#8.顔の見える関係

ある訪問看護ステーションの閉鎖に伴い、一人の利用者を依頼された。
リハビリ担当者も真面目な方で細かな申し送りも書面で渡してくれた。

そんな中リハビリが始まると
『前の担当の方はこういうふうにやってくれたわ』
『そうじゃないのよねー。そこはもっと・・・』
などなど

前の担当の方をとても信頼しており、リハビリのときもその方の話を沢山聞かせてくれた。
『申し送りももらいましたよ。身体機能のことも詳しく書いてあったので、今までの経緯も把握できました』
しかし、その利用者の顔は晴れることはなく、
『そう、、』と俯いた。

私は前担当者に会いに行った。
とてもいい人でなんでも相談に乗りますよと言ってくれた。
私はその方の出身地や趣味、好きなものに至るまでその方の人となりがわかることについて語り合った。

次の訪問日。
「前の担当の方は色白でショートカットで目もパッチリしていてとても可愛らしい方ですね」
利用者の表情が和らいだ。
「〇〇県出身でぶどうが好きなんですね」と続けると
『そうなの!私もぶどう好きでオススメの品種を教えてくれたのよ!でもなんで知ってるの?』

「ご挨拶に行ってきたんです。利用者様のことも気にかけてましたよ」
『わざわざ会いに行ってきてくれたのね!ありがとう』

そこからはどんなリハビリに対しても比較することはなくなった。
その方が求めていたものは紙面で伝わるような表向きの評価結果ではなく、前担当者との繋がりや思いの共有。

顔の見える関係は思わぬ効果を生むこともある。

※この物語はフィクションを含みます

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