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ウクライナ情勢について、断片的な考察をいくつか【2022.2.25】

【はじめに】


ウクライナ情勢がえらいことになっています。

さて。この関係は各方面の人がいろいろな分析をしていますし、今後もなされるでしょう。
そんなところへ、私のように軍事も政治もロクに分からないシロウト──あるいはせいぜい半可通──が何かを付け足す意味があるのかどうか。それは正直分かりません。

ただ、自分はロシアには割と何度も旅行で足を運んでおり、またウクライナにも一度旅行したことがありまして。
ネットも騒然となっているこの熱気の中で、自分としても何か書いておきたくなりました。

とは言え、自分の能力では体系だった分析などは到底できませんので。

私が漠然と思うところ、思い出すことなどを、とりとめもなく綴っていく形になります。

ちなみに私がウクライナ旅行に行ったのは、別記事で取りあげた書類を頼りに思い出しますに、恐らく2003年12月27日〜2004年1月5日のこと。年末年始の休みを使っての旅行でした。
立ち寄ったのはキエフ、オデッサ、リヴォフ(リヴィウ)の三都市。時間を有効に使うために、3つの都市を夜行列車で三角形的につなぐという旅行でした。


【その1】


2014年のマイダン革命と、その余波として起こったロシアのクリミア半島併合。その記憶もまださほど薄らいでいなかった当時、都内の某大学で関連のシンポジウムがあると知り、ポンと紛れ込むような形でそれを聞きにいったことがあります。

細かいことは煩瑣になるので端折りますが、その時のパネリストのお一人が──恐らくノースカロライナ大学の Steven Rosefielde教授ではなかったかと思います。
(ひょっとすると違っているかもしれませんが……)

さて、このRosefielde教授(?)の講演は全編英語で、しかも通訳などもつかないというキビシイもので。
それでもなんとかならないかなと儚い希望を持って聞きにいったものの、全くなんともならず、これに関しては完全に討ち死に状態だったのですが……。

それでも一つだけ自分にとって興味深い収穫となったのは、シンポジウム後にお聞きできた、プーチンの性格に関する先生の見立て。
大まかにこんな会話だったように記憶しています。

先生「プーチンの本質はギャンブラーなのです」
私「そうでしょうか? 私が思うにプーチンは極めて緻密に物事を計算するタイプだと思うのですが」
先生「はい、プーチンは緻密に計算をするタイプのギャンブラーなのです」

ここからは、後になってこの先生の発言を私なりに解釈したものですから、先生の本意とはズレるかもしれませんが、こういうことなのかなと思います:

プーチンは物事の可能性を極めて緻密に計算する人で、失敗の可能性が成功の可能性を上回ると見たら、もちろん手を出さない。
一方で、もし成功の可能性が失敗の可能性を上回ると見たら積極的にギャンブルに打って出るタイプである。
成功:失敗の見込みが7:3ならきっと打って出る。それどころか51:49でも賭けに出るかもしれない。そういう人物である……と。
(繰り返しますが、上記は私の勝手な解釈です。)

そういえばプーシキンの名作『スペードの女王』の主人公、ゲルマンはちょうどそんなタイプだったような。
プーチンはやはり、ロシア人の一典型を体現する人物なのかもしれません。

【その2】


ウクライナの選挙が抱えるジレンマというものを、私は以前、このように聞いた記憶があります。

2012年ウクライナ最高議会選挙

あともう一つ。こっちのサイトの方が見やすいように思います。

図録 ウクライナの地域別人口・民族・産業・所得水準

ウクライナ東部は親ロシアの人が多く、親ロシア派の政党(ここでは「地域党」)が優位。
西部は「祖国」が強く。そしてウクライナ民族主義の牙城、リヴィウ(リヴォフ)のみは民族主義政党「自由」が優勢。
(図を見ても、実にクッキリと東西の色が別れていますね。)

ここで問題なのは、東部の方が人口も多く、経済力も上なので、「民主的」に選挙をやるとだいたい親ロシア派の政党が勝ってしまう。それがウクライナ西部の人には大変なフラストレーションであった……のだと(ウクライナの国を、ウクライナ人の思い通りにできない、という思い)。

実のところ、今回参考にした図表を見る限り、経済力はともかく、人口比は東部:西部が2139:2406となっておりまして。
東部の方が人口が多いというのは、あまり正しい表現ではなさそうですが。
まぁ私は一応そう聞いたということです。

そして実際に、ここで挙げた2012年の選挙では親ロシア派の「地域党」が勝っています。単純な東西人口比だけでは測れない要素があるのかもしれません。

ともあれ。こうしたことから来る西部の人のフラストレーションがマイダン革命を引き起こす原動力になったのだ……というのは、私(わたし)的には腑に落ちる説明だったりします。

【その2.1】


そもそもロシア系の人がウクライナに大量にいることがおかしいのだ、という議論がされることもあるっぽいのですが。
個人的にはそれはどうかと。

ロシアとウクライナの結びつきはロシア帝国時代から強く(ウクライナの人がそれをどう思うかはともあれ)、旧ソ連の時代には実際上、一つの国同然でした。

ここで急に卑近な話になりますが。
私が今住む神奈川横浜市。その新幹線駅である新横浜から地下鉄でそう遠くないところに港北ニュータウンという地区があります。
で、聞くところによると、この地域には関西出身の人が割と多いのだとか。
いざとなったら新幹線でポンと帰省できるからではないか、というような分析があるようですが。それはともあれ。

「アイツラは関西人だ、真の神奈川県民、真の横浜市民じゃない」
「だから、彼らに県会議員や市会議員の選挙権を与えるべきではない」
……などと言えるでしょうか。
やはりそれは一方的な言い分なのでは。

それと同様に。かつてロシアもウクライナも一つの国だった当時に、ロシア系の人がウクライナの、主に東部に住むようになったのもごく自然の流れでしょう。
まぁこの辺は旧ソ連の政策とかも関わっているかもしれませんが(調べていません)。

現に住んでいるロシア系の人の存在に文句を言っても、いまさら始まらないのでは……という気がします。

【その2.2】


上でロシア系なんていう言葉を用いましたが。

ロシア系/ウクライナ系という言葉に、具体的にどれほどの内実があるのか、私には正直よく分からない面があります。

私の大したことのないロシア語力を元に判断する限り、ロシア語とウクライナ語はそこまで違っているという感じではありません。

東京弁と京都弁くらいの違い? あるいは東京弁と(コテコテの)九州弁くらい?
何にしても、まるっきりの別言語という感じを受けるほどではありません。

ウクライナ人でロシアのTVがさっぱり理解できないという人は、恐らく皆無に近いでしょう(これはロシア語が国家の基本言語だった旧ソ連時代の影響が大きいでしょうが)。
一方、ロシアの人がウクライナ語の放送を聞いた場合はどうか。
恐らく、大まかには分かるだろうし、慣れればほぼ正確に聞き取れるだろうと推測します。

言語以外の文化面ではどうか。正直、ロシアとウクライナの日常生活でハッキリ異なるものを見付けるのは外国人には困難なのではないかと思われます。
向こうの人に「このような違いがある」と説明されてすら、(外国人の目には)あんまり大した違いに見えないと感じるかもしれません。

これも卑近な例を持ち出しますと。関東風のうどんと関西風のうどんの違いは、日本人にとっては重要です。が、外国の人にとっては、ほぼ同じというふうに見えるかも。
そんな感じが近いかもしれません。

宗教については私はしっかり語る資格を持ちません。
外国人の目にはこれもそっくりに見えますが、向こうの人にとっては大違いなのかも?

ただし、ウクライナの宗教の話でしばしば話題に出る「東方典礼カトリック教会(ユニエイト)」は、次のページの解説を見る限り、決して多数派とは言えないようです。

ここまでは、ぱっと見の文化的な違いの小ささ(外国人の目から見て)について書きました。
一方──ここで急に品のないことを言うようで恐縮ですが──いずれも美女が多いと称されるロシア女性とウクライナ女性を私の目から見ると。
確かに雰囲気的な違いを感じることもあると言いますか。「ウクライナの人っぽい顔立ち」というのは確かにあるような気はします。
具体的にどう違うというようなことはなかなか言えないのですが。


【その3】


以下は、2月24日に知人に宛てて書いたメールの再掲です。
(ロシアがウクライナに本格的に侵攻を開始したのが日本時間でこの日の正午ごろ、というタイミングです。)

情勢が流動的ですから、ここに書いた内容はあっという間に古びるものと思いますが。
大げさに言うなら、これも一つの歴史証言であるということで。あえてここにUPすることにします。

プーチン政権の狙い所として。
今朝方あたりは、東部の州を独立させて、軍を進駐させて、それで終わりかな……というぐらいに思っていたが。
今日の昼以降の雰囲気として。どうも現ウクライナ政権の打倒まで考えているのかも?と、そんなフシも感じられる。

マイダン革命自体を不当なものと規定し(­←これは以前から)、この時にロシアに亡命­したヤヌコーヴィチ大統領を改めて「正統政­権の長」としてウクライナのトップに返り咲­きさせる……なんて考えかもしれない。
ヤヌコーヴィチ氏のWikipedia英­語版記事だと(ナナメ読みした限り)、最近の動静があまり分からないけど……。

それに対してウクライナ国民がどう出るかも­気になるところ。
自分の予想では……ウクライナ西部(リヴィウあたり)では頑強にゲリラ的に抵抗を続け­る勢力がある程度は出るかもしれないが。大­勢としては返り咲いた「ヤヌコーヴィチ大統領」(話の都合上、そう決め打ちで書いてしまう)の政権に粛々と従う感じになるような気がする。
ロシアに逆らってもあまり良いことないし、率直に言って、その方が安定した良い生活出来そうだし。
2014年当時ウクライナの人が夢見ていたEU加盟なんて(ロシアの介入とか関係なく)夢のまた夢だというのも明らかになった­し。

あとは。
マイダン革命派は概ねガチガチの民族主義で、熱心に「愛国主義」の雰囲気作りに努め­ているのは、ウクライナのイベントごとの動画とか見てても感じ­られた。
(街の行事、みたいな動画を時々見ることがあったので。)
そういうのが、広範な支持を得ていたか、むしろ­ウザがられていたか……が一つの分かれ道だ­と思う。

それに関してだけど。マイダン革命からまだ­8年だから、その教育で育った人が国民の多­数派って状況には遠いだろうし。
西部の人はロシア嫌いでも、キエフ市民を含めた大方のウクライナ国民は恐らくそうでもなく。むしろ、「口だけ番長」っぽいマイダン派を見限っている国民も多いんじゃないかというのが自分の直感。
なので上に書いたように、案外普通に「ヤヌコーヴィチ政権(?)」が稼働しちゃうんじゃないかとも思っている。

まぁもちろん、こんな読みが当たるかどうかは分からない。正に「当たるも八卦当たらぬも八卦」。
朝鮮戦争的に、泥沼の戦いになる可能性だってあるかもしれない。
ただ、自分はその可能性は薄いと見ているけど。そして、プーチン政権もおそらくそのような読みで今回の攻勢を仕掛けたんじゃないかという気がするんだよね。

朝鮮戦争と言えば。マッカーサーが38度線を超えてさらに攻勢を続けた際に、毛沢東は「唇亡齿寒(唇ほろびて歯寒し)」と言って­参戦を決めたという(『春秋左氏伝』に出典のある言葉だそうな)。
マッカーサーがこの時、中国の本気度あるいは覚悟を見誤ったように、今回の米国あるいはNATOもロシアの覚悟を見誤ったんじゃないか、と。
そんな気もする(ロシアは警­告出しまくってたのにね)。


※ウクライナの人の反ロシア感情はプーチンが思っているよりずっと強いようだという分析もその後ネットで見まして。
確かにそう言われてみるとそうかもしれないという気もします。
正直、これについては今後の事態の推移から、逆算的に判断する以外にないかもしれません。

【その4】


次のメールは上に先立って、2月22日に書いたものです。
(文体の異なる短信×2件)

ウクライナ情勢が自分の予想以上に急速に展開してます。

「最悪の事態」はウクライナ東部が本格的な(=大規模に火力をぶつけ合う)戦争ないし内戦の舞台となって、多数の難民が出たり民族浄化が起こったりするような情勢でしょうか。
プーチンはそれだけは避ける(あるいは「それさえ避けられれば良い」)という考えのようで、その辺を「落とし所」あるいは「狙い所」としているのだなというのは見えてきました。が、だとしても、そう都合よく片付くものなのか。想定外の大爆発が起きる可能性はないのか?
まぁ、こちらはただ事態を見守る以外にないのですが。

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WWII前のヒトラーに対する宥和政策は歴史的に悪名が高いけど。
逆に、その「歴史的教訓」に縛られすぎて、必要な譲歩ができなくなることにも「ナントカ症候群」みたいな用語がついていると聞いた覚えがある。が、具体的に何というのだったか忘れてしまった。
もし知ってたら教えてほしい。


(ひょっとしたら、今後の推移に応じてまた何か書く……かもしれません)

※トップ画像はキエフの独立広場です(Wikipediaより)