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5/18 Red Hot Chili Peppers at 東京ドーム

開演時間の18時が近づいても席を探して通路を歩く人は多かった。これだけ客が動いていると時間通りに始められないように思っていたら、やっぱり18時になっても照明は点いたままだった。サウンドチェックをしているステージから、たまにギターの音が聞こえてくるだけで歓声が上がっている。会場の空気は「待ち切れない」と言った感じだ。

開演時間を5分ほど過ぎたところでドームの照明が落ちた。大きな歓声が上がる。ステージにチャド・スミス、フリー、ジョン・フルシアンテの3人が登場する。ゆったりとした、しかし緊張感のある素晴らしい演奏のジャム・セッションがはじまった。太いベースライン、締まったファンキーなドラムにサイケデリックなギターがベースとドラムの間を繋いでいくように絡みつく。メンバー各自が自分のサウンドがどのように出ているかを確認するような雰囲気もある。徐々にBPMが上がり、いつの間にか縦ノリのビートに変わる。客席の期待が目一杯膨れ上がったタイミングでアンソニー・キーディスが飛び込むようにしてステージに登場、「Can't Stop」が始まる。ドームは大歓声が上がった。

ステージ中央後方と左右に大きなスクリーンが配されている。ステージのスクリーンは「Return of the Dream Canteen」と連動させたであろうサイケデリックなイメージが映し出され、それがサウンド・ビジュアライザーとなっている。左右のスクリーンは主にメンバーを映し出す。そこに中央の映像がレイヤーとして重ねられたり、エフェクトがかけられていく。そのような演出が終始なされていた。

Setlist.fmによる当日のセットリスト
全体的にメロウな印象の強いセットリストだった。「Unlimited Love」で一番好きな「Aquatic Mouth Dance」をプレイしてくれたのは嬉しかった。サポートメンバーの姿が表に出ていないから、この曲のホーンセクションをどうするのかと思っていたらフルシアンテのギター・ソロに差し替わっていた。そのギター・ソロは素晴らしく、このバージョンをレコードに収録していても誰も文句を言わないだろう。

続く「Dani California」「Eddie」は最初のハイライト。前者のイントロのドラムが鳴った途端に会場は大盛りあがりだった。キャッチーなメロディーを持った曲なので、一緒に歌っている人も多い。後者はやっぱりフルシアンテのギター・ソロが素晴らしい。アウトロに向かうパートは陶酔感に溢れるサイケデリックな部分が濃縮された、ジミ・ヘンドリックスが2024年に生きていたらこういうギターを弾いたのではないかと思わせる、フルシアンテの凄さを知らしめるプレイだった。

しかしフルシアンテはギターの音に満足ができないのか、または何らかのトラブルであるのか、気にする仕草をしばしば見せていた。私のいた場所では確かにギターの音量は控えめに聞こえた。

フルシアンテがギターの調整をするため、あるいは他の理由で曲間ができるたびにフリーは全身全霊で場を繋いでいく。コミカルな仕草ではあるが、どこまでも真剣であることは、会場にいた全員が感じていただろう。

思い返せば1997年の台風のさなかのフジ・ロック・フェスティバルでもフリーはそうであった。上がりきらないバンドのテンションを引っ張り上げるがごとく必死に飛び跳ね、大声でシャウトし、そしてずぶ濡れになっていた私達をなんとか楽しませようとし続けていた。私が彼らを初めて見た時から、そして私が見ていない間、きっとデビューしてからずっとずっと今日のようにバンドを牽引してきたのだ。それはバンドと音楽に対する敬虔な祈りそのものだと言えよう。

ライブの後半のハイライトは「Tell Me Baby」から本編最後の「By The Way」。「Californication」以降の曲が多めなのは、やはり今のライブに来るのはそのアルバム辺りからのファン多いことを意識していることに加え、現在のバンドのムードはそういうものだったのだろう。長いバンド活動の中で、若い頃には女性蔑視でマッチョイズムそのものを体現したバンドだと批判されていた時もあった。残念ながらそれは否定できることではなく、それ故に多くの人を傷付けた。そうした過去を変えることはできないし、他人に付けた傷跡は消えることはない。現実を見つめ、先に進んでいくのであれば人にもそしてもちろん自分にも優しくしていくより他にない。

本編は1時間半で終わった。短いと感じたのが正直な気持ちだ。バンドが一旦引っ込んでからのアンコール。ラストは「Give It Away」で、この曲が演奏されたということはこの日の終わりを告げている。まだまだ聞きたい曲はあるのに、と寂しさが募る。とは言え本当に多くの曲を書いてきたバンドである。どんなセットリストであれ、必ず物足りなさは感じてしまうだろう。だいたい彼らは決して懐メロバンドになったわけではない。作り続ける新作にも自信はあるし、それによって新しいファンを獲得し続けているのだ。

「Give It Away」のアウトロでもフルシアンテのソロは素晴らしかった。彼よりもテクニカルなギタリスト、または同じ音を出せるギタリストはたくさんいるだろう。でもフルシアンテの音の一つ一つには、言葉には表し難い何かが確実に宿っている。

今回の来日公演に行く数日前にネットでたまたま「Tippa My Tongue」のMVを見た。

この曲はファンカデリックの影響が色濃く出ているように感じ、そもそもアンソニー・キーディス、フリー、ヒレル・スロヴァク、ジャック・アイアンズはパンクとファンク、サイケデリックをミックスした音楽を作ろうとしていたことを思い出した。

そこで1985年の「Freaky Styley」を聞き直すと、そこにはP-FUNKやスライ・アンド・ザ・ファミリーストーンに影響を受けたであろう、目指している音楽を描こうとしていることが明確にわかった。だいたいこのアルバムのプロデューサーはジョージ・クリントンなのだ。

続く1987年の「The Uplift Mofo Party Plan」でその路線を突き詰めようとしたところでオリジナル・メンバーのギタリスト、ヒレル・スロヴァクがドラッグ禍で急逝。そこから幾多の困難      主にギタリストの交代とドラッグ禍      を経てもなお、バンドは続いていく。

特にフルシアンテの存在はあまりにも大きかった。彼の才能はバンドを飲み込んでしまうくらい大きなものであった。「Californication」「By The Way」「Stadium Arcadium」のいわゆる「カルフォルニア3部作」はフルシアンテの才能が大きく爆発しており、それ故にバンド内のバランスを崩す要因ともなった。

2022年にフルシアンテが3度目の加入をして制作された「Unlimited Love」「Return of the Dream Canteen」を聞いたときにサイケデリックな音色は強調されているものの、「カルフォルニア3部作」ほどはフルシアンテにバランスが偏っていない印象を受けた。もしかすると今のフルシアンテはバンドの中で自己表現をしたいという欲求が以前よりも落ち着いているのではないか、と思った。そのことについてなにか言及された記事がないかと探してみると、このような記事を見つけることができた。

Frusciante took a decade-long break from the guitar during his decade away from the Chili Peppers. “My ego had become too big a part of what I expressed as a guitar player,” he said. But since coming back he’s immersed himself in late 60s and early pyschedelia, as reflected in songs such as Black Summer and Bastards Of Light. “I’ve been listening to a lot of The Move,” he says, referencing Roy Wood’s late 60 psych-pop band. “And Syd Barrett.”
フルシアンテはチリ・ペッパーズから離れてからはギターからも離れていたと語った。「ギタリストとして自分を表現することにエゴが大きくなりすぎていた」と言った。バンドに戻ってきてからは60年代後期と初期サイケデリアに没頭し、その影響は「Black Summer」「Bastards Of Light」と言った曲に反映されている。彼は「ザ・ムーヴをよく聞いている」とロイ・ウッドの60年代後期のサイケポップ・バンドを引き合いに出して言う。「それとシド・バレットも」。

John Frusciante, "John Frusciante has been listening to a lot of psychedelia", Classic Rock

1984年にデビューして活動歴は40年を迎えた。ここに来てようやく、レッド・ホット・チリ・ペッパーズは自分たちが本当にやりたかった音楽が出来ているように思えてならない。

私は長いことチリ・ペッパーズのライブには行っていなかった。だからもう熱心なファンであるとはとても言えない。17年ぶりに見たレッド・ホット・チリ・ペッパーズは長い時間を経て、ようやく自由を手にしているように思えた。そこに到達し、更に先に進もうとしている姿は本当にカッコよかった。それだから目頭が熱くなった。

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