【42. 相対“性”理論② ~理性と本能、そして野性~】

そんな彼[【41.相対“性”理論①】を参照]は…
────
「はい…ど~ぞ」
“レディファースト”みたいに丁寧な促し方をして、運転席と助手席を隔てる宝箱の蓋を開けた。
─ぅん…─
小さく頷いただけの彼女は、先ず手始めに微かな羞恥心を紛らそうと、数ある常備品の中から“いつもの”を取り出し、自らの視界を奪う。
続いて…
おかっぱ頭のシリコン人形[※1]のひんやりとした肌触りを手探りで探し当てると、徐に手繰[たく]し上げた裾の奥に密む、もはや涎の滲み始めた唇へと宛がった。
それを難なく
…パクッ…
と頬張ると、さも当然の如くスイッチON。
白く小さなツマミを少しずつ、目一杯までスライドさせた。
彼女の爪先に緊張が走る。
すると…
リンクするかのように彼の爪先にもそれと似た力が加わっていった。

…カッチッカッチッカッチッカッチッ…
─ん?ハザード?─
遂には…車が停止する。
「え…?もう着いちゃったの?」
「ううん…まだだよ」
彼は素っ気ない返事。

─本当かなぁ…?
結構近所の人だったりするのかなぁ…?
大丈夫なのかなぁ…?
ってか、実は今…窓のすぐ向こうから見てる…
とかいうパターンじゃないの…?─

“見えない刺激”のせいか…
それとも
疑り深くなってしまっているせいか…
彼女の眉間の皺が更に深くなってゆく。
─もしかして…後ろのドア…そ~っと開いちゃう感じだったりしない…?─
かどうか…
彼女はスピーカから流れる曲の中を掻き分けた。
けど、聴こえてくるのはいつものCDだけ。
ならば…
─座る時か…閉める時の振動だったら…伝わってくる?─
かどうか…
シートに直接触れている肢体に神経を全集中させる。
けど、伝わって来るのは別な振動だけ。
それもその筈…。
ただの左折待ちの赤信号。
なだけなのに、その度につい右手が疎かになってしまう彼女…。
だからその度に
「ほら…また止まってるし…」
そう言わんばかりの
…ズ、ポ、ズ、ポッ…
を二、三度…
彼に鷲掴みされた右手が繰り返す。

そんな感じになるくらい過敏になっていた筈なのに…
なのに、“何故か…”
…ガサゴソ…
からの
…カッチッ…
やがて聞こえてきたペンライトのスイッチONと共に、後ろの席に顕れるのは…
昨日彼に処理して貰ったばかりの部分を身を乗り出すようにして覗き込む…
そんな気配。
だったり…
「はい…到ちゃ~く……」
の声にアイマスクをズリ下ろすと、“何故か…”
そこはラブホのガレージ内…。
「あれ…?」
─待ち合わせ場所って…直接…ここだったの?─
と彼のほうを向くと、もう90度ばかり右のほうから
「あ、ど~も…こんばんは」
のニヤケ声…
だったり…。


以前はその瞬間、慌てて前裾をズリ下ろすか、お尻の下から引っこ抜いた湿っぽいバスタオルで覆うかしていた彼女の純情さ、羞じらいはどこへやら…。
αPやβP[※2]の経験を積み重ねるにつれ、
“何故か”

“当然のように”
へと変化してゆく。
やがて、目隠しをしない、“見える刺激”に目覚めた現在に至っては、彼女の態度も一変…。


「忘れ物なぁい?」
「うん🎵」
キーを回すのとは反対の指先に指図され、
…ピッ…
と青いイルミネーションを素直に消したカーステレオ。
「んじゃ…行こっか」
の掛け声と共に走り出してすぐ…というか、駐車場を出て左折さえすれば、2人を乗せた車は大通りの流れに紛れ込む。
や否や、太腿に忍び寄る太い指先…。
けれども、そんな合図よりも先に、彼女のほうから
「脱ぐぅ?」
なんて言えるようになったし、その返事を聞く前から着衣を剥ぎ取り、シートを倒し、後ろの席から引っ張り出したバスタオルの上へと腰を深く沈めてみるようにもなった。
そして、ドアに凭れ掛かるように左膝を立てる。
すると
…ピチュッ…
下唇が舌を鳴らした。
更に両脚の付け根を摘まむようにして、もう少しだけ拡き気味にする…と
…コポッ…
産道の階段を乾いた空気が駆け上がっていった。
その登り口を塞ぐのは
黒いのか…
ピンクいのか…
彼か彼女の指先か…。
一遍にその全部…ってこともあれば、
「蒼[アオ]になったよ?」
と彼女が声を掛けるまでのほんの数十秒だけ…
彼の舌先が埋まることも。
待ち合わせ場所までの車内は、自身や彼からの愛撫に苛まれる彼女のイキ遣いで満ちた、2人だけの時間。
やがて…
「あ、いた…たぶんあれっぽい…」
聞いてあった特徴通りの人影は、伝えておいた特徴通りの車が近付いてきたことで
…キョロキョロ…
と辺りを見回してみたり、こちらを睨むように
…じ~っ…
と目を凝らしてみたり、と幾分緊張気味…。
因みに、その人物が助手席側になるように態々[わざわざ]停めるのが彼の常套手段だ。
で、
…ウィーーーン…
降りた窓の外へ向け、彼は爽やかな笑顔で、彼女はにこやかな上目遣いで
「こんばんは~」
する。
と…
…ヴィーーーン…
熟れた果実の裂け目に突き刺さる微細な振動が、潤沢な果汁を絞り出している様を覗き込む…
とも言えなくもない会釈をしながら、驚嘆の混じったやや疑問符
「こんばん…わ…!?」
が返ってきた。
流石に…
彼女のこんな姿を前にしては、物珍しさと興味と期待を伴ったヤらしい目付きを包み隠すことは難しいらしい…。
そして
「どうぞ…?どっちでも好きなほうに乗って?」
と彼に促されて乗り込んだ視線を感じつつも、平然とさっきまでの2人の時間の続きに勤しむ…
こともあれば…
「こっち…見てるよぉ?」
蒼や黄色や赤いスポットライトを浴びながらも執拗に並走を続けるワゴン車やトラックからの視線を感じるほどの自淫に耽る…
こともあれば…
「見てるだけで…いいのぉ?」
の声で、恐る恐る、大抵は取り敢えず恥首[ちくび【造】]辺りのコリから揉み解し始める性帯師[せいたいし【造】]に出番が回ってきたり…。
また時には…
週末ということもあってか4号機[※3]の赤7の如き“満室”が連荘中の車中を、まるでお盆休みに帰省した級友と1年振りのカラオケにでも向かう道中みたいな和気藹々とした雰囲気で過ごすことだってある。
それでも…
彼女だけはしっかりと全裸のままだったりすることも…。

果たしてそれがどういう状況だったにせよ、
─そのすぐ後に訪れる時間をどう過ごすか…─
を明確に理解している彼女の緊張度は、サプライズ[※4]されたあの当初から何ら変わらない…。
────
そんな彼女を
「さて…と…じゃ、改めまして…こんばんは」
から始まる密閉度の高い異質な空間へと誘[いざな]い…
NTRせる。
自らの愛する人を…。


ちょっと口説いようではあるが…
その行為には歴[れっき]とした意味がある。
─彼女を…気持ちも…全部を…満足させたいから…─
この一言に彼の想いは全て集約出来得るだろう。
自分には与えられることの出来ない“何か”を与える能力を持つ第三者に彼女の身を委ね、更なる悦びを引き出すための環境を整える…
それが最大の目的。
例えば、太さ、長さ、腮[えら]、またはそれらトータル的な張り具合…といった彼らの生まれ持った魅力であったり、延いては、経験や知識を駆使した指先、舌先のテクニックや体位のバリエーションであったり…。
ついでに
NTRというシチュエーション自体にしてもそうだ。
常識に囚われない、日常から逸脱した世界…
それは闇のように深く魅惑的で、官能的。
─感覚が麻痺してるのでは…?─
と言われればそれまでだけど…
けど、彼女が持つ人間の理性心を確実に崩壊させ、野性心を潤すのには打って付け…。
事実…
シャワー上がりのバスタオルに包まれた姿の彼女が、二人の男性に挟まれるようにベッドへと潜り込んだりなんかしたら、
…ドキドキ…
は倍に膨れ上がり
─なんだか…熱くなってきちゃうし…─
相手が彼であろうと誰であろうと、蜜の滴る結合部分を
…まじまじ…
と覗き込まれたりなんかすれば、彼女の背筋は
…ピーン…
と伸び切ってしまうほどのしなりのキツさに疼き
─余計に…感じちゃうし…─
彼に浴びせられるフラッシュの閃光ひと射しひと挿しにしても…
─なんか…勝手に…キュッ…てなるぅ…─
それより何より…
もうすぐβが乗り込んでくる…[※5]
それを想像しただけで
─ぁ…なんか………─


現実的にそれを望むかどうかは別にして…
そういった反応を示すのは彼女だけに限らず、
“女性という存在の全てが深層心理に於いてはそれを望んでいる…
その可能性を秘めているかも知れない…”
ということは余り知られていない。
真偽も別にして…
“SEXの最中、女性が無意識のうちに喘ぐ”
その根底にあるものは…
“張り上げた声によってより遠くの、より多くの男性を呼び寄せ、選りすぐられた、より優れた子孫を残す為の原始的生殖欲求の名残”
…という説が存在するのは、ご存知だろうか?

女性と男性の身体的特徴は…と言うと、比較的女性は力が弱く、運動能力に於いては男性のほうが長けている傾向にある。
但し…
こと特別な運動…SEXに関してはどうだろう…?
男性の場合、一晩でイクのは頑張っても数回(~十数回の人もいる?)…なのに対し、
女性は下手すれば何十回でもイケる…
のは、“同時に複数”とはいかないまでも、継続して次々と回数を熟す生殖活動に対応した反射的身体特性や構造、或いは進化だとすれば、説明は付く。
生物学的見地から考えても…
地球上の動物個々が一度に排出する精子と卵子の絶対数…例えば魚類の産卵の光景を思い描いてみると、圧倒的に雄性が群がるのが常だ。
例外は少ない。
もしこれが事実なら、女性が不特定多数に反応するのも、それを求めようとするのも自然の摂理…ということになる。
現時点ではその説を覆すだけの持論がないため、個人的には支持せざるを得ないが…
あなたなら…どう思う?

もしも…
─断じてそんな説なんか…─
と感じているのであれば、
─自分は良識のある貞淑な人間だ─
と信じて疑わない人…なのだろう。
ならばきっと…
パートナー以外の誰かとSEXしている夢なんて見たことすらない筈。
単なる夢が直接的に願望や欲求に繋がっているとは考え難いし、特に気にすることでもないとは思うのだが…
お堅いあなたが今後万が一、人生のうちに一度きりでもそんな夢を見てしまったとしたら…
きっとその日から暫くの間は、自己嫌悪に苛まれ、憂鬱な気分で過ごす羽目になるに違いない。
その時はこの説を思い返し、
─自己否定する必要なんてない…
自然なことなんだから…─
と自分を慰めることをお薦めする。
今しがた否定したことを撤回しさえすれば、幾らかはマシになる筈だ…。

察するに…
そこまで思い詰める程の貞淑さを持つとすれば、余程の理性をお持ちの方なのであろう。
理性とは…
“人類の長い歴史の過程に於いて構築された慣習や法令に基づく考え方であり、野性的な衝動を抑え込む自制心や心構え”であり、
とは言っても、あくまで成長の過程で植え付けられたもののみを指し、生まれながらに持っていたりなんかしないもの…
と認識している。
とすれば…
そんなあなたでも
─理性を奪われたら…果たしてどうなる…?─

それを考察するにあたり、ここでは
現代社会に於いて、可能性としては最も有り得る状況であり、有ってはならない状況であり、本来なら文字にすることも憚[はばか]られる例えを挙げることにはなるが、決して容認する意図はない。
それは…
児童に対する性的虐待。
性職への斡旋、性的な目的での誘拐、etc…多様な虐待の手段が有る中でまず取り上げるのは近親相姦。
男女を問わず…
その残虐な行為を日常的に受ける環境で幼少期を過ごせば、例え強制されたものだとしても、身体への直接的な“痛み”を伴わなければ敢えて拒絶することもなく、
家族と一緒に食事するのと何ら変わりない、日々の行為…
そのくらいにしか思わないだろう。
しかも、自分が被害者であることさえ知らぬまま…。
しかし、それが虐待であったこと、非情な振る舞いを受けていたことを知り、心に深い傷を負い、人間不振、延いては自傷行為をするまでに至るのは多分にして学校社会に出てから…。
(但し…
それに気付いても被害者自身が望むとするならば…
話しが、ストックホルム症候群[※6]とか禁断の愛…とかいう別な方向を向いてしまうのでここでは省くことにする)
続いては、更に酷い環境…
幼児期より何十年間もの長期に渡って、TVやネット文化から完全に隔離された幽閉、監禁状態での性的虐待を目的とした“飼育”が続けられたとすれば…
ろくに意思疏通をするための言語さえも覚えぬまま性人[せいじん【造】]し、ただ起きて、食べて、寝る…そんな日々を過ごすに違いない。
加害者の支配欲と性欲を満たす優秀なペットとして…。
万が一、その事件が何かの切っ掛けで発覚し、何らかの施設で保護されることになったとしよう。
漸くそこで理性を授かる機会に恵まれたとしても…
人間とは程遠い家畜的存在であり続ける可能性は非情にも高いと思われる。
その被害者が…ヒト科ヒト属の雌であるならば…
餌を与えてくれる看護夫を新しい主[あるじ]と認め、脚を拡げるか尻を突き出すかして誘い、不幸にもその誘惑に耐え切れなかったモノにひと度挿入されようものなら、立派な喘ぎ声を響かせる…
かも知れない。
雄であるならば…
餌を持ってやってくるヒールの音が聞こえてきただけで元主の喘ぎ声を思い浮かべ、駆け寄ったドアの前で期待に胸を膨らませる代わりに別なモノを脹らませる…
かも知れない。
どちらにしても、やはりこれまでと同じく空腹と快楽を満たしてくれる主をただ待ち望む…
のではなかろうか…。
“実験”という名目の下に檻の中で飼育された動物は、そうそう簡単に野生には戻れない…
きっとそれと同じ…。

また、その事件の実行犯も人間とは程遠い存在…と言えよう。
結果など省みずにそれを衝動的に行ったとしても…
財力や権力を悪用し綿密な計画を立てた上であるなら尚更…
それほどまで特殊な、異様な性に対する執着心を持っている以上、悪しき理性を従えた野性心に完全に支配された“鬼畜”…
としか言いようがない。

余りにも虚構的で、こじつけのようにも思えるだろうが…
それらは実際にこの現実世界に存在し得る、信じ難いほどに理性を欠如した人間の成れの果てである…。

それだけ
“理性とは…
より人として生きていくためには必要不可欠な術であり、家庭や社会、環境によって後天的に植え付けられる意識であり感情”
である。
単純にこれを理性そのものの定義とすることに対し、何か異論はあるだろうか…?


先程の説とこれらの例、それとあくまでも個人的想像を以てすると…
理性を取り払い、野性的な部分のみを残した人間とは…
もしかすると…
より多くの食料とより優秀な子孫を残すことを目的として、生まれ持った奔放な性で無意識の内に雄達を秤に掛け、可能な限り重きに傾く雄に依存することを望むのが雌本来の姿であり…
その雌に自らをアピールする方法として懸命に食料調達を覚えたり、或いは雌を巡って争ったりと、一時の生殖欲求を満たすためならあらゆる手段を講じ、どんな努力も惜しまないのが雄本来の姿であり…
そんな野性動物に過ぎず、
しかし、もしかすると…
狩猟や採集能力、腕力に長けた権力者、強者による選択から外れた“残り者の雌”を奪い合う…
なんて争いを好まぬ温厚な性格だった雄の祖先達が、均等にその生殖欲求を満たす機会を分配する方法として積み重なっていった概念…
それと、
優秀な雄に真っ先に選ばれていく雌の習性を倣えば、我こそもより優秀な子孫に恵まれるかも知れない…
そんな可能性を信じた雌の祖先達が、本能的にその生殖欲求を満たす機会を得る手法として積み上げていった嗜[たしな]み…が、後の現代では男女それぞれの“理性”と呼ばれるようになったに過ぎないのではないか…
という推測に至る。


因みに…
人間の行動や行動するに至るまでの心理…感情というものは…
この“理性”なる語句と、恰[あた]かもその対義語であるかのように使われている“本能”のふたつ[※7]で
説明、解釈できるか…
というと、そう単純ではない。
理性と本能の在り方は地域や社会的集団、個々人によっても大きく違っていたりする。
例えば…

この世界には、一夫一婦制に一夫多妻制、一妻多夫制、乱婚といった、地域によって異なる婚姻制度が混在し、それぞれがそれぞれの常識として通用していること。

─浮気は…バレなきゃいい…─
って考える人の本能と理性、
─浮気なんて絶対にあり得ない…信じらんない…─
って考える人の本能と理性…
の違い。

─本能には逆らえない─
と目の前の欲求を満たすために言い訳がましく豪語する理性。

─呼吸や摂食といった生命を維持するための衝動は、生存“本能”以外の何物でもない…─
とするならば、それに逆行する拒食症や自殺願望はどう説明すれば良いのだろう…。
─本能に逆行する行為だから…─
といって、果たして理性と呼べるだろうか?
拒食症は、痩せていることこそが美…とする己の理想に一歩でも近付こうと、過度な食事制限をすることで自分の存在価値を見出だすための行為であり、一種の自己防衛“本能”と言われている。
自殺願望は、恐らく本人にしてみれば
─存在価値が無いから、死にたい…─
という思いであると推測されるものの、しかし心理学の世界では、このまま生き続けるよりも死を以て己を無に帰すほうが自分の存在価値を高めることに繋がる…という考えとして捉えられており、それも等しく自己防衛“本能”であると言われている。
今現在、何らかの悩み事で苦しんでいる方々には、是非とも理性を失うことなく、葛藤に苛まれる毎日から解放されんことを期待したいものだが…
その葛藤も然別[しかり]…
理性と本能に起因するもの。
また、本能と本能同士の戦いに敗れ自殺して逝った方々は、結果…己の存在価値を高めることは出来たのだろうか…?
存在した証、子孫を残すことを目的としたSEXと同じ様に…。

単純にその逆説であるからして…
─子孫を残すことを目的としない、快楽を求め合うためだけのSEXは理性である…─
なんて言い切るのは容易い。
けれど、
─SEX自体が本能に依るもの…─
とする彼女にとって、そんな理論は一切通用しない。
「だったら、特別な理由もなくSEXレスになったカップルやLGBT[※8]の人の心理に影響を及ぼしてるのは、本能と理性のどっちなの…?」
なんて、より難題を突き付けられてしまうことだろう。

それに…
理性は理性…
なのに対し“本能”と呼ばれるものは、防衛本能だの母性本能だの、闘争本能、生殖本能、生存本能、etc…、○○本能という言葉だけは数多く存在していたりする。

考えれば考えるほど考察の尽きない、説明の付かない、途方もないパラドクスに陥ってしまう。
挙げたらキリがないほどの矛盾だらけ…。
それはきっと、理性だけしか所持していない人も、本能だけしか所持していない人も存在しないから。
皆、理性も本能も兼ね備えていてこその“人”であり、そのバランスも“個性”という魅力と成り得るから。

そもそも何を以て理性とし、何を以て本能とするか…
その定義なんて全く以て曖昧だ。
だからこそ使うほうにすれば、全く以て便利な言葉である。
ここでは、その便利な言葉を使い…
日本に於ける社会通念上“常識的”と呼ばれる範囲内に性的衝動を抑制する感情のみを理性とし、
それを除いた抑制することの出来ない性的な衝動、感情、身体特性のみを意図して野性と区別している…。
つもり…。

特に恋愛に於いてその理性と本能、野性…というものは非常に複雑に絡み合う。

そもそも人は生物である以上、主として異性に興味を持つのが当然の成り行き。
人を好きになる感情も本能であり、愛し合う行為も本能。
─結婚と恋愛は別…─
と言うのもそう…
生活を安定させようとする本能の表れ。

大恋愛の末、結婚に至ったのにも拘わらず、蓋を開けてみたら実は…
─とんでもなく経済観念のない人だった…─
と気付かされれば、みるみるうちに相手への気持ちは冷めていく…
それらも或いは生存本能と言える。

それでも…
同じベッドに入るのを拒むどころか
─愛してる人だから…─
と自分に言い聞かせ、求められるがまま唇を預ければ、たちまち身体が火照り出す野性…。

また、妊娠中ともすれば夫が浮気に走り易いのも、意識下で働く野性が関係しているとすれば合点がいく。
特に男性は行動的で変化を好み、新天地を求めてひとつの場所に留まらない歴史をもつ好奇心の塊。
浮気を奨励も、肯定も、否定するつもりもないが、男性側の立場としては妻との共同作業である繁殖が完遂している訳だから…
─さて…次の生殖活動先を探そうか…─
な~んて心の何処かで感じていてもおかしくない…。
魔が差した…というよりは、きっと…
実家に戻った妻の居ぬ間の開放感と共に剥き出しになった野性がそうさせるに違いない…。

「浮気相手とのSEXのほうがパートナーとのそれよりも燃える…」
という女性の声を耳にすることがあるけれど、それは果たして本当に浮気相手に対して好意を寄せているからなのだろうか?
浮気という行為自体に、野性的本能が刺激されることによるような気がしてならない。
(一応、例外として…
彼女の場合は、彼とのほうが燃える。
なので、この項目には該当しない)
先ず以て常にパートナー以外の異性“をも”欲するような浮気性な人が背徳感と感じているそれは、実は己の潜在的な野性が感じ得た悦びでしかないのではなかろうか…。
その人の野性心を敢えて“魅力”と捉えてしまう、惹かれてしまう相手側の心理も、等しく原始的野性心のなせる誰しもが持つ感情なのではなかろうか。

例えどんなに理性をしっかり持っている人でも…
パートナーがいるとしても…
─あ、あの人…素敵だなぁ─
と感じて当然なのだ。
それは根底にある野性心がひょっこり顔を出してみただけで、思うだけで済んでいるのは理性を持っている人だから。
思うだけで済まなかった人は、理性を取り戻した瞬間、大抵はパートナーに許しを乞うことになるだろう。
でも結局、より理解し合える新たなパートナーを求め、それぞれ別の道を進むことになるか…
どう考えても納得がいかぬまま、煮えくり返るほどの怒りや不信感を抱き、または抱かれたまま別れることになるか…。
なかには、
─それでも愛してるから…─
─子供のためを思って…─
─生活していくには我慢するしかない…─
と踏み留まる人だっている。
それだって本能であり理性とも言える…。


この理性と野性と本能を、彼と彼女に当て嵌めれば、こうなる。

彼女に群がる雄に反応して喘ぎ声を出すのが野性心であり本能であり…。

そんな自分を偽る振りして出来る限り声を我慢してみたりさほど感じてないフリをするのが…
やっぱりそれも野性であり本能…。

最初の頃は恥ずかしがって
「任せるからぁ…」
なんて言ってたクセに、いつの間にか彼の携帯に映し出されたβ候補を食い入るように物色しながら
「こっちより~…さっきの……あ、それそれ!」
なんて積極的に選り好みするようになり…
けれど、何時しか彼女の野性心が辿り着いた最終形態は
「任せるからぁ」
最初と全く同じ…。
それはある意味、
─彼が選んでくれるんだったら…─
“誰彼構わず受け入れます宣言”に等しい。
彼女にそこまで言わしめるだけの背景にあるのは…
プレイにしてもβにしても、彼女の好みを選び抜く彼の優れた野性的本能。
βP初体験を迎えたあの日にしても…
彼女は全く拒絶反応を示そうともせず、反対に彼が当初予想していたのを遥かに超越する反応を示したのは、彼にそういったセンスがあったからこそ…
の証拠と言えなくもない。

その帰り道…
未だ奥に余韻を残すβとの別れを惜しむ間もなく、すぐさま彼が“次”の約束を取り交わそうしたのは…
あまりにも大胆に、積極的になり過ぎた彼女の野性的本能に起因する。
─もっと大胆な、野性的な彼女を見たい…─
願望が彼の中で一気に沸き上がってしまったから、彼女のそういったセンスを見抜いたからである。
そうして彼は彼女の野性的な面を更に引き出そうと躍起になっていった。
特別な“お出掛け”という名目の下に…。
結果、試行錯誤して辿り着いたこの“複数P”という、もしかすると原始的で野性的な行為は、今では2人の日常性活[せいかつ【造】]の一部と化した。
そこに彼女が置かれると…
その独特な雰囲気に…
否、待ち合わせの場所に向かう間の緊張感だけで身体が燃えるように熱くなるのは、心の奥底に眠る野性が求める期待から生ずるもの…。
そしてそれが彼の…
彼女も…
求めているもの…。

2019/11/28 更新
────────────────
【参照】
※1 おかっぱ頭のシリコン人形…これの意味する物…
想像出来ますよね?何でこけしみたいなあんな顔…わざわざあるんだろって不思議に思っています。

※2 αPやβP[アルファプレイやベータプレイ]…αPに関しては【3. 2+α】を、βに関しては【6.サプライズ】以降の文章をご参照願います。

※3 4号機…1992年から2007年までの間にパチンコ店に導入されたパチスロ機の代名詞。パチスロの全盛期、黄金時代を築き上げた爆裂連荘機であると共に“ド”ハマリ機としても名高く、大幅に片寄ったボーナス抽選基準を持つものが多い。
(↑ねおの経験に基づく個人的な解説ですw)

※4 サプライズ…何のことか見当も付かないかたは、やっぱり【6.サプライズ】読んでくださいねw

※5 乗り込んでくる… のは“彼女に…”であっても、“車に…”であっても、どちらでもお好きなほうで解釈していただけるように、敢えて“どこそこに…”という指定は致しません。
序でに…すぐ後の一文、─ぁ…なんか……─に続く彼女が感じたこと…もご想像にお任せします。因みに何だと思いますか?

※6 ストックホルム症候群…誘拐や拉致、監禁などの事件に於いて、それが長期に渡ると特に、被害者が自己の生存保護、或いは心理的外傷の軽減を目的として、犯人との間に心理的、延いては肉体的にも繋がりたいと考えるようになってしまう現象。
一例として…過去に、犯人に監禁されていたにも拘わらず、いざ犯人が捕まり保護されてもなお犯人を弁護する立場を貫いた女性がいた。
それはノルウェーのストックホルムに於いて起きた事件として世界に知れ渡り、以降そのように呼ばれるようになった。

※7 現代に於いて、理性の対義語として正しいとされている一言は“感情”であるとのこと。
しかしながら、ねお程度の脳内レベルだと…
─理性も本能も感情のひとつなんじゃないの!?─
という疑問がどうしても拭い切れませんでした。
そこで、それぞれを
行動している最中や行動するしないを決断するに至るまでの心理状態を感情とし、
意識的に欲望を行動に移さぬよう抑制する能力を理性、
無意識的に行動してしまった意識下の感情を本能、
という定義の下で使用することと致しました。

※8 LGBT…御存知の方が殆どとは思われるが、一応念のため…レズ、ゲイ、バイ、トランスジェンダそれぞれをアルファベット表記した際の頭文字を列ねた語句。
もはや社会的にも認められる傾向にあるが、まだまだ…全然…。
カミングアウト出来ていなければ、計り知れないほどの内面的な束縛を感じていることでしょう…。
ねお個人としては、外見的な(種別としての)性に囚われない感情は個性であり、素敵なことであり、その感情を持つ誰しもが、その苦悩から解放されるべきである…
と考えています。
────────────────
【備考】
本文中に登場する、ねおが個人的に難読な文字、知らない人もいると思われる固有名称、またはねおが文中の雰囲気を演出するために使用した造語などに、振り仮名や注釈を付けることにしました。
尚、章によって注釈がない場合があります。

《本文中の表記の仕方》
例 : A[B ※C]

A…漢字/呼称など
B…振り仮名/読み方など(呼称など該当しない場合も有り)
C…数字(最下部の注釈に対応する数字が入る。参照すべき項目が無い場合も有り)

〈表記例〉
大凡[おおよそ]
胴窟[どうくつ※1]
サキュバス[※3]

《注釈の表記の仕方》
例 : ※CA[B]【造】…D

A,B,C…《本文中の表記の仕方》に同じ
D…その意味や解説、参考文など
【造】…ねおが勝手に作った造語であることを意味する(該当のない場合も有り)

〈表記例〉
※1胴窟[どうくつ]【造】…胴体に空いた洞窟のような孔。転じて“膣”のこと

※3サキュバス…SEXを通じ男性を誘惑するために、女性の形で夢の中に現れると言われている空想上の悪魔。女夢魔、女淫魔。

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