首都高
レインボーブリッジを過ぎてしばらく走ると東京タワーが見えてきた。ピンク色の東京タワーが光る。
「ね、どこに行くの?」
女が聞く。男は何も言わずに、一ノ橋ジャンクションでカーブを曲がる。スピードは落ちない。80キロを保ったまま。
ナビは、池尻で降りるように指し示すが、さきほどから距離は減ったり増えたりしている。
「首都高といってもいろんな降りるところがあるのね」
女は、窓の外を見る。そして、携帯を見る。携帯の時間は23時15分をさしている。
「何か聞きたい曲はないの?」
と男が聞く。女は首を振る。男が言う。
「あれかけてよ。シャキーラの、あれ。なんだっけ?」
「Wakawaka?」
「そうそう」
女は、iPhoneをいじり、その曲を選び、車のAV端子に指す。車に警戒な音楽が流れる。
「思い出の曲をかけても、私はあなたの家にはいかないからね」
そういう女の口もとは笑っている。
「どうしたら、うちに来てくれる?」
「いかない。別れた男の家にはいかないの」
「でもさ、お互いいま恋人もいなくて、問題ないんじゃないの」
30分前にした会話がまた繰り返される。
女は何も言わない。車は、三宅坂ジャンクションを超える。
「どこまでいくの?」
男は何も答えない。
「そろそろやり直してもいい頃なんじゃないの」
男は言う。女は何も答えない。wakawakaが2週目に入る。
「ちょうどさ、同じタイミングで恋人と別れて、そして、こうやって偶然再会して」
女は窓の外を見ている。窓の外には銀座のビルが光っている。
「ガソリンもなくなるしさ、一旦、俺の家にいこう」
「ガソリンスタンドなんてどこにもあるでしょ」
「俺の知ってるガソリンスタンドは俺の近所にしかないんだよ」
車は、スピードを保ったたま、飯田橋の出口を降りる。女は前を向かない。窓の外を見たまま。
「私はあんたの家にいかないからね」
車がガソリンスタンドでガスを入れて、また出ていく。そして、駐車場で止まる。
20分は止まったまま。誰も出てこない。音楽も聞こえない。
そして、ドアが空く。
「ほんとにトイレを借りるだけだからね。ほんとに」
女がそう言いながら車から降りてくる。
「わかってるよ」
男がそう言いながら、車の鍵を締める。
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