【31. 再燃】

…チリン…チリン…チリン…
と鈴が鳴る。
軽快な足音のようにも聴こえるその小さな音色は、
…チリン……チッ…リン…
ちょうど棚をひとつ挟んだ向こう側で急に途絶えた。
心配になって
…スッ…
と背伸びをしてみるが、低い身長のせいか頭すら見えない。
とりあえず棚の端のほうへ廻り込み、そこからそっと覗いてみた。
─あれ?消えた…?─
一瞬そう思えるくらい、彼女は通路の真ん中辺りで床に片手を突いて小さく蹲[うずくま]っていた…。
近くにいる一人のお客さんが彼女を心配そうに
…チラチラ…
と見てはいるが、声を掛けるまでには至らない…。
仕方なく…彼はゆっくりと近付いて行き、
「大丈夫…?」
と声を掛けた。
《もうダメ…立ってらんない…》
苦しそうに悶える彼女の背後からお腹に手を添え、彼は何とか抱え起こそうとする。
けれど…
《押しちゃダメ!…だってば…ムリ…マジで…立てないっ…》
息も絶え絶えに訴える。
「…しょうがないなぁ…もう…」
口をアヒルみたいに突き出した彼は、面倒くさそうにジーンズのポケットへ手を突っ込んだ。
するとすぐに
…すぅ~っ…
と彼女は自力で立ち上がる。
立ち読みしていたそのお客さんは、顔だけをこちらに向けて不思議そうに2人を眺めていたが、
「あ…大丈夫ですから…」
と彼が軽く会釈をすると、また雑誌へと向き直った。
《話し掛けなくて良いから…!》
彼女は眉をひそめ、彼の腕を
…ペシッ…
と、ひと叩き。
「もう行くよ!」
せっかく介抱に来てくれた彼を置き去りにし、彼女は独り、そそくさとその場から立ち去って行く。
「ちょっと待ってよ…」
彼はその後を追い掛けて行った。
ポケットに手を突っ込んだまま…。
「…ひゃっ…」
と声を出したかと思うと、彼女の歩みはフリーズし、またその場に蹲み込んだ。
《お願いだからストップぅ…》
「はいはい…勝手に自分だけ歩いて行かないの…」
彼のポケットの中にはリモコン。
彼女のショーツの中にはローター。
そしてショーツの隙間から…
…カコン…
腰の部分に挟んでいた筈の受信部が床に転がり落ちた。
彼女は慌ててそれを拾い上げ、スカートの裾から手を突っ込んで元の位置へ…。
しかし、もう遅い。
彼女はさっきのお客さんとまた目が合ってしまった。
流石に今度はイヤらしい、好奇の眼差し…。
彼女の視線に気付いた男性は、すぐに素知らぬ顔をして天井を見上げ、立ち読み疲れを解[ほぐ]す感じで首を回していた。
でも彼は気付いていた。
その間もその後もずっと…
目線だけは
…じ~っ…
と彼女の脚元に注がれていたことに…。

まさにこの反応こそが、これまで彼がギャラリーに対し抱いてきた切なる願いのひとつである。
さっき、棚の向こうに見える男性の後頭部と鈴の音が交差する位置を目掛けてスイッチを入れたのも全て計算尽く。
しかも上手い具合にほんの数mしか離れていない場所で彼女は蹲み込んだ。
その太腿の間からは、まず間違いなく奥で鳴り響く怪しい振動音が丸聞こえだった筈…。
まぁそもそも…
そう滅多に女性が来るような場所ではない。
それに…
ホームセンターのペットコーナーで可愛いらしい猫ちゃんやワンちゃんを眺めた後に2人で選んだこの赤い鈴付きチョーカ…それを首に巻き着けた格好の挙動不審な女性が店内を
…ウロウロ…
しているのを見て、興味の湧かない男性などこういうお店にはいないだろう。
ただ…
─見たい…─
という興味、若しくは
─見よう…─
という勇気が、“遠慮”という自制心に打ち勝つことが出来るか…それだけの話し。
そして彼はそういった人物が居合わせることを常に思い描いてきた。
神様は漸くその願いを受け入れてくれたらしい…。

彼女は急いで立ち上がりその男性の視界から外れようと棚の陰へ。
《ちょっとぉ…他の人もいるんだから止めてよぉ…》
「ん?何を…?…あ、これぇ?」
彼は意地悪して、またまたスイッチON。
《…は…ぁっ…》
切なそうに彼にもたれ掛かる。
彼はその耳元に息を吹き掛けるように
《イッても良いよ?》
しかし、例えイキたくても…ここはお店の中。
《ダメだってばぁ…!》
極端な内股にした股間を手で押さえ、今にも
─お漏らししちゃいますぅ…─
のポーズで
《ほんっとに…ヤバイからぁっ…!》
艶[なまめ]かしく悩ましげな顔を魅せた。

これまで色んな経験を積んできた2人だが、初めてそういう玩具を使ったのはかなり後になってから。
勿論、興味が無った訳ではない。
「案外…良い値段するね…?」
そんな話しをこの棚の前でした覚えもあるにはあるが、
─どうせまた、すぐ壊れてしまうんだろうな…─
という理由から敬遠していただけ。
でも実際試してみると…思っていた以上に彼女の反応は上々…。
しかし…最弱にボリュームを合わせているのに微細な振動は激しく、クリちゃんに直接触れた状態での歩行は困難な様子…。
なので…
彼はその場でスカートを捲り、ショーツの膨らんだ部分を摘まみ、それを少し後ろにズラした。
…にゅるっ…ごりっ…
一瞬にして彼女の身体に呑み込まれる。
─あ…でも…受信部はどうしよう…?─
余っているコードは小さくひと結びした束に纏め、受信部は…
…クルン…クルン…
と何回か捲り返したウエスト部分に一緒に包み込んでみた。
どうせそこは上着の裾で隠れる。
─その分、丈がちょっと短くなっちゃったけど…
ま、いっか…─
「こうしとけば大丈夫じゃない?」

─何が大丈夫なのよ…?─
と彼女が思う間もなく蹲み込んだ彼は、徐にショーツの両端を摘まみ、足首まで一気に下げる。
《ちょっとぉ…!これじゃ見えちゃうと思うんですけどぉ…?》
《大丈夫、大丈夫…。
はい!右足ぃ…はい次!左足ぃ…》
いつも通り…ちょっとだけ強引な彼に言われるがまま、その肩に掴まりながら片足ずつ浮かせてゆく。
そして、たっぷりと、生温く染みたショーツは丁寧に折り畳まれ、一旦彼の鼻先に押し付けられた後、
《エッチな匂い…いっぱいするよぉ?》
《もう!嗅がなくって良いからぁ…》
何も入っていないほうのポケットへと消えていった。

で…、試しに
…ヴヴヴヴヴ…
と鳴らしてみる。
「どう?」
─さっきよりはよっぽどマシ。今度は何とか歩けそう………かな…?─
そんな意味を込めて彼女は頷いた。
ってことでプレイ再開…。
でも結局…
途中で2度ほど彼女の中からそれが飛び出し、同時に床を濡らしてしまったのは言うまでもない…。

店内で一通りお遊びを楽しんだ後、車へと戻る。
彼女はすぐさまティッシュに手を延ばし、誤って濡らしてしまったスカートの染みを懸命に拭き取っていた。
それを微笑ましげに見ていた彼は
「たまに目隠ししてみない?」
と声を掛ける。
「うん、良いよ?」
彼女は素直に差し出されたアイマスクを身に付けた。
すると
…カチッ…
ペンライトの御出座[おでま]し。
彼の手が興奮冷めやらぬ身体に触れる。
指先の感覚から察するに…
溢れ出したジュースは彼女のお尻まで流れ滴り、思いっ切り
…びちゃびちゃ…
に濡れている。
「これじゃ、拭いたって意味ないよ…?いっぱい垂れてきてるもん…」
…ペロン…
とスカートを捲り、内股に手を添えて脚を拡げるとその付け根を覗き込んだ。
「ほら…やっぱり…」
そして後ろから前へと撫で掬った2本の指を、鬱血しているかのように赤黒く染まった陰核に塗りたくる。
「…ぁ…んっ…」
返事なのか、吐息なのか、いまいち判断が付かない彼女の声。
…ガガガッ…
彼は助手席を倒しながら、覗き込んだその顔をそのまま目の前の股間に埋め、
…ペロン…
とひと舐めした後、尿道口に吸い付いた。
2本の指と舌先の
…チョロチョロ…
した感覚に、ものの数秒で彼の口に目掛け、得体の知れない液体が排出される。
…じゅるじゅるじゅる…ごっくん…
「っあ~…美味しっ…」
イヤらしい音を立てて啜る彼。
視界を閉ざされているせいか、脳に直接響き渡るようなその音と、鋭くなった触覚への刺激を受ける彼女は自ずと興奮の度合いが高まり、膣口を
…うにゅうにゅ…
と疼かせている。
そこへ別の指を2本…突き当たりまで侵入させると、いつもの如く一気に引き抜いた。
「いやぁ…ダメぇ!」
再び彼女は飛沫と共に果てた…。

そんなことを繰り返すうち、イキ疲れた彼女は眠りに就く。
その安らかな寝顔に微笑み掛けながら、彼はそっとKissをする。


彼が仙台に戻ってきた日限定…
ではあるものの、漸く再び、2人は日常に新たな刺激を求め、特別な“お出掛け”の頻度は、また少しずつ増えてゆく。


別の日の夜…
「起きて?もうちょっとで着くよ?」
「ん?…うん…」
「……随分この辺も…家増えたなぁ…」
「ん…?あ、そうだね?前は二、三軒くらいしかお家建ってなかったのにね?」
「かなり変わっちゃったね?久しぶりに来たもんなぁ…」
2人は、付き合い出した頃によく夜景を見に来ていた場所へと向かっていた。
大通りから信号を左折した突き当たり、新興住宅地を見渡せる場所に位置する小高い丘。
その丘全体が公園になっている。
車を停めようと麓の駐車場に入ると、こんな時間だというのに、
高校生くらいの男の子が数人ばかり屯[たむろ]っていたり、
“私達は健全なお付き合いをしていま~す”とアピールしたいのか…車内灯を点しながら談笑するカップル、
手元の携帯の画面から光を浴び、顔だけが蒼白く浮かび上がっている亡霊みたいなのが乗った車、
などなど多数…。
─前は誰もこんなとこ来なかったのになぁ…─
本当なら…
車を降りるところから彼女を全裸にするつもりだった…
というか元々、全裸のままでドライブをしていたのだからそのまま降りれば手っ取り早い…
のではあるが…
「ダメだね…とりあえず着よっか?」
の一声に、彼女は黒いワンピースを頭から被った。
「じゃ…行ってみる?」
「うん」
目指すは丘の頂上、テーブルとベンチのある見晴台。
─そっからの眺めも随分変わっちゃったんだろうなぁ…─
そんな風に思いながら何十段もある結構急な階段を彼女の手を引き一歩ずつ登っていく。
途中の踊り場まで来ると木陰のお蔭で駐車場の明かりが視界から逸れた。
それに、アイドリング中のエンジン音は元より、さっきまで聞こえていた若者達がはしゃぐ声もここまでは聴こえて来ない。
「もうこの辺まで来れば大丈夫じゃない?」

基本的にこの遊歩道には照明がない。
足元と、彼女の素肌を照らしていたのは、付近の住宅から洩れ出る星のように散り嵌められた沢山の明かり、それと本物の月の明かりだけ。
…カッチッ…
もとい…
脱いだワンピースを預かった彼が持つペンライトも…。
「綺麗だよっ?」
「ありがと…けど、そんなこと言ったって何にも出ないからね~?」
「えぇ!?“なんか”…は出るんじゃない?」
「ん~どうかなぁ…?判んない…。誰かさん次第じゃないの?」
そんな感じで笑いながら冗談を言っているうちに、急な階段を登り切った2人は分岐を右へ、なだらかな坂道を進んでいく。
「こんな奥だったっけ?」
「でも、もうその辺じゃないの?」
「そうだっけ?……そう言えばさぁ…なんかさぁ…さっきから変な声聴こえてこない…?ほら…また…」
頂上近くは隆々と生い茂る木々に覆われ、時折その枝々の間から
…チラチラッ…
と住宅街の暖かな光が覗ける程度。
聞こえてくるとしたら、2人の足音と枝葉が風に揺れる音くらいのものだ。
本気で言っているのか、怖がらせようとしているのか…
それは彼の顔を見れば一目瞭然。
…ニヤニヤ…
しながら彼女の方を見ていた。
「え~、やだぁ…もう…」
「嘘じゃないってばぁ…」
彼はそう言うと、足元を照らすために持ってきた筈のライトを悪用した。
とは言え、彼にしてみれば…
こっちのほうこそが本来の目的…。
その光は彼女の脚元を
…ス~ッ…
と掛け上ってゆく。
最終的に、周囲の景色とは対照的な、夕べ彼が丁寧に剃り上げた彼女の恥丘を正確に捉えていた。
「もう…やめてよね~?」
と言った彼女だって…
露出に興奮したからか、
それとも、つい癖で…そうなってしまうのか、
はたまた、その先にある頂上に何かしらの期待を膨らませていたからか…
─やっぱり…濡れてるし…─
…じわ~っ…
と滲むような、割れ目に沿って反射する光が何よりの証拠だ。
すると、
「あ…ほら…また聴こえてきた…」
再び彼は、意味深な顔付きで彼女に訴える。
それは…
今度は彼女にもはっきりと聴き取れた。
自分の歩調に合わせて聴こえてくるその“声”が…。
夜の静寂の中であれば一際目立つ、締まりの悪くなった蛇口から漏れ落ちる雫が弾け返るような
…ピチャッ…ピチュッ…ピチョッ…
のどれか。
「ゃん、もう…眩しぃ~…」
顔にライトを当てた訳でもないのに彼女がそう言ったのは、聴こえてきた“声”に対し、余計に、敏感に反応した自分を何とか誤魔化そうとしていたから…?
─きっとそうに違いない…─
「下の口…エッチな声出してるよ…?」
「…もう…気のせいだから…」
「どれどれぇ?」
「…ぁん…まだダ~メぇ…」
と言う割には、ほんのちょっと脚を拡げる萎[しお]らしさ。
…くちゅっ…
とひと掬いした彼は
…チュパチュパッ…
と吮[しゃぶ]りながら、今度はちゃんと彼女の足元を照らし進んで行く。
遊歩道は一旦やや下り、そしてまた登りになってすぐ、
…パッ…
と視界が開けた。
頂上へ到着。

彼が埼玉に住むようになってからは特に、あちらこちらに色んな店舗や施設が増え、新たに高速道路の区間も開通し、徐々に仙台の街並みは変わりつつある。
残念ながら、ここからの眺めも以前とは少し変わっていた…。
とは言え、むしろ住宅が増えた分、より夜景は目前まで迫り、より綺羅[きら]びやかになっているようにさえ思える。
「うわぁ…」
「綺麗だね?」
「うん。ねぇねぇ、あそこって…あのでっかいホテルだっけ?」
「うん…そう…隣のあの青っぽいライトアップされてるとこ…覚えてる?」
彼はホテルの少し右側を指差す。
「あ~…あの、夜に閉じ込められたとこ?」
「そうそう…ゲート閉まるなんて知らなかったもんなぁ…」
「だったよねぇ…『冬期 夜間通行禁止』って書いてあったんじゃなかったっけ?」
「そうそう!」

ずっと前、同じ様にここからの景色を眺めていて
「あれってなんだろうね…?」
「何だろうね…?」
という話しになり、試しに行ってみた時のこと。
そこは別の丘の上にある、付近の住宅へ配水するための
「給水塔…って書いてあるよ?」
「なぁんだ…」
「何でこんなとこ、ライトアップしてるんだろうね…?」
「ね…?」
という疑問はすぐにどこかへ吹き飛んでしまい、入り口前に車を停めたままイチャイチャタイムが始まった。
そうこうしているうちにかなり時間が経過してしまった2人は、結果…
「やっばぁ…」
「マジで!?」
坂道を上って行く時には存在すら気付かなかった、行く手に立ちはだかるゲート…。
2人は見事、車ごとその内側に閉じ込められた。
「もしかして…このまま朝まで出れない…とか…?」
「え~~~~っ?明日早番なんだけど…」
「ちょっと待ってて…何時に開くか見てくるから…」
…バタン…
彼はゲートによじ登り、向こう側へ。
看板を確認。
─やっぱ、6:00…じゃ間に合わないか…─
とガッカリした様子で車のほうへ向き直ると…
─ん…!!─
…ガラガラガラガラガラ…
一時はどうなることかと焦った2人だったが、幸いにも普段から鍵を掛けないゲートだったらしく、呆気なく脱出成功…。
─なんてこともあったなぁ…─

「こっからだと山の陰になってお部屋のあるほうまでは見えないんだっけ…?」
「そうだね…あのでっかい高台のマンションでも真ん中ら辺から上しか見えてないからね…」
「お天気塔も見えないもんね…」
「うん…山、2っつ分?3つ分?向こうっ側だしね…それに結構遠いし…」
今2人がいるこの場所から望む夜景は、これまで一緒に積み重ねてきた沢山の想い出と共にその先の不可視である筈の情景をも思い描かせていた。
「…それにしても…綺麗だね?」
「うん…そうだね……懐かしいなぁ…」
「うん…懐かしいね…」
2人の口元が緩む。
それを互いに横目で見合い、微笑み合い、見詰め合い、肩を、頬を寄せ合い、そして…Kiss。
─ずっと…2人の想いはこのまま変わらずにいられたらいいな…。ううん…変わってもいい…。もっと2人の気持ちも、距離も近付くなら…─
その時互いにそう想っていた2人は、と~っても良い雰囲気に…。
けれど、忘れることなかれ…
彼女は全裸…。

「そこ…座ろ?」
と指差したテーブルの上には、抜け目のない彼が持ってきていたバスタオルが既に敷いてある。
“回れ右”して彼のほうへ向き直り、
「じゃあ抱っこ…」
と甘える彼女のお尻を掴んで軽々と持ち上げ、
…トン…
とその上へ乗せた。
「さっき…いっぱいこうして欲しくって…あんなエッチくなってたの?」
彼は蹲み込むと
…ジュルジュル…
と音を立てて吸い付く。
「ぅん…いっぱい舐め舐めして欲しくなっちゃったのぉ…」
いつになく素直に答える彼女。
─これも偏[ひとえ]に彼の“調教”の賜物…─
と人が思うのなら、それはそれでいい。
いい様に捉えて構わない。
ただ、少なくともこの2人はそうは思っていない。
互いの需要と供給、そして興求[きょうきゅう※1]も受容も一致している部分が多々あるからこそ、自然にそうなっていっただけのこと。
次の2人のやり取りからもそれは明らかだ。

彼の刺激にたちまち彼女は、
「…なんだか…おしっこしたくなっちゃったぁ……」
と肩を竦[すく]めた。
「寒い?」
「ううん…全然寒くないよ…?さっき喉乾いたからいっぱい飲んじゃった分…」
「…なら良いけど…寒かったら言ってね?」
「うん」
「じゃ…」
安心した彼は、再び彼女への口撃[こうげき※2]を始める。
「……………て良いよ?」
そのせいで、最初のほうの言葉が上手く聞き取れない…。
「えっ?」
「…今してみせて…」
「えぇ…?だってぇ…」
「い~の…」
「うん…」
─そう言われても…─
いざそうしようと思うと案外簡単には出ないもの…。
でも…
一旦出始めると…
もう止まらない…。

彼の頬が一気に膨らんでゆく。
…つんつん…
と放水口をこそばす[※3]舌先に聖水の勢いを感じながら、彼は
…ゴクッ…ゴクッ…ゴクッ…
と数回、喉を鳴らす。
彼女はその彼の頭をしっかりと掴み寄せ、
愛くるしげな彼の瞳を見詰めていた。
どこか
…うっとり…
とした表情を見せる彼の頬は段階的に萎んでいく。
最後まで一滴も洩らすことなく飲み尽くした彼に、
彼女ははにかみつつも微笑み掛けた。
─はい、おしまぃ…─
すると彼は、彼女の溝を下から上へ何度も後奉仕[ごほうし【造】※4]。
「ご馳走さまぁ。美味しかったぁ」

…ニコニコ…
の満足した笑顔を返した。

それから…
仄[ほの]かに苦いような、微かに鼻を突くような自分の味を感じながら、彼女は彼の腰に脚を絡ませる。
彼女に倣い下半身を露出した彼は、テーブルの上に乗った尻を鷲掴みする。
そうして2人は、激しく互いを温め合う。


彼女の放尿であれ、彼の飲潮や飲尿であれ、また、これまでの屋内外で開催されてきた露出や放置プレイも、はたまたβとの複数プレイだって全て2人で決めたこと。
2人のうち、もしどちらかでも
─イヤ…─
と感じることだったら…
決してそんなプレイはしてこなかった。
例えば…彼女にしてみれば、
女性がβとして加わる複数プレイや他のカップルとのスワップ、アナルとかスカトロといった類いは避けたいところ…。
逆に彼の立場であれば…………
何が
─イヤ…─
と感じるのだろうか…。
一番最初、彼は
「βとのキスはダメ…」
なんて言ってはみたものの、彼女のほうから積極的にβにキスしていた…。
彼女の目の前で、“彼が”、βの肉棒を舐め舐めしたり…そんなことだってして見せた…。
アナルSEXしたことはあるけれど、2人ともさほど興味は無さそう…。
あれこれ考えてみても…何故か浮かばない…。
もしかすると…無い?
βとのキスも、生挿入も、中出しも、彼女が
─いいの…─
って思ったから彼が認めたのは確か。
最初、それらを“禁止行為”としてβに対する条件に付け加えていたのは、
─さすがにそれは彼女がイヤがるだろうな…─
と彼が見越した所以[ゆえん]。
しかし彼の予想は、いい意味で彼女に裏切られた訳だが…。
それならば…
彼女がしたい、してみたいと思うことなら、彼は何でも許せると言うのだろうか…?
実は…
ひとつだけ…
彼にも許せないことがある。
それは…
彼女がカレに逢うこと。
カレとSEXすること。
彼のいない時に…。
彼のいない場所で…。
唯一、それだけ…。

本当は…
彼とカレが擦れ違ったあの日、
─カレに声掛けて、ちゃんと話せてたら…─
彼はずっと、そう後悔している…
というのは以前にも触れた話題。
あの時はまだ、
もう一度ヨリを戻してくれるのかどうか…
彼女の返事は聞いていなかった訳だし、
─彼女は自分の“彼女”─
とは断言できなかった。
それに、既にカレが奥さんと別れ、正式に付き合っている可能性も無くはない。
そんな状況で自分が言える立場じゃないことを彼は理解していた上で、それでも話したかったこと、言いたかったこと…
それは…
「俺がいない間、彼女のこと…ありがとう…」
とか
「これからも…よろしくお願いします…」
とか…。
もし…
彼にそう声を掛ける勇気があったら…
彼の心の奥に潜む感情は、
─絶対に何かもっと違ってたと思う…
納得できたと思う…
許せたと思う…─
彼女がカレと逢うことも…。

彼女が休みの日になる度や彼女からメールの返事が来ない時に胸が苦しくなるのも、
彼女と喧嘩するのも、
彼女と一度別れたのも、全部…
カレの存在を認めることが出来なかったから…
認めたくなかったから…。
それでも、認めようとしていたのも確かなこと。

「まだ…カレと逢ってるの……?」
「何でそんなこと訊くの?」
「逢ってるの?どうなの?」
「逢ってない………」
「もう…逢わないで…」
「逢ってないから…」

しかし、彼がカレを認めようとすることを妨げていたのは…
紛れもなく…
彼を包み込みながら、締め付けながら、辺りに喘ぎ声を響かせながら嘘を吐く、目の前の彼女だった…。


2019/11/08 更新
────────────────
【参照】
※1 興求[きょうきゅう]【造】も受容も…
興求 : ここでは、彼もしくは彼女が興味のあるプレイを追い求めること、また、そうしたいと想う気持ち、を指す。
受容 : ここでは、互いのその興求を受け入れること、また、そうしたいと想う気持ち。

※2 口撃[こうげき]… ここでは、言葉によるものとしてではなく、彼の口、唇、舌によって彼女の身体へ直接的に刺激を加える行為。口唇による愛撫。いわゆる、クンニを指す。

※3 こそばす… こそばゆい刺激を与えること。くすぐる。こちょこちょする。

※4 後奉仕[ごほうし]… 放尿後の彼女の恥部を舐めて綺麗にしてあげる彼のご奉仕活動。
────────────────
【備考】
本文中に登場する、ねおが個人的に難読な文字、知らない人もいると思われる固有名称、またはねおが文中の雰囲気を演出するために使用した造語などに、振り仮名や注釈を付けることにしました。
尚、章によって注釈がない場合があります。

《本文中の表記の仕方》
例 : A[B ※C]

A…漢字/呼称など
B…振り仮名/読み方など(呼称など該当しない場合も有り)
C…数字(最下部の注釈に対応する数字が入る。参照すべき項目が無い場合も有り)

〈表記例〉
大凡[おおよそ]
胴窟[どうくつ※1]
サキュバス[※3]

《注釈の表記の仕方》
例 : ※CA[B]【造】…D

A,B,C…《本文中の表記の仕方》に同じ
D…その意味や解説、参考文など
【造】…ねおが勝手に作った造語であることを意味する(該当のない場合も有り)

〈表記例〉
※1胴窟[どうくつ]【造】…胴体に空いた洞窟のような孔。転じて“膣”のこと

※3サキュバス…SEXを通じ男性を誘惑するために、女性の形で夢の中に現れると言われている空想上の悪魔。女夢魔、女淫魔。

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現在【タイミング(仮題)】という、私の過去の恋愛や経験・妄想などを基に、結構際どい大人な長編(のつもり)のお話しを投稿しています。 是非読んで戴けたら、コメント戴けたら、フォローなんてしてくれたら、とっても嬉しいです
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