新波ねる nel neenami
宇宙論というエッセイ・短編小説をまとめています。
書いた短編小説をまとめています。
書いた詩をまとめています。
書いたエッセイをまとめています。
描いた絵をまとめています。
僕の母方のおじいちゃんは、野良猫をめちゃくちゃいっぱい飼っていたので、僕ら家族はみんな、おじいちゃんのことを『猫じいちゃん』と呼んでいた。猫じいちゃんは埼玉県は草加市の団地に住んでいて、そして、とにかく煙草が好きだった。僕が家を訪ねると、おお、ようこそ、という感じで、とにかく煙草をぷかぷかと吹かしていた。しかも、銘柄は『わかば』で、大人になってからわかるのだけれど、わかばは、めちゃくちゃ、きつい。でも、猫じいちゃんは、別にむせるでもなく、とにかく、いつでも、わかばを吸いまくっ
「ねえ、僕は、とっても、君を、愛しているよ」 「ふうん、どのくらい?」 「世界がたった今から、平和になるくらい」 「おお、それはすごい」 「すごいかな?」 「だって、平和、でしょう? そんなの、夢、幻、そうでしょう?」 「うーん、そうかな」 「そうよ」 「うーん、そうかもしれない。でも、まあ、君を、愛しているんだ。それは、そのことは、わかってくれる?」 「うーん、どうかな。どうだろう。もし、ほんとうに、そうなら……」 「うん」 「わたしを、しあわせにして
「わあ、すごい!」 「なにが?」 「やさしい、革命だ!」 「ふーん。それっておいしいの?」 (2024.11.4) #なんのはなしですか
「答えのない話をしようか」 ユワリが言った。答えのない話? 「どれだけ考えても、どれだけ悩んでも、その最果てに、何もない、何も訪れない、そんな話」 どういうこと? 「優しく、ゆるやかに、話そうじゃないか、僕たちの未来、僕たちのすべて、僕たちの、その、どうしようもない、いたたまれない、真っ白な、かなしい、夢」 なんだろう、なんのことを話しているのだろう、ユワリは? 「行こうじゃないか、最果てへ、その先へ、夢へ、空虚へ、色彩へ、穴へ、柔らかさへ、滴りへ、僕らが生
明日、亀になると言われたので河原に行ってみた。亀になったら河原に行く気がしたから。 そうしたら田中が憂鬱そうに座り込んでいた。 「どうしたの?」と聞くと、田中は、 「俺、明日、シジミになるって言われたんだよね」と答える。 「そっか、田中もなんだ」 「えっ、お前も?」 「私は亀」 「亀かあ」 田中はしばらく宙を見つめていた。 「いいなあ、亀」 「そうかなあ」 「俺、シジミだぜ?」 「シジミかあ」 私たちは物思いにふけった。 「受験勉強とか、なんだったんだろうなあ」 「う
わたし、元気。わたし、わくわく。わたし、スマイル。 こうしてわたしの一日は始まる。ベッドから体を起こして、洗面所へ行って、顔を洗って歯磨きをして、あ、わたし、朝食は食べない、いっつも、それが普通、で、そのあと着替えて、化粧して、仕事へ。 わたし、るんるん。 満員電車、きらきら。改札で押してくるおじさん、おやおや。駅前のコンビニの無愛想な店員、あらあら。 大丈夫。みんな、輝いてるよ。 テレビニュースの中の戦争、ふむふむ。ネットニュースの中の殺人、はらはら。
優しくありたい。そう思う。 週末の上野駅で降りて美術館に向かう。今日の展示は縄文展。興味ある。見てみたかった。 その前に公園の中を散策する。そよそよと揺れる緑。揺らす風。陽の光。落ち葉。わたし。 縄文文化には昔から興味があった。一万数千年も戦争がなかったという。そんなこと、人間に可能なの? 素直に驚いた。 美術館でチケットを買う。結構並んでいた。そんなに多くの人が縄文に興味があるんだなと思う。でなければお金を払って展示を見たりなんかしないだろう。触れる。それ
「あいつ、気が狂ってるよ」 と賢治が言うので、あいつって誰? と聞くと、雄也のことだという。 「ずっと小説書いてるんだ。やばいよ。集中力。寝ないでやってるらしい。まじ、狂ってる」 「そうなんだ」 「昔から将来の夢が小説家だったもんな。いよいよ、やる気になってるみたい。いいことだとは思うけどさあ」 「うん」 「体には気を遣って欲しいよね」 「うむ」 雄也の気が狂っている。それはどういうことなんだろう? 正常ではない? でも、正常って何? そんなことを思っている
明治通りを歩いていたら裸体の女に出くわした。なんだそれ? 「すみません、あなた、捕まりますよ」 と、僕が言うと、 「大丈夫です、ご心配なく」 と言われたので余計に心配になって、 「いやいや、とりあえず僕の上着貸しましょうか」 と提案してみる。季節は冬。僕も寒いが仕方がない。 すると女は、 「裸体でいたいので」 という、韻を踏んでいるような回答をしたので、なおさら僕は心配になって、 「あなたねえ、そのままだと捕まりますし凍え死にますよ。日本だって
都内の事情に詳しいKが紹介してくれた賃貸物件は格安で快適そうだった。たしかに事情に詳しいだけはある。 僕はそれなりに深い思いでお礼を言って、Kが昔愛用していたナイキのスポーツシューズのリイシューをプレゼントした。Kは大層、喜んだ。僕も嬉しい気持ちにはなった。 都内での新生活。僕は心を弾ませて、意気揚々とアパートの階段を上がる。3階建ての2階が僕の部屋があるフロアだった。僕は新しい部屋の玄関の前で息を整え、鍵を入れ、ガチャリと回す。痛快な音がフロアに響く。 ドアを
「ねえ、嘘つかないでよ」 と言われた。嘘? なんの話だろう。 「君、いっつも嘘をつく」 嘘なんて、ついているつもりはない。本当に、一体、なんの話? 「私には、お見通しなんだからね」 困った話だ。覚えのないことで咎められている。本当に困った話だ。僕は言う。 「ねえ、僕、嘘なんてついてないんだけれど」 君は言う。 「それが嘘」 「これが嘘?」 もうどうにもならない話だな。わけがわからない。もうどうにもならない。 「嘘なんかじゃないよ」 「それが嘘」
渋谷駅前の雑踏の中、満は考えていた。とんでもなくユーモラスな、それでいてシリアスな、そんなアイディアがないかということを。 スクランブル交差点の歩行者用の信号機が赤から青に変わり、雑踏は荒波のように動き出した。十月に入ってもまだ日中は暑い、そんな秋の入口のこと。満は薄手のシャツとチノパンという装いで、荒波に揉まれながら反対の歩道にあるTSUTAYAの方へと歩いて行く。 満は渋谷に用事があるわけではなかった。ただ、いつか住んでいた街をもう一度、今の自分で眺めてみたかっ
絵:ずい 文:ねる ぼくの くつした あな あいてる さっき きづいた きづいてしまった はずかしい あなが あったら はいりたい となりの あのこは きづいてたかな むこうの あいつは きづいてたかな ああ しにたい どこかへ きえたい もう いやだ いきていたくない たかが くつした されど くつした ぼくの せかいは ぶらっくほーる ああ くるしい いきていたくない なみだの でない かなしみ ぼくは いっしょう このままだ この くらやみを
考えごとをしている。夕飯のことや、昨日読んだ村上春樹の小説のこと、週末の恋人とのデートのこと、母親が早く孫を抱きたいと言うこと、父親の早期退職のこと、妹の誕生日のこと、雲に反射した夕暮れが美しいこと、秋の虫の音が聞こえてくること、子供の頃に小さな嘘をついたこと、大人になってもわからないことがたくさんあること、無限のこと、永遠のこと、次元のこと、宇宙のこと、世界のこと、社会のこと、政治のこと、雰囲気のこと、仕事のこと、生活のこと、戦争のこと、先週ふと死について考えたこと、まだ
迷い込んだ人は迷い込んだので、なかなかに困ってしまいました。どうしよう。迷い込んでしまった。 出口はどこやらわからない。入口もどこだったかはてさて。困ってしまいました。 何やら不思議な迷いの世界。思いと思いがぶつかって、壊れて崩れて補って、心はめくるめく万華鏡。はたまた密林、大海原。 (僕はどうなってしまうのだろう) あちらの国では戦争が、こちらの国では紛争が、君の心には革命が。 迷いの果てに行き着くところは、一体どんなところでしょう? それは君が、自
危ういふりをして 掻き切る 樹海の精霊 (金輪際、生命は) 興味のないそぶりで 荒ぶる 時代の神々 (死して、尚) 確かな手応え 怒[いか]れ 狂え 踊らされる宇宙 一切合切の 譲渡 遍歴 不平等 (生きて、尚) 集える魂 撹乱 (2024.8.31)