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君が恋しい
海辺の道をサンダルで歩く。暑くて暑くて仕方がない。汗が滴り落ちる。今日の気温は34度だという。真夏日だとネットニュースが伝えていた。
わたしは君とのデートを楽しみにしている。だから砂埃や砂利が海の水気や汗で足の指先に絡んでも嫌な気はしない。あとで洗えばいいのだし。細かな砂粒はわたしの指先を黄土色のアートのように塗り替える。そんな風に思える今日という日が好きだ。
今日、わたしは君に告白しようと思っている。大切な君。想いは伝わるだろうか。3回目のデートで告白するのがベターだと何かの雑誌で読んだから、それに素直に従ってみようと思っている。わたしって素直なんだよ、案外。
君の風になびく黒髪が好きだ。白い肌が好きだ。優しさが好きだ。シネマの中のミューズみたいだ。そんな想いを伝えられたならいい。
君の小ぶりな胸も好きだ。抱きしめたら君を象る骨格を感じられそうな華奢な身体も。抱きしめたいよ、本当のところ。
キスだってしたい。優しいキスでいい。それ以上は望まない。柔らかくて、サイダーやレモンの味がしそうなキス。そんなことを考えていると、わたしの子宮は疼き出す。
わたしはなんて告白すればいいのだろう? いろいろとイメージトレーニングはしているのだけれど、君の反応が読めないから、いつからか将棋を指しているような気持ちになってしまって、気づいたら戦略めいたことを考え始めてしまう。ちがう。わたしが伝えたいのは戦略じゃなくてこの淡い気持ちなのだ。
君はわたしを好きでいてくれているのかな。そうでなければ会ってもくれないと思うけれど、それはわたしの自惚れかもしれない。ただの友達? おそらく、大部分はそうなのだろう。
君は驚くだろうか、わたしの恋心を知ったとき。今のところ、少し普通ではないものな。わたしが君を好きになるなんて。付き合いたいと思うなんて。
君に彼氏がいないことは知っている。だから可能性はゼロではないのだ。そんな微かな期待を胸に、わたしは君との待ち合わせ場所に向かっている。あっ、今、心地よい風が吹いた。これは良い兆しな気がする。そんな気がする。
わたしは君とセックスがしたいんじゃないよ。君とパートナーになりたいだけ。君の小ぶりな手を、細い指先を優しく握りしめたいだけ。君の悲しさを受け止めたいだけ。互いの嬉しさを喜びたいだけ。
これは愛なのかな。わたしにはまだよくわからないけれど、少なくともこれは恋なのだ。心がときめく恋。君と会って、話して、手を繋いで、散歩する。ウィンドウショッピングだってする。SNSで話題のおしゃれなカフェにだって行く。海岸沿いをゆっくり歩く。そういうのがいい。
もうすぐ君との待ち合わせ時間。君はどんな服装で来るのかな。いつもの麦わら帽子、被っているかな。あれ、とっても似合っているんだよな。
あっ、待ち合わせ場所に君がいる。いつもの麦わら帽子とオレンジ色のワンピース。素敵だなあと思う。この両手では抱えきれないほどに素敵だなあと思う。素直な気持ち。
わたしは今日、君に告白する。夏のせいじゃない。わたしのすべて。わたしの心の奥底がそれを求めている。緊張もする。それでも大丈夫。傷つく覚悟だってできている。
好きですと伝えよう。デートの終わりがいいかな。少し涼しくなった夕暮れ、夜の入り口。帰り際。はたまた陽が沈んだ夜の静けさの中で。それはその時のムードに任せよう。一度きりの瞬間を大切にしよう。わたしなら大丈夫。そうやって自分に言い聞かす。傷つく覚悟だってできている。
君が手を振っている。会いにきたよ。君に会いにきたんだよ。今のわたしのすべて。欲望とは隔たりのある情動。ささやかで、柔らかな波のような感情。自然。
無邪気。
(2024.4.14)
[BGM:あいみょん - マリーゴールド]
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