- 運営しているクリエイター
2016年7月の記事一覧
舞台があるレストラン
白金台のプラチナ通りにあるその店は、「劇場」という意味合いの名前が付けられていた。その名の通り、劇場をモチーフにしたレストランで、地下一階のドアを空けると、そこは、キッチンを舞台とした劇場のような作りになっている。
オープンキッチンを取り囲むようにコの字に配置されたカウンターは、まるで舞台を見る客席のようで。そして、天井から吊るされた数十のライトは、卓上の食事を絶妙な光加減で照らしていた。いわば
東京タワーを見下ろして
東京タワーを見上げて暮らしていた頃があった。大学生の頃だ。
東京タワーは芝公園にあり、少し歩くと麻布十番や三田になる。しかし、芝公園のあたりはそこまで人気でもなく、意外と学生の僕でも背伸びをすれば住める町だった。もちろん、その分、たくさんのバイトはしたけれど。
田舎から出てきた者の宿命ゆえか東京タワーには憧れがあり、どうしてもその近くに住んでみたかった。その分、大学からは離れてしまったので毎日
損することと幸せにすることと
「人を幸せにすると自分も幸せになるんだよ」と言葉が口癖のような男だった。元来、奴はそのような博愛主義者や利他的な生き様を歩んでいたわけではなかった。しかし、30も超えた頃だろうか。急に、奴はそのような方針を打ち立てた。いわば転向とでも言うような。
ただし、奴はむやみに人を幸せにするということはしなかった。そうではなく、ふとした折に人を幸せにしていた。たとえば、年始に神社に初詣を行く時は「人類が平
バーテンダーが酔うお店
「バーの出会いって不思議なんですよ」とカウンターの向こうでグラスを磨きながら榊さんが言う。
「バーで男女が出会う。それはよくある話です。私が仲介することもありますし、あるいは、たまたまお客さん同士で意気投合をすることもあります。そして、付き合うことになれば、お二人でお店にきてくださいます。でも別れたら?」
榊さんは言葉を止める。私は言う。
「来なくなるの?」
「ケースバイです。基本的に、振
リンゴ好きなカップル
果物のリンゴ、だ。最初のデートではそんな素振りを見せなかった。でも、何回目かのデートで行ったバーで、フルーツカクテルがあり、女が「リンゴのカクテルってありますか?」と聞いたことで、女がリンゴ好きということが判明した。そもそもリンゴのカクテルはなくメロンのカクテルになったが。
とはいえ、「リンゴ食べに行こう」というように出かけることはなく、日常の細かいシーンでリンゴは脇役として活躍した。たとえば、
マンションの近くに病院がある効用
「聖路加病院ってあるんじゃん。日本での病院ランキングでも上位に入る」
「メディアでよく見る日野原先生がいるとこでしょ」
「そうそう。今でもいるのか知らないけど、ともかく。その聖路加病院の近くにマンションができて、その売り文句の1つが聖路加まで2分なんだって」
「へー。病気になった時にすぐ行けますよってことなのかな」
「まぁそうなんだと思うんだけど、これってさ、駅まで2分とかスーパまで2