小説を書く時の長所の見つけ方の考察

 先日、柄にもなく日記のような記事を描いたのは一種の新たな試みであった。

 常々、日記の重要性に関しては痛感しているところではあるがどうしても食指が動かなかった。
 日記の効用を列挙するのであれば
①小説などのネタ帳
②文章を書くことを習慣化できる
③描写の訓練
あたりが妥当であろうと考える。
とはいえ、①と②は継続しなければあまり意味がないというのは自明である。③も継続こそ好ましいがやる分には単体でも実りがある。とはいえ、それは何の目的もなくやるのではほぼ無意味と言っていい。ではそこまで思い至りながらなぜ単発で日記など書いたか。この問いに対する解は次のようになるだろう。明確な目的を持って描写の訓練を行った。又は明かされていない別の目的があった。あるいはその両方。
 結論から言えば両方であった。私は自然体で日記を書くことで自身の強みを探ったのだ。

 一口に小説と言っても様々なスタイルがある。キャラクターの心情描写に重点を置いていたり、あるいは情景描写に卓越していたり、または描写は淡々としているが話の運びがとてもうまく構成が巧みであったり、それぞれの強みが違う。しかし文章を趣味で書いている人間全員が自身の強みを理解している、とは言い難い。では自身の強みを自覚する為には何が効果的なのかと考えた際に、私が辿り着いた答えは日記であった。
 やることは簡単である。
1.自身の日記にかけそうな行動を起こす。
2.その行動を無意識に漫然と行うのではなく気になった事や自身の感情などを分析しながら行う。
3.それを日記に書く。
 この三つだけである。とりわけ2が重要で、ここで手を抜くと上手くいかない。というよりもこの段階で勝負がついていると言ってもいい。
 2の段階で自身が何を感じたかを分析する事で、描写の傾向を掴むことが出来る。田園が広がっているという情景の事実ばかりを認識しているのであれば自身の描写傾向も情景描写に重点が置かれていると推測できる。また、面白そうなものを見つけて面白いなという感情の発露が多かったのであれば、人物描写に重点が置かれていると考えてもよさそうだ。と言うように自身が何かを体験した時に事物をどう認識しているかを知ることができる。

 次に3の工程である。実際に日記を書き始めるだけだ。
一番スムーズに進むのは2で自身が感じた認識傾向と実際に書く描写が一致している場合である。この場合は特に問題もなく、自身の強みとしてその部分を伸ばしたり、あるいは出来ていない描写の能力を底上げしていけばいい。
 想定される厄介なケースは、この認識傾向と自身の描写傾向が一致しないことである。自身の認識傾向は心情描写寄りなのに書こうとすると情景描写ばかり書こうとする、または逆になるといった場合だ。恐らくこれまで読んできた本がことごとく自身の傾向と真逆のものだった可能性がある。「自分が今まで読んできた本は大抵この辺りで情景描写がこのくらい書かれていた」というような文章の形式や構成を無意識になぞろうとして自身の認識との齟齬に苦しんでいる状況で起こりそうである。そうした場合は読む本の種類を変えるだけで改善するかもしれない。もしもそもそも文字に落とし込むことが出来ないという事であれば語彙力が少ないことが原因の可能性が考えられるのでそれに対する対策を考えればいいだろう。
 もしも一致しなくても苦労せずに上手く文章が書ける人はいるならば、そこまでオールラウンドにかけるのであればそれはプロなので自身の強みなどを改めて思い悩む必要はあまりないだろう。

 こうした試みによって私は先の日記で、自身の認識傾向が心情描写に傾いていることを自覚した。有体な言い方をすればこれは個性である。しかし個性という物は好き嫌いが大きく分かれるものだ。あまりに心情描写が大きな割合を占めれば読んでいて鬱陶しく感じるだろうし話のテンポも悪くなる。その心情に全く共感できなければ最悪である。なので自身の長所を伸ばす方向で動くのであれば、その心情を読者にある程度共感してもらえるような根拠を差し込んでいく事。そして簡潔にくどくならないように留意することを意識すればいいだろう。もしも短所を克服するのであれば情景描写のインプットを深めていけばいい。
  また自身が過去に学習した分野が予期せず感性として現れた場合もある。市街化調整区域の知識は私が過去に宅建の勉強をしたときに得たものだ。自身の知識の関心がこうした個性的な視点を持つこともある。小説を書く場合、文章技巧だけではなくこうした知識によって深みが生まれるという結論は漠然となんとなく理解をしつつも、実際にこの試みをしなければ実感できなかったであろう。

 漠然と何も分からない状態で考えろと言われても考えられるわけがない。だからこそ思考の基準となる錨が必要となる。どう文章を書いたらいいのか分からない時でも、自分が心情描写が得意だと知っていればその長所を活かすような作り方ができる。同時に課題も見えてくる。多くの場合、何かの困難にぶつかった時と言うのは解決策が分からないのではなく、そもそも問題を理解できていないという事がほとんどである。正しく問題点と強みを理解し、自身の表現を深化させていきたい。

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