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#22.リハビリなんてやりたくないの

ケアマネジャーからよくこんな依頼が来る。
「絶対リハビリ受けたほうがいいと思うんですが、なかなか首を立てに振らなくて、、なんとか話だけでもしてもらえないでしょうか?」

利用者の中には家に誰かを入れたがらないことも多い。実際に私が同じ立場でも少し嫌かもしれない。しかし、リハビリをしないと介護者の負担が増えてしまうかもしれないので、説得をするのも我々の役目である。

初回の顔合わせ。玄関のドアが開くと、まるで悪人を見るかのような目つきで中から覗いている。まずは相手に波長を合わせる。物静かで疑いがあるうちはあまり大声を出すのではなく、近所の老夫婦のような落ち着きで。


玄関周りを見ると、その方の暮らしぶりやこだわりが見えてくる。季節物の置物があれば、季節感を大切にする方かもしれない。自作の作品があれば、人にもモノ作りの楽しさを共有したいのかもしれない。散らかっている部屋の場合はそれでも人が入るために奇麗にしてくれたのかもしれない。もしくは体が動かないことの辛さをわかってほしい裏返しの可能性もある。

用意された質問はどこか無機質で冷たさを感じるが、その場でしかわかり得ない情報の中で生まれる会話は温もりを持つ。

いきなりリハビリではこんなことができます。これをやれば元気になれますと言われても悪徳業者のセールス文句にしか聞こえない。
まず、最初はリハビリなんてどっちでもいい。この方の人となりを知る。そこに時間を費やす。例えその場で契約にならなかったとしても、その時間が好印象なもので終われたのであれば、後は利用者が決めてくれる。あの人のいる所でリハビリを頼みたいと。

介護保険制度でのサービスは競争社会。同じサービスを提供して、内容は同じだとしたら変数となり得る箇所は人となりである。
これからサービスを使う方もただ恐れずに、一度その施設の人にあって欲しい。やるやらないはその後。きっといつかは素敵な人に出会えるはずだから。

※この物語はフィクションを含みます

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