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YUKIのイントロを聴くだけで泣けてくる

高校生の頃、父が急にiPod shuffleを買ってくれたことがあった。普段は娘にあれもこれも禁止してばかりの父親だったけれど、時々なにか特別なものを買い与えたくなるところがあるらしい。
音楽は好きだったので嬉しかった。ピンク色のちいさな本体はクリップ状になっていて、いろんなところへくっつけられてとても便利だった。

時を同じくして友達に勧められたYUKI、キラキラした特別な女の子が詩と音楽に編み出されて具現化されたようですぐにハマり、通学中に延々聴いていた。高校は丘の上にあったので、朝からYUKIを歌いながら坂道を機嫌よく登っていく。タフな世界で〜サバイブするの〜〜〜

この時期に聴いていた曲たちは、液晶画面がないというiPod shuffleの特性上、曲名を覚えるのがなかなか難しかった。今聴きたい曲の指定もできない。とにかく、シャッフルで流れてきた曲のイントロで「あーーはいはい、次はこれね」って感じで、気分に合わせて曲を選ぶのではなく問答無用で曲が始まってしまうので気分はそちらに合わせる。
積読書がいっぱい並んだ本棚のようなもので、いつかのわたしがいっぱい溜め込んでおいた素材の山から、ある日突然ぴったりハマるものが提供される。運任せの選曲、DJ 過去のワタシ feat. iPod shuffle まじで天才かよ〜〜と思う瞬間が何度もあった。

最近はもっぱらSpotifyでK-POPのヒットチャートを流し続けており、ずっとガールクラッシュなvibes💪🏼❤️‍🔥だったのだけど、なんだかふと思い立ってYUKIのベストヒットプレイリストをかけてみた。
JOYのゆるやかなイントロが流れる。ものすごい勢いでフラッシュバックするハイティーンの記憶。

朝練、お母さんのお弁当、友達と腕を組んで歩いた廊下、先輩への挨拶、バッシュがキュッと床に響く音、移動教室の気怠さ、制服のスカートを折りすぎてヒダがぐちゃぐちゃになっちゃうこと、自販機でいちばん好きだったレモンティー、わからなさが募るばかりの物理の授業、購買のおじちゃん、教室にこもった空気、それから、いつだってシャツにクリップで留めていた、相棒みたいなiPod shuffle。思い出すだけでなんでこんなにも泣きそうになるんだろう。

高校生のころは自我が上手く確立できておらず周囲に影響されてばかりだったので、些細なことでほんとうにすぐくよくよしていた。厳しい父とも、それに従う母とも、あまりいい関係性ではなかった。部活では劣等感ばかり抱いていたし、成績も教科ごとの差が激しかった。
でもわたしには相棒がいるから、このピンク色のクリップの丸いボタンを押すだけでちゃんと明るくなれる。前を向ける。そうやって言い聞かせながら、下手くそながらも頑張って人間になろうとしてた過去の自分のことを愛しく思える日が来たのかもしれない。

家を出てから両親と仲良くしていること、今も趣味でバスケを楽しんでいること、あのとき小さなクリップに詰め込んでいた歌に30歳になった貴女も救われてること、くよくよしてた背中に伝えてあげたい。遠くまで流れてきたけど大切な思い出は忘れてないから大丈夫。高校時代、苦しいことばっかりじゃなかったし人生の楽しいハイライトだったね、って抱きしめてあげられるようになってよかった。

2023.10.18

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