りを開始したのが、4月11日。
去年、Adobeのソフトでひとつ作ったことがあるものの、専門的なことは何もわからない状態。
しかも、全部お任せでもない、動きをつけるだけでもない、
「デザインはあるけど、線をきれいに描き直してほしい」
という、ちょっと隙間な、受けるにあたって一番面倒そうな依頼。
「できると声をかけてくれた」という善意に甘えつつ、なるべく最初からイメージが伝わるよう、いろいろ確認の質問をしてみました。
そして、13日に参考画像を提出。
これでも、描くのに数時間かかってます。
元が落書き的な描き方なので、タブレットで線を引いて色を塗ると、どうしてもイメージとぜんぜん違うものになってしまう悲しみ。
「ラフっぽさ」ってほんと出すのが難しい…!
この脳内再現率が低すぎる画像を頼りに、なんとか伝わってほしい。
返信が爆速でいつ寝ているのか心配になる
ということで、参考画像からアバターを作っていただくことになったのですが、わたしが「参考画像」と言いつつ、やたら描き込んでラフっぽさが壊滅していたせいで、その画像をパーツ分けさせてしまう事態に。
せっかく作業していただいたのに…!
でも、この線では動いても、自分で描いたくせに、自分の頭のなかにいる存在とは、まるで別物。
意図を改めて伝え、線を描き直していただきました。
左は、わたしの画像をそのまま踏襲したもの。
右は、ラフに仕上げたもの。
断っ然、右がいい…!
あまりの手腕に、欲望を掻き立てられたわたくし。
ソリッドな線でも余裕でラフに見えているのに、自分の頭のなかにあった、
「鉛筆で描いたっぽい線」
というイメージが、捨てられずにいました。
頭のなかで再現しきれないから、適切かわからないまま、諦めきれない。
恥を忍んでお願いできるか聞いてみましたところ…、
来ました…!
かわいい…!
なにこれ、絵本のキャラ?
これなら、サン○オの店にそっと混ぜてもバレないんじゃない?
と思うくらい、ピュアでプリティな姿の3案目が送られてきたのでした。
頭のなかのイメージのあやふやさに翻弄される
かわいい。
線が変わるだけで、かわいさアップ。
線ってすごいんだなあ。
しかし一方で、
「かわい、すぎる…!」
という違和感が発生。
このキャラの中身はあくまでおばさんのインナーベイビー。
誰もが尊いと思うような、無垢でまっさらな存在じゃない。
むしろ、現実世界ではけして受け入れられることがない、
やっかいさを蓄えた存在。
線の柔らかさによって、その厄介感が消えてしまった。
自分のインナーベイビーを投影するのには、きよい存在になりすぎてしまったのです。
他の人には、かわいいならいいじゃん、って話ではあると思うのですが、目的はあくまで頭のなかにいる存在を受肉させること。
悩んだ末、最初の2パターンにあった右側の案に戻って、お願いすることに。
神絵師さまはもう、わかっておられたのに、回り道させて、申し訳ございません…!
高機能すぎて、意図せぬ表情が出る
さて。
ここからは、動きの調整です。
元の絵にはない表情をコンピュータで補完することで、表情を滑らかに見せるのがVTube Studioのすごいところ。
しかし、これが逆にキャラクターらしくない表情を作り出す原因になるという事実に直面しました。
初期パラメータだと、
常に半目扱いとされ、
目がぱっちり開かないのです…!
半開き状態を回避し、ちゃんとまばたきをさせるには、キーバインドしかないとのこと。
これ、キャプチャされる身体の問題でしょうか?
まさか、ヴァーチャル空間でアバターを動かすのに、動かす人の顔面の平坦さが障害になるとは思いませんでした。
まあ、人間にも、目を開けてるのに「寝てる?」とか言われるけどさ…。スムーズなアバター操作ための整形やメイク、そのうちあるのかなあ…。
ちょっとせつない気持ちになりながら、なめらかさは求めていないので、ほとんど瞬きしない設定にし、瞬きはキーバインドで行うように変更を依頼。
細くて小さな目でも、キーバインドなら問題なし!
顔面バリアフリーな設計となりました。
中間の顔がやさしすぎる
さて、ソフト側で表情のつながりを補完されることによる違和感は、目だけではありませんでした。
口も同じように中間の状態になりやすく、それが自分の中で存在しないキャラの表情だったので、かわいいけど、違和感を感じてしまう。
少し微笑む、少しだけ口が開くのは、うちの子らしくない。
頭のなかでは散々遊ばせてきたのに、
これまで、外で動かしたことがないから気がつきませんでした。
うっすら微笑んだり、微笑みをたたえている顔は、自分のなかではありえない。
この子、極端な表情しか、しないんだ…!
20年も同じモチーフを描いていても、言語化できていない、客観視できていない「らしさ」がある。
受肉させることで、意識化できるイメージの解像度が上がることに、気付かされた瞬間でした。
閑話休題:インナーベイビーのルーツについて
さて。
個人的なことを振り返るのは、本題から逸れるとは思いますが、(自分自身のために)ここで、そもそもこのインナーベイビーがなんなのかを、振り返っておこうと思います。
それは、あらゆるわたしのアカウント名で使われている、neotenylabのルーツで、「人間はネオテニーである」という20代のわたしの作品テーマがねっこにあります。
ネオテニーとは何か、って言うと、
未成熟なまま成熟する現象のこと。
あの、昭和の終わり頃に一世を風靡したウーバールーパーがその代表。
別名アホロートル、メキシコサラマンダーと、呼び方によってイメージ変わりすぎだよ生物選手権第一位を(わたしのなかで)キープし続けている、両生類オオサンショウウオのなかまは、オタマジャクシ的特徴を残したまま成体になる、ネオテニーです。
そんなネオテニーの特徴を、年を重ねるにつれ幼児化する自分自身の絵に見出し、なぜか妄想大爆発で人類全体の傾向として重ねあわせ、自分の絵の変遷を観察することで人間の根源的なニーズに迫ろうというコンセプトで絵を描いていました。
今思えば、なんのこっちゃない、学生時代が終わり、存在を認められるために条件をどんどん課される環境に投げ込まれるなかで、絵に投影される憧れの対象が、これまで描いていた美しい女性像から、ただ無条件に特別扱いされて庇護される存在である赤ちゃんに退行してしまったのでしょう。
ただ、私の個人の実感としては、いくつになろうとも、「無条件にただ庇護される存在でいたい」というニーズは、何歳になっても消えるわけじゃなくて、なんらかの手段で満たし続ける必要はあると思っていて、
そのニーズを、心理学的な文脈で広いスコープで使われる概念である、インナーチャイルドのなかで、最も幼い自己を表す意味で、ここではインナーベイビーと名付けています。
(↑満たし続ける必要性が最大値だった頃をふりかえった話)
今は、そういう幼いニーズを無邪気に顔を出せる場所が、あらゆることがオープンに、透明になるなかで減っている時代です。
年々その受け皿となる幼児性を満たすようなコンテンツが増えてきているという点では、社会に偏在していた幼児性が結晶化して、見えやすくなっていることで、「社会がネオテニー化してる」ように見えるかもとは思っています。
Mac民がソフト選べなかった頃を思い出す
話を戻しまして、こうしてアバターは、表情の変化はキーバインドで行うことで、頭でイメージした通りの動きが、再現できるようになりました。
キーバインドとは、キーを押すことで特定の表情が現れるように任意のキーに任意の状態を割り当てること。
まばたきと笑顔2種を設定しました。
さあ、これでついに完成…!
VTubeStudioで透過用の背景を設定し、OBSで背景を透過、いよいよ画面収録してみることに…!
使ったことのないソフトのインストール。使い方の検索、試行錯誤。
はじめての領域に踏み込むと、パソコンって、こんなこともできるんだ〜!
と、その界隈にいた人には当たり前のことに、遅れて驚いたりして、浦島太郎な心持ちに。
Windowsであれば、これをさらにリアルタイムで配信するところまでできるのですが、自分のMac環境では、ここで画面収録が限界点。
今や、WinでもMacでも使いやすい方でいい時代になったと思っていましたが、十年ぶり以上に、「Macじゃできない」という痛みを味わい、思わぬところで20代に戻った気持ちになりました。
アバターで配信するならWindows!なんですね〜!
インナーベイビー、受肉完了
ついにMacでできる果てに辿り着いた受肉への旅。
4/26、神絵師の神通力によって、めでたく命が吹き込まれたインナーベイビーが、動画として記録できる日がやってきました。
どうか、このアバターが映るディスプレイの手前に、四十過ぎの女が同じ顔をしている姿を、絶対に想像しないでください。
これまでは、イメージの世界でしかみることができなかった、自分の最も幼いニーズの権化に、そっくり同じ動きで見つめ返されるのは、なんとも不思議。
じんわり満たされる、なんかのセラビー体験のようでした。
自分の最も居場所のないニーズが、動かすことで、ちょっと満たされる。
インナーベイビーの受肉は、ともすれば暴力性にもなる、社会的にはやっかいなニーズの、平和的解決法、なのかもしれません。
今の自分と比べようがないアバター体験
「オリジナルアバター作成」というと、アニメ調であれ、本物の人間ぽい仕上がりであれ、魅力的な若い男女のイメージが大半だという印象があります。
リアルで、あたかもそこにいるかのような、現実の世界に引き寄せた美しさ、今の自分の理想を凝縮して物質化したような姿。
「自分」だと思えることが、目指されているのかなあと感じています。
でもそれは、夢を叶えてくれるけど、一方で現実の自分のしょぼさとのギャップがしんどくなるという両面があるわけで。
ヴァーチャル空間で高い理想を叶えれば、現実がさもしく見えるのは、仕方ないことです。
だったら、せっかく何にでもなれるのだから、そもそも「今の自分」を離れて、今の自分とは比較できない、全く違う身体性を持ったアバターに入ってみる体験も、夢を叶えるアバターとは違った開放感、発見があって、楽しいのでは?と思います。
今回、わたしもインナーベイビーという、今の自分から離れた存在を受肉してもらったのですが、そういう「理想像じゃない」アバターを作れるクリエイターさんを探すのに、本当に苦労しました。
シブタク/ぽちみんさんは、そのようなニーズに応えてくれる、数少ないクリエイターさんです。
今回、面倒なやり取りを含む制作過程を記事にすることに関しても、ご快諾くださり、こうして記録を残すことができました(重ね重ね、ありがとうございます…!)。
この記事が、こういうクリエイターさん探してた…!という方のお役に立てたなら、うれしいです。
(↑納品までのステップから制作費用まで、詳細なご依頼方法はこちら)
ぜひ、あなたもすてきなアバターを作ってみてくださいね…!
自分の書く文章をきっかけに、あらゆる物や事と交換できる道具が動くのって、なんでこんなに感動するのだろう。その数字より、そのこと自体に、心が震えます。