花の名前をひとつ教えなさい、の現象について

よく、『恋人と別れてしまうその前に、花の名前をひとつ教えなさい』という言葉を聞く。花は毎年咲くから、その花を見る度に、私を思い出してほしいという所からきているそう。ロマンチックだなと思いつつ、自分には縁がない話だなと思っていた。別れてしまう時にそんな花の名前なんて思い出す余裕はきっとないし、それよりもっと厭らしく、しれっと家にネックレスとかを忘れてしまう方が後々好都合だったりするなと思うから。

でも最近、前述の花の名前を教える意味が分かったような気がする出来事があった。

恋人ではなく、私が好きな人は、とても物知りだ。何がどう物知りかと言われると説明が難しいのだが、一般的に言う『広くて深い』タイプだ。私は音楽が好きで、インディーズバンドを好んで聞いているため、周囲に好きな音楽を聞かれた時にそれを答えるのだが、大抵は知らないとなることが多い。だが彼は名前を知ってる所かこの曲が好きだと教えてくれる。私の好きな映画監督の話も、スポーツの話も、ドラマの話も、お笑いの話も、何でも打ち返してくるから私は裏で彼のことを『ホームラン王』だとか『三冠王』と読んでいる (完全にWBCに影響を受けた)。

前置きが長くなってしまったが、そんな物知りな彼から教えてもらった名前がある。
'' ぺトリコール '' というものをご存知だろうか。これは、雨が降った後に特有の匂いがすると思うが、それの名前なんだそう。
私は、季節や時間を感じる匂いが好きだ。例えば今の時期だと夏の夜の匂い、雨上がりの朝の匂い等。秋に変わるタイミングの匂いや、冬の寒い匂い、春の新緑の匂い。あまり人には話してこなかったけど、そういうのを大事にしてくれる人がとても好きである。
たまたま飲み屋で出会ったその彼とその話になった時に、ぺトリコールを教えてもらった。あの雨の匂いに名前があるなんて、なんてロマンチックなんだろうと思った。雨の匂いを感じる度に、彼から聞いたこの話を思い出した。そして最近になって、花の名前をひとつ教えなさいというあの教えは確かなものだったと知った。

結局のところ、花の名前でも雨の匂いの名前でもなんでも良くて、自分の大切にしているものや、ふとしたきっかけに気づけるものだったらきっと忘れないものなのだろうなと思った。



……この現象の名前は何?

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