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作家の頭の中をのぞいてみよう(6):ダイスケ先生

クなんでもありません。梧桐です。こんにちは。

このマガジンでは作家の皆さんにお話しを伺い、これから作家デビューを目指す方の参考になるような記事を提供したいと考えております。どうぞよろしくお願いします。

第6回:『異世界コンサル株式会社』作者、ダイスケ先生

■SFファンからなろう作家への道

――本日は異世界コンサル株式会社(以下、異世界コンサル)の作者ダイスケさん(以下、敬称略)に来ていただきました。よろしくお願いします。ご自身の執筆歴から教えてもらえますか?

ダイスケ:「小説家になろう」へ投稿したのが最初です。それ以前は小説を全く書いたことがありません。確認してみたら2015年12月末ですね。社会人になってからです。

――それまでの読書歴はどんな感じでしょうか。主に学生時代から小説を書くまでの期間の話ですが。

ダイスケ:ライトノベルは……どうでしょうね。ロードス島戦記は読みましたけど、ドラゴンランス戦記のような洋物ファンタジー、あるいはハヤカワSFの方が読書量はずっと多いと思います。いわゆるラノベはあまり履修してないですね。

初期はみんなが通る道のA.C.クラークを読み、その宗教性に段々嫌気がさしてきてマイクル・クライトンに走り、その科学っぽさにハマった後、ちょっとエンタメに弱いなと思い、小川一水、野尻抱介先生のある種能天気にも映る宇宙礼賛が好きではまっています。



――なるほど。クラークは確かに宗教的ですよね。知識へと至る道は神へと至る道、という。

ダイスケ:アシモフは読んだのですけれど、子供時代すぎてあまり憶えてないです。ハインラインは宇宙の戦士と夏への扉、で一通り。ブラッドベリも読みました。

――SFのどんなところに惹かれましたか?

ダイスケ:世界のパラメーターを弄った知的作業が見えるところ、ですね。もしも空気がなかったら、もしも重力が弱かったら……のように、もしもの世界を構築できるところに関心があります。なので宗教心や価値観が強いSFは好みではありません。メッセージを読みたいのでなく、知的実験結果を見たいので。たぶん自分が書く時の姿勢もそんな感じです。

――ひとつ意見を聞きたいのですが、SF的なフィクションは日本においてはもう廃れてしまったのでしょうか?

ダイスケ:SFは賢い人達のための遊びになってしまったな、と思います。映像や漫画はまだ大衆向けのメッセージ性を持った作品が生まれているでしょう。そういう意味では隔たりがあるなと思います。

――その流れの中へ合流することはない?

ダイスケ:あまり興味ないです。現実にテクノロジーがどういう社会を作るのか?には興味ありますけれど、例えば今流行の異常論文とか、興味ないですし書ける気もしません。ただSFは今でも好きですよ。火星の人(邦題:オデッセイ)のような力強いSFが日本から登場することを願っています。

書き手としては野尻先生みたいになれたらいいですね。市場がそれを求めてないんですけど……

――マーケットは確かに、SFからそっぽを向いているイメージはあります。

ダイスケ:衒学的SFでなく科学的SFの登場を願っています。言葉と概念を弄って遊ぶ知的遊戯でなく、がっちり調べて、しっかり計算して、ちゃんとあり得る未来を書いた骨太のSFを待っていますね。

――ギブスンやディックのような、それっぽさだけで押していくような作品は好みではない?

ダイスケ:そうですね。誤魔化された感じします。もっと脳味噌に汗かいて手を動かして欲しい。

――三体はどうですか。

ダイスケ:あれは良いですね。中国感がすごい。それだけでセンスオブワンダーがありました。ストーリーはまあ、あんな感じかな、というのですけれど中国的世界観が強く感じられました。

それ以外ですと、谷甲州も好きでした。木星圏などの外惑星系から氷塊がバンバン打ち出される太陽系世界。軌道速度計算までしているマニアックさ。航空宇宙軍史の最初の火星鉄道一九ですね。

実は航空宇宙軍史自体は戦記ものっぽかったり人物描写があんまり好きじゃないんですけど、短編集はとにかくよかった。多くのSF作家は人物を書くのが弱いのですけど短編集なら弱点が見えないw

■異世界コンサルができるまで

――ダイスケさんの小説における背景はつかめてきました。なろうに参入したときはそうした動機で小説を描きたかった?

ダイスケ:いえいえ。そろそろビジネス書を書こうかな、となんとなく思っていて練習で書いてみたいんです

――相当に実務寄りだった感じですね。

ダイスケ:最初の作品は「高校生が1万円を稼ごうと思ったら」というタイトルで、高校生の視点でビジネス用語を解説していく話でした。しかし全く読まれず(笑)。

2作目は「そうか。魔王とか勇者じゃないと読まれないのか」と作品を分析して「勇者が褒章を受け取ったあとの後日談的な話」をゲームブック形式で書き、それもまた読まれず(笑)

3作目は、既に異世界コンサルを書いている人がいたんですね。小売業のコンサルする話でした。それを読んで、冒険者パーティーの経営を支援する話なら書けそう、と書き始めたのがきっかけでなんか気がついたら日間1位になってしまったので、勢いで書き続けた、というのが実情ですね。

当時のなろうは今ほどインフレが進んでいなかったので1カ月で累計300位ぐらいに入りました。

――読者からの反応はどんな感じでしたか? 私は書籍になってから知ったので、その時期を知らないんです。

ダイスケ: 読者さんからは、今の「庭に穴ができた」に来ているのと似た感想でしたね。

「なろうで、この種の話が受けると思わなかった」
「こういう話を読んだことがなかった」
「コンサルなのに靴の話をしてる」

――靴の話(笑)

ダイスケ:コンサルタント的には、社会を本当に変える解決策は、個人の技→集団の方法論→解決策の製品へというレバレッジを効かせる手段へ移ることがスマートで当たり前だと思っていたのですけど、世間的にはコンサルタント=とにかくペラペラしゃべって何とかする人、というイメージが強くて、読者の先入観がついてこれなかったようです。

ずいぶん長い間「なんでコンサルなのに靴を作るの?しかも自分で?」と疑問を持たれました。

――異世界コンサルはビジネス書として出版されていますが、この方法で出した理由について教えてもらえますか。

ダイスケ:当時は書籍化にあたり、2つの選択肢がありました。

 1.ビジネス書っぽい異世界ものとして。「狼と香辛料」路線ですね。
 2.異世界ものっぽいビジネス書として。こちらは「もしドラ」や「女騎士経理」の路線です。

どちらにしようか悩み、新人かつ続刊を約束されていない身としては他の異世界ものと異なり2の方がエッジが立って売りやすいのでは? と考えました。なろう初のビジネス書、という肩書も欲しかったですし。

――内容をどのように選定してまとめていきましたか。

ダイスケ:基本的には書籍のままで、削る内容は編集者任せでした。初期の個別パーティー向けコンサル部分を増やして、1冊で決着をつけて盛り上げるために、クライマックスとして屋敷への殴り込みを巻末に配置しました。

――キャラクターやストーリーについては、テンプレート的な配置はむしろ難しかったかと思うのですが。

ダイスケ:たとえばわかりやすい悪人、理由なき愚人、主人公への理由なき賞賛者、ハーレム的女性、などのいわゆる「俺TUEEE」「チーレム」などの要素は意図的に排除しました。

異世界にも歴史があり、社会があり、有能な人もそうでない人も、善人も悪人もいます。知識で主人公に優位があっても知恵やその他の能力では劣位である、という世界のバランスは配慮しました。
なので主人公が何かをしようとすると、必ず抵抗が起きます。それは仕方ないことなので。

――なるほど、その他重視したコンセプト、差別化を意識した部分としてはどんなところでしょう。

ダイスケ:コンサルタントや主人公が知恵や知識で現地に働きかける作品は複数あります。その中で異世界コンサルでは大きく2つの制限を課していました。

1.都合のよい偶然やスーパーパワー、スキルや才能を出さないこと
2.主人公は個別具体的案件よりも、世界をシステマチックに変えるよう情熱を燃やすこと

1はわかりやすいですね。魔力無限だの神様からもらった力があっては世界の秩序が崩壊します。子供がクレヨンで絵画を塗りたくるような、世界を壊す物語にしたくはなかったのです。

2についてですが、世界を変えるには1人の力は小さすぎる。それを打破するために人は様々なアプローチをします。権力を握る、人と人の繋がりを作る、英雄になる……その中で主人公は冒険者という立ち位置を変えずに「ビジネスを造る」という方向で世界を変えようとしています。

ゲーム実況動画でも縛りのないチートプレイはすぐに飽きますよね。縛りルール多めの異世界もの、として読んでもらい、ちょっとだけ世間に役立つと思ってもらえれば物語としては成功です。

■職業と小説との関係など

――あまり聞いたことはなかったですが、職歴はどんな感じだったのでしょうか?

ダイスケ:早大一文→外資コンサル→ベンチャー→独立ですね。組織・業務・製造系よりのスキルなので、世間のうさんくさいコンサル=小売業改善や不動産の人、みたいな感じには迷惑をこうむっています(笑)

――でも異世界コンサルは作品としておおむね受け入れられたんでしょう。少なくとも私はそういう認識なんですが。

ダイスケ:どちらかというと、チートに寄らない論理的解決方法や教会という知的官僚組織を肯定的にとらえたことが新鮮だったのだと思います。ヒットしたか?と言われればあくまで「新鮮だった」に留まるかな、と。残念ながらフォロワーが出ませんでしたので。

――同じスキルを持った書き手がいなかったということでは?

ダイスケ:それはありますね。書くの大変でしたから……でもそうですね……もうちょっと売れて欲しかった……

――うう……ま、まあ、それは……では、反省点はありますか?

ダイスケ:先の方針で言うところの1.ビジネスっぽい内容のラノベ。で行くのもありだった、と思いますね。そうなると今のようにエッジは立ちませんが、少なくとも異世界ブームに乗って売れたかもしれない。まあ、あるいはそれでも売れなかったかも、そこはわかりませんけどね。

まあ売る責任は自分にはないですからね。出版社頑張ってください! と応援するだけです。

――今書いている「庭に穴ができた。ダンジョンかもしれないけど俺はゴミ捨て場にしてる」は、異世界コンサルの後継ではないですよね。切り替えた理由があると思うんですが、それはどんなものでしょうか。

ダイスケ:論理的解決って、面白みが足りないと思ったんですよね。かといって、チート的解決もいやだ、と。もっと混沌としてもいいかな、と。

小説を書く作業は世界観の切り取でもあると思うのですけれど、コロナや何かでとにかく世間が騒がしく思い通りにならない様相の気分を反映させてみたかったという空気を読んだ感じはあります。

あと、異世界コンサルで敵方の魔術師が精神操作の魔術を使うのだけれど、ケンジ本人は自分がおかしくなっているのがわからない、という話を書いたことがあります。それが好評だったので、そういう方向で書ける気がしました。で、書いたら書けた、という。

――庭に穴は、謎めいた現象の謎がどんどん深まっていく感じがありますね。解こうとすればするほど、わからなくなっていく。

ダイスケ:そうそう。そういう近づけば近づくほどドツボにハマっていく、かといって無視することも怖くてできない。あとはまあ、ホラー的な表現をしてみたかった、という単純な技術的理由もあります。

――まだ完結はしていませんが、オチというかどう決着するかは考えてある?

ダイスケ:いくつかの方向があります。SF的にインフレしたり、因果的に決着がついたり、まったく混沌に還ったり……伏線はばら撒いて読者の反応を見ながら調整してく感じです。

――これは意見が分かれるところかもですが、良い作品にするための方向性は読者が教えてくれると思いますか?

ダイスケ:どうでしょう。読者の意見を聞くのは期待を知るためです。予想は裏切り、期待は裏切らないという鉄則があります。予想を裏切るためには、自分の考えを強く持って進めていく必要はありますね。なので予想の外れ具合を読んで楽しむ、期待の方向性を知る、ために感想を読んでいますね。幸いなことに、今まで予想が当てられたことはないんです。

ただ、その予想に至るための伏線のバラマキが足りないと読者は不満を抱くので「伏線足りなかったかな?誘導が不親切だった?」という反省をすることはあります。

読者は基本的に我慢をしないので、イントロダクションの話や、最後の盛り上げのために少ししゃがむエピソードを必要だから、と挟むと「わかんない! つまんない!」と声を上げて騒ぎます。そこを回避するための工夫はちょっとまだ思いついてないですね。キャラクター芝居や文書の小技で場をつなぐためにサービスする精神や技術はあんまりないです。上手な作家さんを見ると尊敬します。

――うーん、客は贅沢ですね。

ダイスケ:そこはサービス精神と親切心の領域ですね。いいじゃん、面白い構成、という機能が満たせてるんだから充分だろ! と良い構造の話が書けたときほど、そういう感じで無視してしまいます(笑)

■最近の動向と今後に向けて

――最後に少し話題を変えますが、最近影響を受けている作家さんや、交流のある人で印象的な作品を書いている人はいますか?

ダイスケ:「天冥の標」の小川一水先生ですね。ああいう文章書けるようになりたい。交流ある人でなら稲荷竜さんですね。演劇的でシュールなコメディーが抜群に上手い。自分にはない発想です。

それから交流はないですけど、最近は「ふつつか」の中村颯希先生が物凄く上手いと思います。短く軽く楽しい。あれは女性向けラノベではピカイチでしょう。赤坂(パトリシア)さんも評価してましたね。

――ありがとうございます。では後進へのメッセージなどがあれば、ここで。

ダイスケ:メッセージ……後進? そうか。後進がいるのか……皆さんの一番後ろをもたもた歩いている気分なので、後進がいるなんて思ったこともなかった。

――デビューして次も狙ってるわけですから、当然のこととして、あこがれてる人もいると思いますよ。でなければ、デビューしたい人への応援とか助言とか。

ダイスケ:作家業、文筆業では自分は明らかに最後尾の気分で周回遅れにならないようひいひい走っているイメージです。

あとは面白いものを頑張って書く! 力の限り更新する! 感想をもらう! 書く!
筋トレみたいなもので、とにかく書く!
書いて他人に読んでもらう!

市場分析は当然あるんですよ。けれど格闘技の試合と同じで、まずは体重と筋力がないと勝負の土台に上がれないので、そこで書きまくり、読んでもらいまくる、ということですよね。

あとは市場分析をするなら、まずは流行のテーマで短編を書いてみることですね。流行には理由がある。流行を書くのは簡単じゃない。流行をバカにしてはいけない。それを体感してからですね。市場分析はその後でもいい。そこからは技術論になりますから……

そこだけ聞きたがる人も多いんですけれど、筋力と体験がない、いわゆる実践の欠けた知識はむしろ有害かもしれない。

――なるほど、ありがとうございます。

ダイスケ:こちらからも質問ですが、インタビュー前と後で、印象が変わったことはありますか? 私、あるいは作品についてですが。ディテールがわかるようになった、という方向でもかまいません。

――そうですね……表現が難しいな、なんというか、エンタメとして、どこを面白がらせようとしているのか。そこがこれまではあまりよくわかってなかったですね。

科学的、論理的なところで頭を使って思考実験的な面白さを狙っている、というのを聞いて、そこが一番納得感がありました。ああ、そういう表現を目指している人なんだ、って。

異世界コンサルとか読んでると、まあ読めばもちろんそういうのの一部は伝わるわけですが、はっきり言われて得心があったというのはありますね。

ダイスケ:インタビュイーとしての私に何かアドバイスはありますか?

――インタビュー記事を読む人って、基本的に「この人こんなこと考えてあれ書いたんだ、なるほどな」ってのを期待していると思うんですね。

なので、本性というかな、性格や志向をはっきり打ち出したほうが、記事としては面白くなるとは思います。

親近感がわけば、作家としてファンになる人も増えるんじゃないかなと。私はそういうのを期待して書いてますね。「異世界コンサル書いてたダイスケさんってこういう人なんだ、面白いなー」と言ってもらえるといいなあ、という感じです。

小説を書く人はさまざまですから、ダイスケさんみたいなルートを目指してる人だっていると思いますし、勉強になるんじゃないかなぁ、と思っていますね。

ダイスケ:ありがとうございました。

――ありがとうございました!

【梧桐のあとがき】
同業ということもあって、ダイスケさんの異世界コンサルは出版から少し遅れたタイミングくらいで買っていました。その時点では特に作者とは交流はないものの、面白いなあと思っていたのですが、その後私の著作に「文句なし星3」と言ってくださって、調子にのってお声かけして以来のお付き合いとなります。作品だけでなく本人もとてもユニークな方で、様々なアイデアが湯水のごとく出て、うらやましいなあと思ったものです。将来的にはもしドラのようなベストセラーを書いてくれるのではと期待しています。

それではまた。梧桐でした。


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