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母 パニック

「ママがまた大変なんだわ、お前の就活のことでパニックになってこっちが気が滅入りそうだわ」

実家の父から電話がかかってきた。

私が就活が嫌になった〜と一言連絡したことで、母のパニックに拍車がかかってしまったらしい。

母に連絡したのは失敗だったと思った。愚痴程度に連絡しただけで大した意味はなかったのに、母は文面を真正直に受け取る人だったことを忘れていた。ついでに、私のことになると母が私のいない所でパニックになるということもすっかり忘れていた。なぜ、忘れていたかというと実際にパニックになった場面を目にしたことがないからである。

母は私の目の前では決して取り乱さないし、絶対に冷静な態度を貫き通す。私に対しては、母が思い描く「母親像」を崩さないために今でも見たことがないのである。だから油断していた。

以前、父と二人で話していた時、母は私のことでよくパニックになるということを打ち明けられて知ったのだ。母が私に対して過干渉であることは今に始まったことではないが、私の前ではそんな姿を見せたことがなかったために驚いた。


父から電話があってから、そういうことを思い出した時には時すでに遅し。実家の方では、母がパニックになって父が参っていたという。

私と父は性格や考え方が本当に似ているから、私の今の状況や考えは言葉にしなくても大体わかってくれている。母が心配するほど私が落ち込んでなくて、心配する必要もないこともわかっているからこそ、母のパニックにうんざりしているということだろう。

母がパニックになっていることよりも、私のことで母がパニックになって父に迷惑がかかっていることの方が申し訳なく思っている。

私は母が好きだけれど、心から好きになれない。

それは、母が私に嫌われないことばかり考えていることをわかっているからだ。私に嫌われるかもしれないこと、私に本当に言いたいことは絶対に母は自分の口で言わないし、いつも私におもねった言い回しや態度を取ることが心底気に入らない。それでもって、父を介して聞いたり、心配していることを伝えてきたりするのもイライラする。

それもあって、私は母に人生の重要なことを相談したこともないし、この先もないと思う。


もっと瑣末な点で言えば、私がしばらくLINEを返さなかっただけでよく送信取り消しするところも気に触る。

私たちにはちょうど良い距離感が必要だ。

母をパニックにさせないためにも、母には「良い」報告だけをしようと心に決めた。

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