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宇佐見りん - かか

かかという小説を読んだ。私設図書館もんさん @mon.library のおすすめ。※ネタバレ注意

ぬるっとして浮遊する文体がうねるようなそれは物語の最後までどうするのかと思っていたら最後までそれでいった。

かか。母親のこと。世界中の誰にでも母親がいる。それは少し不思議。なぜだろう。母親がいない人はいない。どんな形であれ、母親がいる。

母を愛するか。憎むか。愛し憎むか。そこにいたたまれなさは絡むか。

うーちゃんのかかは"はっきょう"した。うーちゃんは家を出た。誰もが何かを抱えていて、抱えきれない人がいた。溢れてしまう。溢れ、溢れ、涙を流しても声を荒げてもどうにも足りない。全世界のやるせなさを一身に引き受ける。

実際、個人とは全世界と同義でもあり得た。自分以外の誰の瞳からも世界を見つめることができない。わがままや愛しさは、そんな些細な落とし穴の中からこちらを覗く柔らかな罠。世界はこともなげにこちらを見ている。私たちはこともなげに、あまりにも多くの出来事を起こし続けている。宇宙は膨張する。それでも溢れてしまう。溢れて、溢れて、そうして精神が音を立てる。

うーちゃんのかかははっきょうした。うーちゃんはかかを身篭ろうとした。かかの一切を愛し尽くそうとした。不機嫌な再生。信仰。母性。神話。のような話。

#宇佐見りん #かか
#私設図書館もん

(2022.5.29)

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