日本でいちばん有名な写真家、篠山紀信説
あれは小学校高学年くらいだっただろうか。
他の家族はみんな仕事をしてるので、長い休みのときは家にわたしひとりのことが多かった。
春休みぐらいのとき、お昼のワイドショーをボーッと見ていたら、対談企画で篠山紀信の特集みたいなのがはじまった。
篠山紀信の代表作として紹介されたのが、あの伝説の『Santa Fe』だった。
テレビに映る宮沢りえさんの体。
今よりまだまだコンプライアンスの緩かった時代だったとはいえ、小学生のわたしにはあまりにも衝撃が大きかった。
なんか違法なことをしてしまったかのような、凄まじい後ろめたさに襲われた。
もはや、興味をもつとか以前の問題だった。
なにもエロが完全に遠ざけられていたわけではない。
この当時、駅前にあるおじいちゃんが経営している本屋には、客のおじいちゃんのためにいわゆる「エロ本」がわかりやすく陳列してあったし、下校途中の団地にも残骸が落ちていることもあった。
地元のレンタル屋のピンクのカーテンの先に何があるかも知っていた。
けれど、そこに撮られるような人はみんな、専門の職業のなんかそういう人なのだと勝手に思っていた。
ところが、篠山紀信特集で紹介された被写体は、宮沢りえさんはじめ、どこかで見たことあるような女優さんばかりだった。
だからこそ余計に見てはいけないものを見たような気がした。
「ヌード写真…?、宮沢りえ…?」
わたしのなかの常識は、ワイドショーの篠山紀信特集によって見事ぶっ壊された。
さて。
なんだかんだで、わが国で一番知名度のある写真家って篠山紀信さんなんじゃないかと思う。
でも、作品の知名度しかり、キャラクター性しかり、なんかヤバそうなおじさんがここまで評価されているなんて、さすがHENTAIの国ニッポンだよなとか思っていた。
ところが、最近になって、とあるサイトでアートとしての篠山作品の見方に触れた。
あ、すごいわ、たしかに美だ。美しいわってなった。
オマエに美がわかるのかって言われるかもしれないけど、普通にそこにはアートとしての被写体があるように思えた。
まるで二次元に描かれた裸婦像が実体化したような印象だ。
それに、ジョンとヨーコの写真とか、三島由紀夫の刀のやつだとか、今みてもめちゃくちゃカッコいい。
人物をあらゆる角度から「激写」する方法を、誰よりも熟知しているのだと思う。
だからこそ篠山紀信は、日本でいちばん有名な写真家なのかもしれない。
それでもやはり、あの時目にしたワイドショーはあまりに衝撃だった。
この才能にとめどない需要があった日本、やっぱりHENTAIの国かもしれない。
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