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ラムネ越しの君

35度をこえる猛暑日。

期末テストで赤点を取った僕は、補習を受けるために学校に行った。赤点を取った自分が悪いのはわかっているけど、嫌気がさしてままならない。

テスト前に約束していた男友達たちも裏切って、補習に知り合いはいない。補習が始まる前からこんな気になるなんて思いもしていなかった。こんなにちゃんと勉強しておけばいいとおもったのは久しぶりだった。

気を紛らわすために、いつもと違う道で向かった。ついでに珍しく駄菓子屋があったので、冷たいラムネを買った。

だらだら歩いていると学校についてしまった。

補習には意外にも結構な人がいた。

だれがいるのか気になり少し回りを見渡した。案の定友人は誰一人ともいなかったが、少し意外な人がいた。

その人は、学年1の美少女であり、僕の好きな人である。こんな自分が付き合えるわけなんかないし、つりあわないことぐらい分かっていたが、恋の力はすごいものだ。簡単に諦めさせてくれない。

彼女は数多のイケメンや成績がトップなやつらに、告白をされていた。すべて断ってたらしいが。このせいで、もしかしたらっと希望をもってしまい、あきらめれないのかもしれない。

補習の1限目は数学だった。数学そこそこできたほうだった。たまに苦手な単元が出てくる程度のものだったので、頑張ることができた。

気が付いたら昼休みになっていた。

数学の次は、生物、情報、英語と続いた。どれも嫌いではなかったが、頭と手をたくさん使ったので、体が重たくなっていた。

昼休みは遊ぶ時間なんてない。弁当を食べたらすぐにまた、補習がはじまる。僕は、家から持ってきてあったおにぎりを二つ一気にほおばった。おにぎりを出すためにカバンをのぞかなかったら、気付かなかったであろうラムネを飲もうとした。その時だった。なぜかわからないが、補習に来ていた学年一の美少女がとなりの席に座ってきたのだ。

疑問と驚きで、変な顔になっていたと思う。

そのまま、時間が過ぎていき、昼休憩は終わった。結局ラムネを飲むことすらできなかった。

5限目は、現代文だった。一番好きな教科だ。しかも、一番好きな恋愛小説を題材にするそうだ。

だが、授業をまともに受けれそうにない。

隣が気になってしかたがないのだから。恥ずかしかった僕は、手元にあったラムネを机に置きたてにして彼女の横顔をずっと見ていた。

僕は見とれてしまっていた。シュッとした輪郭、パッチリ二重の大きな目、しかも大好きなポニーテール。あんなきれいな首筋なんて初めて見た。一生忘れることはないだろう。

補習で題材となっていた一番好きな恋愛小説がなんだか胡散臭くきこえてきた。僕が勝手に妄想していた、彼女との恋愛と変えたいぐらいだ。

今となっては、何を考えていたのか。自分があほらしくて仕方ない。

それから、6限、7限と彼女の事で頭がいっぱいになりろくに補習の内容なんて入ってこなかった。

補習が終わり、家に向かった。

帰っていると、河原に見覚えのある人がいた。

座っていたのは、授業に集中させてくれなかった彼女だ。

僕は、どうしたんだろうと思っていたが、声をかけずにそのまま歩いた。3歩、4歩、歩いたら、鼻をすすっている音が聞こえた。泣いている時のすすり方と似ていた。

見ているのがばれないように、横目でちらっと見た。

彼女は、泣いていた。

彼女には似合わない、そんな顔をしていた。

たちまち僕は声をかけた。

「大丈夫?」

彼女は、「うん。大丈夫。」

泣いていて、うまく聞き取れなかったが多分そういっていただろう。

これが、ぼくよ彼女の初めての会話だ。

彼女は、大丈夫だというがそのようには決して見えない。「ほんと?何かあったんなら相談のるよ」なんて言ってしまっていた。何も考えるな、目の前の困っている人を助けるんだ。自分の心に訴えた。

彼女はまだ泣いている。話している言葉もうまく聞こえない。飲み忘れていたラムネを取り出し彼女に渡した。

「冷たくないけど、これ飲んで落ち着いて」

彼女はラムネを開けようとしたが、なかなか開かない。泣いているから、力が入らないのであろう。なんて声をかけたらいいかわからなかった。

突然誰かが、笑い始めた。何もできない僕をだれかが軽蔑しているのだと思い。顔が真っ赤になった。

だが、それはちがった。ラムネのふたが一向に開けれない彼女がずっとわらっていたんだ。こっちまで笑えてきてしまった。開けれそうにないので、代わりにありがとうございました。開けてあげた。

彼女は、ラムネをぼくからうばい、女の子らしからぬ飲み方をした。少しのんだら、彼女は笑いも涙もとまった。役にたてた自分は嬉しかった。

泣きやんだ後の、凛々しい顔はとても絵になっていた。

ぼくは、なんで泣いていたのかを彼女に聞いた。

5限の現代文の恋愛小説の内容を思い出して泣いていたらしい。予想外の答えが返ってきて、ぽかんとしていた。てっきり、誰かがなくなったのかとか、いじめられてるんじゃないかと思っていた。

早とちりした、自分が恥ずかしい。今すぐ逃げ出したいくらいだ。

彼女は、ぼくを優しい人なんだねといった。恥ずかしくて逃げたかったのが、うれしすぎて逃げたくなってしまった。

ぼくも、あの小説は好きだったので色々と話した。話している最中に、今日の補習で考えていたことを思わず口走ってしまった。苦笑いだ。

ぼくと彼女はその一件から仲が良くなった。そのせいで、友人から羨ましがられたり、からかわれたりした。

別に彼女とは、仲が良くなっただけでそこからの進展はなかった。

あれからお互い大学生になり離れ離れになってしまった。卒業式いらい連絡は一切取らなくなってしまった。僕には大学で恋人ができた。明るくてかわいい子だ。もしかしたら、彼女も大学で彼氏ができているのかもしれない。

今でもあんな子と仲良くなれたなんてびっくりしている。ラムネ越しに見た彼女を僕は忘れることがないだろう。

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