ベトナムでの「日本の恋しいもの」は日本の離島でもそれほど変わらなかった
世界各国の物書きでまわすリレーエッセイ企画「日本にいないエッセイストクラブ」。今回のテーマは「日本の恋しいもの」。ハッシュタグは #日本にいないエッセイストクラブ 、ぜひメンバー以外の方もお気軽にご参加を!
過去のラインナップは随時まとめてあるマガジンをご覧ください。
ベトナムにいた頃、日本の恋しいものはいくらでもあった。本エッセイの連載陣が書く内容を見ると「土地のものが一番」「郷に入りては郷に従え」といった男前な言葉が並ぶもので、自分がまるで(元)海外在住者を名乗ってはいけない気がして、言うのがとても憚られるが、いくらでもあったのだ。
肉汁がじゅわっと滴る551の豚まん、大人向けお子様ランチといえる南海キッチンの定食、とろとろ玉子がよく絡んだサッポロ塩ラーメン、八丁堀にある燻製味のあるロダンのカレー…。はい、そう、ぜんぶ「日本食」である。
我ながら捻りのない答えだが、これが真実。
これらは選びぬかれたエリート食たちだが(追記:塩ラーメンはそうでもないな…)、全国チェーンの飲食店も含む。なにしろ大阪の京橋で育ったシティボーイだ。京橋だぞ京橋。なんだったら京橋と大阪城公園駅どっちも近いぞ大阪城はワイの庭!今ごろ関西人は泡吹いて卒倒していることだろう。AEDAED。そんな飽食の時代の申し子です。
だから、日本からお客さんが来るときにお土産は?と聞かれると決まって日本のレトルト食品。金持ちに「君は安上がりだな」と言われても「ありがてぇっす!」と言って尻尾振っちゃう。だっておじさん日本食をくれるから。
過去の写真を漁ったらいくつか出てきたよ。
固形ルーや調味料に缶詰
ソース祭り
友人から柿の種を拝領する私
ベトナム料理も好きだよ。でも、なんというかな、料理っていうのは味以外に安心という要素もあると思うんだよね。現地にすきやができたとき、とびきりうまい訳でもないのに(失礼)自分でもびっくりするくらい通って、なんでかなーと思った。ら、白く煌々と輝く照明の下隅っこのテーブルでスマホを眺めながら黙々と食べているシチュエーションが、安心できたからだ。
シティボーイの性なんだと思う。いや、都会生活経験者なら共通か。
海外に住んでたというと、「じゃあ向こうの言葉話せたんでしょ」と聞かれるのは超絶あるある。その場にいたら自然に話せるなんてことはない、勉強あるのみ。もしかしたらそこには異国に放り込まれた日本人一人という想像があるのかもしれないが、とくにアジアの大都市なら日本人街が大抵ある。
とか言いながら、そんな期待?を無意識に感じ取りつつ、自分も土地に馴染んでいる方がクールだねと思ってしまっているのか、「ベトナムで暮らすなら毎日三食ベトナム料理であるべき」という考えがどこかに存在していた。そんな模範を思いながら、日本食を選んで食べる自分に甘えを感じるのだ。
気持ちは、戒律を守れず自分を責める堕落したダメ信者である(想像)。
その戒律の背景には、「ベトナム現地に馴染まず家と職場を往復して日本人街から出ない人たち」が気に入らない、という気持ちから来る反発心だったのかもしれない。なにを勝手に反発してるんだと思われるかもしれないが、そこは「いろいろ」あったのでお察しいただきたい。でも、そこに、なんの関係もない日本食を巻き込むのは、日本食関係者に対して甚だ失礼な話だ。
で、そんなしょうもない葛藤…「俺は日本生まれ日本育ちじゃん」「いやでもここベトナムじゃん」「いやでもやっぱりそこはベトナム料理で」…なんて右往左往を繰り返し、最終的に「誰も気にしてねぇよ」「俺は日本食が好きな日本人だよ」「ベトナム料理も食べたいときに食べるよ」という結論に至った。開き直った。その結果が前述のすきやの一人黙々ディナーである。
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所変わっておきのえらぶ島、ぼちぼち移住一周年。
帰国したのでもう日本食は山ほど食べられるでしょ?というと、半分正解半分間違い。もちろんこの島にはおいしいものがあれば腕の立つ料理人たちもいるが、何しろ離島。全国チェーン店は「マツモトキヨシ」の一店舗のみ。
なので、本土や沖縄本島へ行くとやはりチェーン店に足が向く。少し前なんて、これまで一度しか行ったことがないくせに、天下一品に入ったぞ。そもそもラーメンをあまり食べない人間なので、食べ慣れないたっぷりの脂がお腹をゆるくさせ、そのあとの長時間フェリーでけっこう困ったものだった。
って、よく考えたら、離れる直前のベトナムの方がよっぽど食べられたぞ!すきや…マクドナルド…一風堂…今だったらココイチだってあるし。住み始めた2011年末は、飲食チェーンはおろかコンビニもイオンもなかったのよ。この10年でベトナム都市部は日本人にとって便利になったんだなーしみじみ。
まぁ、島に飲食チェーン店がない代わりに、島料理を口にしたり、自炊をガンガンすることになってる。なにか欠ければなにか足る。食にしろ、新たな出会いを重視するなら離島にいる今くらいがちょうどいいのかもしれない。
あっ、ふと思ったんだけど、今、ホーチミンの路上の大衆食堂にでも瞬間移動して、フォーやぶっかけメシを食べたら、ちょっと安心する気がする。そう考えると、今の自分にとってのベトナム料理は、かつてベトナムに住んでいた頃の自分にとっての日本食に並ぶものに変わっているのかもしれない。
そう思うと時の流れを感じて大変感慨深いよね。
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前回走者、カタール在住、フクシマタケシさんの記事はこちら。
日本の恋しいものはなんと…タイトルで分かるので書いちゃいます。「徒歩での移動」、理由は暑いから。これにはびっくり。いや、暑くて歩けないとは聞いていたはずだけど、改めて聞くと無意識下の前提が覆っておもしろいですね。異国(日本以外)の醍醐味があらわれた内容だなーと思いました。
ちなみに私も島(というか田舎)に来て、都会に比べまったく歩かなくなりました。カタールほどでなくとも暑い。うーん、健康寿命縮みそう。梅雨明けたら歩くわ(ほんとか?)。と思ったらベトナムの方が歩いてなかった。
次回の走者は私と同じ、元!イスラエル在住がぅちゃんさんです。
前回テーマの記事はこちら。
この記事を読んだとき、ちょっと心配しましたよ!?個人的なことを書いてお金も経験値ももらえるのがライターのいいところだと思ってるからなー。でもそれも媒体次第。ちなみに最近、報道寄りのメディアに少し噛んでいて、へーこんな世界もあるんだなぁと勉強させてもらっているところです。
金額、文字数、写真の数、条件はいろいろあるけどまず楽しみたいですね。
ぜんぶうまい棒につぎこみます